第107話「再会」
ソールネムがジェムを設置しに行っている間、ユアたち五人は森の外で待っていた。
だが、フィトラグスら及びプレイヤーにトラウマを植え付けた森が気になるディンフルは、単身で歩みを進めて行った。
「ディン様?!」急いでユアたちがその後を追った。
◇
ディンフルの歩みは速く、あっという間に四方八方が木々に覆われたエリアまで来てしまった。
そこは、昼間でも薄暗かった。
「くっっっら! 出ようよ~。ソールネムがジェムで何とかしてくれるからさ……」
「問題ない。むしろ、この暗さで戦う方が訓練になる」
ユアの制止も聞かず、ディンフルは暗い中をどんどん歩いて行く。
「本当に危ないって!」
「ディンフルさん、戻りましょう!」
オプダットとティミレッジも止めに入ったその時、ディンフルの真ん前に巨大な灰色のスライムが現れた。
しかし、あっという間に倒されてしまった。現れた瞬間にディンフルが目にも止まらぬ速さで大剣を振ったのだった。
「速っ!」
「私をナメてもらっては困るな」
得意げに言いながらディンフルはどんどん森の奥まで向かって行った。
今の戦いぶりを見た四人も「ディンフルがいるならいいか」と止めるのを諦め、彼について行くことにした。
「でも、あまり先に行くと、ソールネムさんとはぐれちゃうよ」
心配になったティミレッジは途中で立ち止まり、通信でソールネムへ今いる場所を伝えておいた。
ディンフルの歩みも速く、現れた敵を一人で瞬殺してしまうため、五人は奥へ奥へと入って行った。
「ソールネムが来る前に、女の人見つけ出せそうだな」
オプダットが冗談っぽく言ったところで、ディンフルが立ち止まった。
魔物がいるのかと思ったが、そこには一人の女性がこちらに背を向けて立っていた。
「え……? 本当に見つけちまったか?」
先ほど言ったオプダット本人は、予想が当たった驚きで思わず血の気が引いてしまった。
「あの……半年前、この森で行方不明になった方でしょうか?」
ユアが尋ねると、女性は振り返った。
すると、ディンフルのみが息をのんだ。
「知り合いか?」
彼の反応を見たフィトラグスが尋ねると、ディンフルの顔は何故か青ざめていた。
「どうした?!」
「お前は……」
ディンフルはフィトラグスへは向かず、目の前の女性を見つめ続けていた。
女性は濃いピンク色の長い髪を三つ編みにし、片方に下げていた。
「ウィムーダ……?」
ディンフルの口から出た言葉に一同は言葉を失った。ウィムーダは彼の恋人で、人間たちのリンチによりすでに亡くなっていた。
もちろん生きているはずがないので、ユアたちは他人の空似だと思った。
しかし、ディンフルはまるで彼女が戻って来たかのように相手を見つめていた。
「髪型や顔に服装と言い、間違いなくウィムーダだ……」
ディンフルが一歩踏み出した瞬間、地面から黒いモヤが現れ、ユアたちを包み始めた。
「な、何だ?!」
モヤは、あっという間に五人を包んでしまった。
◇
目を開けると、フィトラグスはインベクル王国の自室にいた。
「あれ? 俺、何で城にいるんだ……?」
ドアがノックされ、兵士の一人が「失礼いたします」と入って来た。
その者はフィトラグスが十代の頃から仕えていた兵士だが、今日はいつもより若く見えた。
「イメチェンしたのか? いつもより若々しいじゃないか」
フィトラグスがからかうように言うと、兵士は目を点にした。
「はい……? いつもと同じですが? それよりも、いらっしゃいましたよ」
「誰が?」
「誰って、セスフィア様ですよ」
フィトラグスは耳を疑った。
やって来たというセスフィアは彼の元婚約者で、フィトラグスが十五の時に亡くなっていた。
「じ、冗談はやめてくれ! セスフィアはもう死んだじゃないか!」
「セスフィア様がお亡くなりに? 何をおっしゃっているのですか?」
「そっちこそ、何を言っている……?」
フィトラグスが理解出来ないままでいると、ダトリンドが部屋に入って来た。
「フィトラグス! セスフィア様を待たせるでない!」
時間に厳しい国王が息子を怒鳴りつけると、フィトラグスは「はっ……」と小さく返事をし、急いで部屋を出た。
廊下を早歩きしながら考えた。生真面目な父は冗談やウソを言ったりしない。本当にセスフィアがこの城に来ているのだと。
同時に、報告に来た兵士だけでなく、ダトリンドもいつもより若々しく感じたのであった。
客室に行くと、数週間前に会った新しい婚約者・ロアリィと似た顔がそこにあった。
「久しぶり、フィトラグス!」
「セスフィア……?」
常に敬語でガチガチに緊張していたロアリィと違い、タメ口で満面の笑みを浮かべるセスフィア。フィトラグスが本当に会いたかった顔がそこにあった。
思わず棒立ちで見つめ続けていると、相手の方から話しかけてきた。
「どうしたの? 顔が強張っているけど?」
「いや……」
彼女はもういないはずだった。だが目の前にいるのは紛れもなく、セスフィアそのものだった。
フィトラグスは泣き出しそうになったが、ぐっと堪え、元婚約者との再会を喜ぶのであった。
◇
目を覚ますと、白い天井があった。
「何だ、ここ……?」発した自分の声が妙に高かった。
「あれ? 俺の声か?!」
思わず飛び起きると、前方と左右にカーテンが閉められていた。
オプダットは思い出していた。白い天井、ベッドの周りに仕切りのようなカーテンがあるのは、病室のものだと。
「お、俺、また入院したのか……?」
震え上がっていると、「オプダット!」と名前を呼ぶ声と共にカーテンが開いた。
黄緑色の短髪の少年がいた。オプダットはその者に見覚えがあった。
「パール?!」
「よかった! 具合はどうだ?」
パールと呼ばれたその少年の緊迫していた顔が、安堵へと変わっていった。
「お前、親父さんの真似して木登りして、落っこちて気絶したんだよ。大丈夫か?」
オプダットはまた思い出していた。
彼の父・ボレンフドは鍛錬を欠かさないため、病院の中庭の木に登っていた。
それを真似してオプダットも療養中にもかかわらず登ってみせた。が、上手くいかず落ちてしまったことを。
そして、ベッドの横の棚についている鏡に自分の顔が映った。そこにいたのは、二十二歳ではなく子供の時のオプダットだった。
「お、俺、タイムスリッパしたのか?」
「それを言うなら、“タイムスリップ”な! スリッパを履いて時空を越えるつもりか?」
子供に戻っても言い間違えるオプダットを、パールは笑いながら訂正した。
手慣れている辺り、言い間違いはこの時からあったようだ。
「それより、タイムスリップってどういうことだ? お前はずっと、ここにいるだろ?」
「ち、違うんだよ、パール! 俺、未来を見てきたんだ! お前、チャロナグの祠へ行く前に死んじまうんだよ!」
オプダットが見て来た未来を話すと、パールは信じられないような顔をした。
「パールが死ぬわけねぇだろ!!」
怒鳴り声と共に、茶髪のツンツンヘアの少年が入って来た。
当時、オプダットとまだ仲が良かった頃のクロウズだ。
「クロウズ?!」オプダットは目を輝かせて彼へ近付いた。
「お前も小さくなったんだな! 今と大違いだぜ!」
「は……?」
クロウズは身の毛がよだち、思わずオプダットから距離を取った。
「何だよ?! お前、そんなに明るかったか?」
「そういえばオプダット、いつもと違うよな……」
クロウズは気味悪がり、パールはきょとんとしていた。
当時のオプダットはまだ人見知りをするおとなしい少年で、今みたいに陽気で友達想いになったのは、アティントスに病気を治してもらった後。パールが亡くなった後でもあった。
そんなことを忘れて、オプダットは現在と同じ調子でしゃべってしまったのだ。
「悪い悪い! 俺、すっかり明るくなったんだ! これも全部、アティントス先生のおかげだぜ!」
引き続き明るく話すが、二人はさらに信じられないものを見るような目をした。
「アティントスって、あの名医の? お前、あの人に診察してもらったのか? 来るわけないだろ、こんなド田舎にあんなすごい先生が!」パールは苦笑いしながら否定した。
「来るんだよ! 俺、診てもらって病気も治してもらったし学校にも行けて、町を代表する武闘家にもなれたんだよ! 超龍だって倒したんだぞ!」
「バカ言うな!!」
オプダットが弁明していると、クロウズが遮るように大声を出した。
「アティントス先生がお前みたいなバカ、相手にするわけないだろ! そもそもお前、今、入院してんじゃねーか! 病気だって治る気配も無いしよ! 学校に行けて、町を代表する武闘家になる? ふざけんな! 鍛錬も受けたことがない貧弱もんが、武闘家になれるわけねぇだろ! 今から治して鍛えても遅すぎるんだよ! あと、大昔に封印された超龍を倒したってのも夢に決まってんだろ!! 寝言は寝て言え!」
クロウズは吐き捨てると、病室を出て行ってしまった。
「クロウズ……?」
「お前が変だからビックリしてんだよ。それにお前が木から落ちた後、俺、あいつとの約束忘れてしまったんだ。だから怒ってんだよ……」
パールはオプダットをフォローしつつも、クロウズの件を申し訳なさそうに告げた。
オプダットはさらに思い出していた。
自身が木登りした後で、パールは彼との約束を忘れてしまい、クロウズを長時間待たせたことを。そして、この時から彼の態度も変わっていったことを。
オプダットは未来の出来事を話したことを後悔するのであった。




