第113話「呪縛からの解放」
早速、ネガロンスが青紫色の魔法弾を大量に撃って来た。
ティミレッジとディンフルがバリアを張るが威力が強すぎるため、すぐに壊れてしまった。
「一気に片を付けるぞ!」
ディンフル、フィトラグス、オプダットが素早く移動していると、ネガロンスが今度は彼らへ向かって黒いモヤを出した。
モヤはウィムーダ、セスフィア、パールの姿へ変わって行った。
「あなたたちの大切な人たちよ。攻撃出来るかしら?」動揺する彼らへ向かって、ネガロンスが不敵に笑う。
ところが次の瞬間、三人はそれぞれの戦法で大切な人の姿をしたアンデッドを消してしまった。
これには、彼女も再び驚きの表情を浮かべた。
「な、何?! 大切な人たちなんでしょう?!」
「そうだ! 我らの大事な者たちだ!」
「だからこそ、ニセモノはすぐにわかるんだ!」
「それに、夢の中でたっぷりしゃべったから、もうお腹いっぱいなんだよ!」
ディンフル、フィトラグス、オプダットは負けじと言い返した。
今の作戦は彼らを戦意喪失させる目的で行ったが、逆に怒らせてしまった。
「故人を冒涜するな!!」
声をそろえ、三人はそれぞれの必殺技でアンデッドたちを一掃してしまった。
辺りからアンデッドがいなくなった途端、オプダットが我に返り「“ぼーとく”って何だ?」と意味を尋ねた。
「知らずに使ってたのかよ……」
「逆に何故、言葉だけは知っていた……?」
フィトラグスとディンフルも我に返り、オプダットへ呆れ果てるのであった。
「おのれぇ!!」アンデッドを消され、ネガロンスは怒りから咆哮のような叫び声を上げた。
「何度やっても同じよ! 今度アンデッドを出したら、私の必殺技で消してあげるわ!」
激怒するネガロンスに怯えることなく、ソールネムが強気に言い放った。
その後ろでティミレッジが杖を構えるが、浄化技を使おうとしなかった。
「どうしたの?」見かねたユアが声を掛けた。
「あの人を浄化したいけど……自信がないんだ」
「どうして?」
「さっきから、ずっとやってたけど全然効かないんだ。ネガロンスも抵抗するし、パワーアップしているから余計に……」
ティミレッジはジュエルで強化しても、途中から効かなかったり消されたりしたため、すっかり自信を失っていた。
「大丈夫! ティミーなら出来るよ! 今度は私が力を貸すから!」
「ユアちゃん……?」
「私が戦えない時からずっと守ってくれたよね? 洞窟を出た後も、邪龍を倒しやすいようにサポートもしてくれてたのに、私からは恩返し出来てないからさ」
「いいよ、恩返しなんて。僕は自分がしたいことをしているだけだから」
「じゃあ、私からもしたいことをさせて。ティミーに力を貸したい!」
ユアの言葉が合図になったかのように、チアーズ・ワンドのライト部分が青色に光り出した。
「これって、まさか?!」
レジメルス、アジュシーラ戦で見た光景をティミレッジは思い出していた。
チアーズ・ワンドの先端から出た青い光は、彼が持つ杖の窪みにはまるジュエルへ注がれた。
「僕、やってみるよ!」自信が湧いたらしく、ティミレッジは明るく言った。
早速彼は、ネガロンスへ向かって杖を構えた。
気配を感じた相手がこちらを睨み、再び魔法弾を数発撃って来た。すかさずソールネムがバリアを張ってくれたので、ダメージは無かった。
だが、やはりそのバリアもあっという間に壊れたため、すぐにでも浄化しなければならなかった。
「もう、あなたの好きにはさせない! 本来の姿に戻るんだ!」
「黙れぇぇぇ!!」
怒り狂うネガロンス。このまま放置すると、レジメルスやアジュシーラのように暴走する恐れがある。
ティミレッジは仲間たちと、目の前の彼女を救うためにも新しい浄化技を編み出した。
「エンブレイス・リリーヴ・プリフィケーション!!」
杖から出た水色と金色の光がネガロンスを包み込み、その上から白い光がシャワーのように降り注いだ。
拘束され、大量の光を浴びた彼女は断末魔のような叫びを上げた。
光が止むと、浄化技を受けた場所に一人の女性が倒れていた。
その女性は、ウェーブ掛かった灰色の長い髪で、前髪を青い髪飾りで留めていた。身長はネガロンスより少し小さく、メイクも薄かったため、前とは雰囲気がまったく変わっていた。
「も、もしかして、この人って……?」
「ネガロンスの本当の姿よ」
疑問を抱くユアへソールネムが冷静に答えると、他の者は驚きの声を上げた。
この後、一行は本来のネガロンスを森の外まで運んだ。
ソールネムが設置したジェムが機能しており魔物や邪龍は一切出ず、楽に運び出せた。一行も戦いの疲労があったため、ちょうど良かった。
森を出ると、ソールネムから連絡を受けた町民が迎えに来た。ネガロンスはそのまま彼らへ保護されるのであった。
◇
迷わせの森攻略の翌日。
ユアたち五人はイポンダートに呼び出され、インベクル王国へ戻った。
「お前たちの様子を見ておった。今回は、本当にご苦労であった」
疲れがまだ残っているのか、一行は労われても誰も返事が出来なかった。
ディンフルですら、今回は危うかったのだ。
「これでまた、ジュエルの力を一つ使いこなせるようになったのう」
沈む表情の一行を見て、イポンダートが励ますように言った。
ジュエルを持つフィトラグス、ティミレッジ、オプダットはそれぞれ新しい力を使えるようになった。
しかしそれは、彼らの力だけではなかった。
「僕たちが新しい力を使えるようになったのは、ユアちゃんのおかげなんです」
「ユアのチアーズ・ワンドから出た光が、俺たちのジュエルと共鳴したんだ」
「前より、めちゃくちゃ強くなった気がするぜ! でも、何でなんだ?」
最後にオプダットが疑問をぶつけると、イポンダートは答えた。
「チアーズ・ワンドと共鳴する前、心の中で何か思っていたのではないか?」
「心の中で……? 今日の晩飯のことかな?」
「もっと重要なことじゃっ! 例えば、“暴走したレジメルスを止めたい”とか思っておったんじゃないか?」オプダットの間の抜けた解答に、イポンダートが声を荒げた後でヒントを与えた。
「あぁ、それは思ったかも!」
オプダットとユアが声をそろえた。
今ので全員は確信した。チアーズ・ワンドとそれぞれのジュエルが共鳴出来たのは、レジメルス、アジュシーラ、ネガロンスを助けたいというユアと彼らの思いが重なったためだったのだ。
例えば最初の戦いでは、オプダットとユアは同時に「レジメルスを助けたい」と心の底で思っていた。二人の思いが通じ合ったことから、チアーズ・ワンドとジュエルが共鳴したのだ。
「ユアちゃんと思いを通じ合わせることで力を強化出来るなんて、チアーズ・ワンドってすごいですね……」
ティミレッジは改めて、老師が渡したチアーズ・ワンドの威力に感嘆するのであった。
フィトラグスとオプダットも、新しい必殺技と何でも出来るチアーズ・ワンドがあれば、この先も乗り越えられると希望を持っていた。
ところが、ディンフルのみ浮かない表情だった。
「どうしたの?」と尋ねようとすると、彼から「ユア」と名前を呼ばれた。
「チアーズ・ワンドを置いて、リアリティアへ帰れ」
部屋の空気が凍り付いた。
これには予想外らしく、イポンダートも思わず固まってしまった。
「な、何で……?」
「お前も見ただろう? 今回の戦いは危険だった。お前がいなければ俺は一生、夢の中に閉じ込められていた。フィトラグスらもネガロンスの妖気で、アンデットになっていたかもしれない」
「だからって、何でユアが帰らなきゃいけないんだ? 逆だろ! ユアがいたから俺らは助かったんだ! 本来なら感謝するべきだろ!」
「だから、連れて行きたくないのだ!!」
フィトラグスが怒鳴ると、ディンフルも彼を上回るほどの声量で怒号を上げた。
「今回でわかったはずだ、戦いは危ないものだと! 邪龍を倒す手伝いをしてくれただけで充分だ。敵側は、今やクルエグムとヴィヘイトルの二人のみ。これから、もっと激戦が予想される。人数が減ることで、奴らが手を打たぬことは考えられん。邪龍退治までは許したが、さすがにヴィヘイトル戦への参戦は許可出来ぬ。クルエグムもお前を狙っているのだ。危険すぎる」
ディンフルからの説明に、ユア、ティミレッジ、オプダットは何も言えなかった。
フィトラグスも納得したのか、言葉をつぐんでしまった。
「動画を上げた者たちは逮捕されたのだろう? あれから時間は経っている。前よりは過ごしやすくなっているはずだ。だから安心して、リアリティアへ帰れ。入試の勉強もしなければならぬだろう」
ユアは思い出していた。
フィーヴェで参戦したのは、リアリティアで暮らしにくくなったせいもあったのだ。
だがディンフルの言うように、きっかけを作った者たちは捕まり時間も経っているため、ユアのことはもう忘れ去られているかもしれなかった。
それでも、ユアは首を縦に振らなかった。
次にディンフルはイポンダートを呼んだ。
「チアーズ・ワンドはユアにしか扱えぬらしいが、その力を他人へ移行することも出来るだろう? これまで不可能を可能に変えて来たそちらなら、難しいことではない筈」
「知っておったか。うむ、可能じゃ。ユアさえ許せば、チアーズ・ワンドを他の者に扱わせても良い」
イポンダートはあっさりとした口調で答えた後で「ただし、負担がある」と付け足した。
「負担? やはり、リスクがあるか……。それは何だ?」
ディンフルが尋ねると、イポンダートは重い口調で言い出した。
「移行の魔法は、魔力に加えて体力の消費が非常に激しい。あまりのキツさに体重まで激減してしまうのじゃ」
「そんなに……? 誰に負担が掛かる?」
ディンフルが再び聞くと、イポンダートは今度は表情まで暗くなった。
「わしじゃ」
彼が重々しく答えると、五人はそろって目を点にした。
「だから、出来れば使いたくないのじゃ……」
「構わぬ。私へ力を移してくれ」
老師の重々しいトーンにもかかわらず、ディンフルは変わらず冷静に頼み続けた。
「お~い! 話を聞いていたか?!」
「聞いた上で判断した」
「わしの体重が減るのじゃぞ?!」
「わかっている。そちらなら大丈夫だ」
「わしの命を軽視しておるか?!」
「そちらなら、命がいくらでもあるほど頑丈だろう」
ディンフルが心配をせずに話を進めるため、イポンダートも顔を真っ赤にして激怒した。
フィトラグスらはそんな二人を呆れて見つめていた。
その中でユアだけ浮かない表情で、チアーズ・ワンドを強く握りしめるのであった。




