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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第4章 一味、分裂
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第104話「過去~アジュシーラ~」

 号泣したアジュシーラはやがて、泣き疲れて眠ってしまった。

 その間に、彼は昔の夢を見た。



 アジュシーラは生まれてすぐに実の親と別れ、物心ついた時には別の家族の子供になっていた。

 彼らもディファートで、一人で泣く赤子のアジュシーラを引き取って育ててくれたのだ。


 その家族はみんな明るく、血の繋がっていない彼を本当の子のように受け入れ、額の目についても同じディファートだからか気にしないでいてくれた。


 そして、家族は子だくさんだった。

 アジュシーラの上に歳の離れた兄と姉、下に双子がいた。きょうだいもみんな血が繋がっておらず、ディファートの両親に引き取られていたのだ。

 生活は裕福とは言えなかったが、みんな仲良しで幸せだった。


 アジュシーラは双子の世話をするのが好きだった。兄と姉が友人と遊んでいても、双子がいたため寂しくは無かったし、彼らも自分に懐いていた。

 アジュシーラが年下の子供を放っておけないのは、この時の経験からだった。


 父からは酒の肴として食べていたものをよくもらっていた。

「子供には味が濃すぎる!」と母が怒っても、父と二人でお構いなしだった。この関係で、漬け物を好きになったのである。



 だが、平和な日々にはすぐに終止符が打たれた。

 アジュシーラが十歳の頃、ディファートが家族を作って暮らしていることがばれ、人間の討伐隊が襲って来たのだ。


 両親は子供たちの前で逮捕され、きょうだいたちもそれぞれ違う施設へ収容された。

 アジュシーラも大好きだった双子と離され、入った施設では毎日泣きながら暮らした。


 その施設には人間も利用しており、額の目のことでもいじめられていたが、それも長くは続かなかった。

 何故なら、アジュシーラは一度泣くとなかなか泣き止まなかったので、次第に加害者たちが引いてしまったのだ。

「こいつを泣かせるとうるさいし、面倒くさい」と思われ、直接いじめられることは無くなり、人間からは誰も近寄らなくなった。


 だが、悪いことばかりではなく、新しい出会いもあった。

 キブリッドという名の七歳のディファートがおり、その子と仲良くなった。

 アジュシーラは双子の面倒を見ていた経験から、彼にも優しく接したしキブリッドも懐いてくれた。家族と離れ、施設に入れられた寂しさが彼との触れ合いで紛れるのであった。


 キブリッドはおとなしくて心優しい少年だった。

 それでも友達同士がケンカをしていると、「すぐに謝って、仲直りして!」「ぼく、仲良くしているみんなが好きなんだ」と言うのが口癖だった。

 ノティザの似たような言葉で泣いた時、彼の台詞を思い出していたのだ。



 だが、そんなキブリッドとの生活も長くは続かなかった。

 アジュシーラが十二になった時、二人で道を歩いていると暴走した馬車が突っ込んで来た。

 気付いた瞬間、すかさずキブリッドを庇うも、アジュシーラのみ生き残った。

 庇っても救えなかった悔しさと大切な友人を亡くした悲しみから、彼はまた泣き続けるのであった。


 馬車に乗っていたのは人間で、「ディファートの子供がいる」と聞き、わざと馬を暴走させ轢き殺そうと企んだのである。

 それを知ったアジュシーラは学校へ行く振りをして、轢き逃げした犯人を探し始めた。


 町に出た時、その犯人たちを見つけた。

 アジュシーラは覚えていた魔法を使って仇を取ろうとしたが、子供が覚えられる魔法は大人ほど強力なものではなく、ダメージもろくに与えられずに反撃されてしまった。

 さらに額に目があることからバケモノ扱いまでされ、再び泣かされるのであった。


 そんな時に現れたのがクルエグムである。

 加害者の「額に目があるバケモノ」という台詞で、やられている相手がディファートだとすぐに判断し、助けに来たのだ。


 当時からすでに彼の戦闘力は備わっており、人間の大人たちを一掃してしまった。

 仇討ちは出来たが、アジュシーラは自分で倒せなかった悔しさから、またしばらく涙が止まらなかった。


 泣き続けていると、クルエグムから怒鳴られてしまった。

「もう大丈夫なんだから、いつまでも泣いてんじゃねぇ! 泣いてる間にも時間は流れてんだ! 亡くなった弟代わりの分も生きるなら、その時間ムダにしてんじゃねぇ!」と。


 この時、アジュシーラは衝撃を受けた。何故なら、泣いている時に怒られたのは初めてだったからだ。

 いじめてきた相手ですら、アジュシーラがいつまでも泣いていると諦めて去って行き、しまいには無視されるようになっていた。

 泣き続ければどうにかなると考えたことはなかったが、泣く以外の行動も大切だとこの時、クルエグムから教えられた気がした。ただ、泣き虫は元からある性格なので、簡単には直らないが……。


 この時のクルエグムはちょうどディンフルと出会ったばかりで人間への復讐を始めており、同時に仲間も探していた。

 そのこともあって、アジュシーラを助けたのであった。


 彼の能力に目をつけたクルエグムが連れて帰ると、ディンフルもこの力を面白く感じ、仲間にすることに決めた。


 一方、アジュシーラ本人も魔王の仲間入りに賛同した。施設にはもうほとんど人間しかおらず、居場所はないに等しかったからだ。

 こうして、彼は家出同然で古城に住み着くのであった。



 目が覚めると、ベッドの上にいた。


「気が付かれたようです」


 眠っている自分をずっと見張っていた兵士が、明後日の方向へ声を掛けた。

 すると、兵士が呼び掛けた方向からフィトラグスが顔を覗かせた。


「具合はどうだ?」

「……ここは?」


 アジュシーラは質問には答えず、逆に聞き返した。

 相手から目を逸らし部屋を見回していると、白い壁に天井と窓と殺風景な光景が広がっていた。城内ではなく病室に思えた。


「インベクル留置所の医務室だ。気が付くまでここに置いてもらって、目が覚めたら取り調べを行うことになっている」


 フィトラグスが説明すると、アジュシーラは「あ、そ」と簡単に返事をした。逃げる素振りも見られない。

 もう自分は逮捕されたので、逃げてもムダだと感じていたのだ。


 アジュシーラ自身もわかっていた。もうヴィヘイトル一味には居場所が無いことを。

 回復の約束をしていたネガロンスは裏切り、自身を見捨てて行った。

 そんな彼女に命令したのはヴィヘイトル。彼は、アジュシーラが人間のノティザと仲良くしていることを、とうに知っていた。


 ヴィヘイトルを崇拝しているクルエグムも、もう仲間として迎えてくれないのは確実だった。



「オイラちゃん!」


 聞き覚えのある声がした。

 医務室にノティザとユアたち四人が入って来たのだ。


「ノティザ。それに、お前たちも……?」


 一行は、アジュシーラがいるベッドの前までやって来た。


「具合はどうだ?」


 先ほど、フィトラグスと同じ質問をディンフルがした。

 よく見ると、彼だけでなくユアたちも心配そうな顔でこちらを見つめていた。

 その中で唯一、ノティザは目をキラキラさせてアジュシーラを見ていた。再会出来たことがよほど嬉しいのだろう。


「な、何で、ここにいるの? 修行は?」


 やはり質問には答えず、アジュシーラはノティザを心配して聞き返した。


「パパから言われたの! オイラちゃんが目をさますまで、国にいてもいいって!」

「ダトリンド国王が許したの……?」

「今回は特別だ。剣術や勉学なら国内でも出来るし、島からも迎えを頼んでいる。何より、君が心配でノッティーが修行に集中出来なくなるんだ」


 あっけに取られていると、代わりにフィトラグスが説明した。

 アジュシーラは自身のために、国王まで許可を出してくれたのが信じられなかった。


「何でオイラのために、そこまで……?」

「だって、オイラちゃんは、ともだちだから!」

「ノティザが言いたいことはわかる。でも、フィトラグス一行が来るのがわからない。オイラ、お前たちを傷つけたんだぞ?」

「俺はノッティーの付き添いだ。弟に万が一のことがあったら困るからな。それに……」


 フィトラグスが途中まで言うと、他の仲間たちが口を開いた。


「私たち、あなたに助かって欲しいの」

「仲間に見捨てられて、目の前で弱っていくのを黙って見てられなかったんだ」

「俺らは()()()()だからな!」

「“英雄”だ!!」


 ユア、ティミレッジ、オプダットが優しい言葉を掛けた。

 だが、やはりオプダットが言い間違えてしまい、最後にディンフルが訂正し「いい加減に覚えろ!」と怒鳴りつけた。


「それに、お前には罰を受けてもらわねばなるまい」ディンフルがアジュシーラへ向き合った。

「この留置所にはレジメルスもいる。あいつはヴィへイトルを“まだ尊敬している”と言ってはいるが、組織に居場所が無いことも理解している。罰は受けるつもりでいるようだ」


 レジメルスの名前を聞き、アジュシーラは息をのんだ。

 思えば、彼は例の石を持ったがために命と引き換えに強力な力を得た。そのきっかけを作ったのは、ヴィへイトルへ過去をばらしたアジュシーラ自身だった。


 レジメルスがいなくなってからは、誰もが彼を探しに行こうとせず、ヴィへイトルですら命令を下さなかった。

 アジュシーラはこの戦いで仲間から見捨てられる恐怖を、身を持って思い知った。そして、自分がその立場になって初めて、レジメルスの気持ちがわかったのだ。


 そんなことを考えていると、フィトラグスが目の前で跪いた。


「あと……ごめんな」


 突然謝られ、アジュシーラは目を丸くした。


「ハシゴから落ちたノッティーを助けてくれたんだよな? その後も、修行を嫌がるノッティーを連れ出しただけで、誘拐するつもりじゃなかったんだよな? 島にいる時、勝手に決めつけてしまって申し訳なかった」


 フィトラグスは島での出来事を振り返り、頭を下げて謝罪した。


「今回は確実に誘拐したし、危ない目にも遭わせたから謝らなくていいよ」


 アジュシーラも子供ながらに気を遣い、謝罪を拒絶した。

 それでもフィトラグスは「謝らないのは正義に反している」と譲らなかった。



 この後、取り調べを受けた末にレジメルスと同じ部屋に入れられることになった。

 フィトラグスが先頭を歩き、アジュシーラを部屋まで連れて行った。


 罪を犯した者がいるという理由で、七つのノティザは入れなかった。

「またあそぼうね!」と約束すると、彼は迎えに来たカディゲンと共にインベクル島へ帰って行ってしまった。


 アジュシーラは彼の笑顔をもう一度見るためにも、罪を償う決心を固めるのであった。

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― 新着の感想 ―
当然だけどなかなかに辛い過去… でもこれからはそんなに悪い事にはならないと思いたい ノッテイー始め王国サイドとは何とか良い形に落ち着けそうだ それと一か所、少しだけひっかかった表現がありまして………
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