第101話「ウィザードフォーム」
「早速、インベクル島へ飛ぶぞ!」
緊急事態なので、ディンフルは魔法でノティザがいるインベクル島へ飛ぼうとした。
そこへ、またフィトラグスの持つ通信機が甲高い音で鳴った。彼は仲間たちを待たせ、通信に対応した。
「……何だって?」
その通信に再び驚きの表情を浮かべると、フィトラグスは少し話した後で通信機を切った。
「城からだ。アジュシーラから俺ら宛てに手紙が来たらしい」
ノティザがいなくなった報告と同じぐらい、衝撃の知らせだった。
ディンフルも島へ飛ぶのはやめて、インベクル王国へ四人を魔法で連れて行った。
◇
インベクル王国。
フィトラグスたちが王の間へ急ぐと、国王・ダトリンドが封をしたままの手紙を持っていた。
「まだ開けていないが、胸騒ぎがする。彼は確か、ノティザを誘拐していたな? 先ほど、島から“またいなくなった”と報告があったのだ」
「存じております。早速、開けてみましょう」
フィトラグスは父から渡された手紙を真っ先に開けた。
中の紙を取り出した途端、そこから光が発せられ、映像が部屋内に大きく映し出された。
青紫色の石がついた黒いとんがり帽子を被り、黒いマントを羽織ったアジュシーラが映っていた。新しい格好は、ドラゴンフォームのレジメルスを彷彿とさせた。
「ハロー、偽善者の皆さん! オイラだよ! 今日はお前たちに挑戦状を送ったよ! 特に、ディンフル! お前に一番ムカついてんだ!」
これは映像なので、相手が一方的に話すだけで会話は出来なかった。
「だから勝負しろ! これが最後になるかもね。何でかと言うと、オイラの新しい力でお前がやられるからさ! 仲間も連れて来ていいよ。何人来ようが同じだからさ! 手紙には地図も入れてるから、印をつけた場所に今すぐ来い! 逃げてもダメだぞ! 来なかったら……」
アジュシーラは怪しく笑いながら、後方を指さした。
その方向には、気を失ったノティザが魔法の球体に包まれていた。
「ノティザ?!」
「ノッティー!」
国王とフィトラグスがそろって声を上げた。
「いいな? 絶対来いよ! バックレたら、こいつは邪龍の餌にしてしまうからな!」
最後にアジュシーラが高らかに笑うと、映像はそこで消えた。
映像が現れた紙は、火が出るとそのまま焼失してしまった。
「くそっ! 卑怯者め……!」
「みんなでノティザ君を助けに行こう! 力を貸すよ!」
フィトラグスを慰めるようにユアが声を掛けた。人質を取る作戦はクルエグムを思い出すため、彼女も許せなかったのだ。
もちろんディンフル、ティミレッジ、オプダットも参戦する意志を固めていた。
「帽子についていた石……レジメルスと同じものだろう。彼同様に苦戦を強いられるかもしれぬ。心して行くぞ!」
普段は三人衆相手に苦戦をすることがないディンフルだが、レジメルスには傷一つ付けられず敗北寸前まで追い込まれてしまった。
なので、同じ石を持つアジュシーラ相手にもそうなると予想が出来たのだ。
五人が行こうとすると、ダトリンドが玉座から立ち上がった。
「待て! そんなに強力ならば、援軍を呼ぼう」
「ありがたいが、けっこうだ。ヴィへイトルから力を授かった三人衆は洒落にならぬ。それゆえ、普通の人間は戦わぬ方が良い」
ディンフルが代表で断るが、ダトリンドは引き下がらなかった。
「手伝わせてくれ。そうでなくても、ディンフルには普段から邪龍退治などで世話になりっぱなしなのだ。ましてや、今回はノティザが掛かっている。我が国に関わることには手を貸したいのだ」
「気にするな。ディファートを受け入れ、私とサーヴラスを置いていただいただけで感謝している。頭が上がらぬのは私の方だ。ノティザも必ず救い出す」
ディンフルが再び断ると、今度はフィトラグスも父への説得に加わった。
「今回は我々にお任せください。父上や兵士たちを傷付けたくありません」
以前クルエグムが中庭に来た時、彼は援軍に来た兵士たちを傷つけた。
それがフィトラグスにはショックだったのだろう。そのためディンフル同様、援助を断ったのだ。
「……わかった。何かあれば、すぐ連絡するのだ。ノティザを頼むぞ」
不安で眉間にしわを寄せながらダトリンドが納得すると、一行は城を後にするのであった。
◇
国からだいぶ離れた場所の大草原に古い工場があった。
同封されていた地図で指定された場所だ。今はもう使われておらず、三人衆がアジトとして使っていた廃墟を思い出させた。
中に入ると、突き当たりの一番広いフロアにアジュシーラと、球体に入ったノティザがいた。
アジュシーラは映像に映っていた時と同じ、魔法使いのような格好をしていた。「ウィザードフォーム」と言ったところだろう。
「ノッティーを返してもらうぞ!」
フィトラグスが真っ先に相手を睨みつけた。
大切な弟が再び囚われたのだ。その怒りは半端なものではなく、迷わず剣を構えた。それを見てティミレッジとディンフルはうろたえた。
二人が注意する前に、アジュシーラから口を開いた。
「いいのかなぁ、オイラに剣を向けて? むやみに動くと、こいつの命が無くなるよ~」
相手は得意げにノティザを指さした。
今回は石の力のせいか、彼を誘拐したことを悪びれていないようだった。
「そちらこそ、刺激しない方がいい。我々の元には、レジメルスがいるのだからな」
対抗するようにディンフルが言った。
現に、レジメルスはヴィへイトル一味からすると人質のようなものだった。
「だから、何? あいつがどうなろうと、オイラには関係ない。ヴィヘイトル様や他のみんなも心配してないし、死刑にしてもらっても構わないんだよ!」
「やはり、そうか」
アジュシーラはまったく怯まないが、ディンフルには想定内だった。
「何故、お前が彼の過去をばらしたかは想像しかねるが、そのせいでレジメルスは死にかけた。お前の帽子についているものと同じ石でな」
ディンフルの言葉に、アジュシーラの顔が一瞬だけ強張った。
「ならば、その石がどのようなものかわかっているはずだ。それを承知の上で引き受けたのか?」
「そ、そうだ! でも死にそうになった時、おばさんが回復してくれるんだ! もう約束したんだ! だから、石を使うことにも抵抗はない!」
「レジメルスはかなり苦しそうだったよ! 君も使ってて辛くなるかもしれない!」
「黙れ! お前なんか、もう怖くないんだぞ!!」
ティミレッジも必死に説得するが、アジュシーラは聞き入れるつもりはない。
「これもヴィへイトル様のため。お前たちにはいなくなってもらうよ!!」
アジュシーラは五人へ向かって、青紫色の魔法弾を撃ってきた。
今までと違ってかなり巨大で、大玉転がしに使うような大きさをしていた。それが何発も飛んで来たので、ユアたちは避けるのに精一杯だった。
「でかくね?!」
「パワーアップしているせいだ!」
オプダットがうろたえ、フィトラグスが推測した。
ティミレッジが前に出て、白魔法のバリアを張った。ジュエルを手にしたバリアはどんなに攻撃を受けても破られたことがなかった。
しかし、一発当たっただけでバリアは壊れ、同時にティミレッジはダメージを受け倒れてしまった。
「やはり、一筋縄ではいかぬか……」ディンフルが事前に予想していた戦況も見事に当たっていた。
「当たり前じゃん! ヴィへイトル様からもらったこの石は、オイラたちにとってのジュエルなんだから!」
言いながらアジュシーラは次に炎、氷、雷、地と様々な属性の魔法を一度に使って来た。
ユアは植物のツタに追いかけられ、フィトラグスは胸より下が凍り、ティミレッジの周囲は炎で包まれ、オプダットは電撃でしびれて動けなくなった。
しまいには、逃げていたユアも捕まってしまった。残されたのはディンフルだけだった。
「私だけを残したと言うことは?」
「手紙でも言ったけど、お前が一番ムカつくんだよ! この石をもらった今なら、もう怖くないからね!」
「前は怖かったのだな?」
「うるさいっ!」
相手の挑発に腹を立てながらも、アジュシーラは魔法弾を数発撃ってきた。
ディンフルも大剣で相殺をしていたが、先ほどのティミレッジのように魔法弾を消す度に体に痛みが走った。
「シャッテン・グリーフ!!」
必殺技を使うも、新たに繰り出される魔法弾にかき消されてしまった。
魔法弾を避けて走っていると、地面から出て来たツタがディンフルの足を絡め取った。
「ぬぅ?!」
ディンフルはバランスを崩して倒れてしまう。
大剣で斬るも、ツタはすぐに元の形に戻ってしまった。それを見てアジュシーラが笑う。
「ムダだよ! 魔法で出したツタは簡単には切れないようになってるんだから!」
さらに彼は先ほどのように炎、雷を同時に出して来た。
ディンフルも立てない状態で大剣で払ったりバリアを張ったりするがほとんど効果はなく、炎と雷の魔法が直撃してしまった。
「ディン様!」
「ディンフル!」
ディンフルのダメージは深く、倒れたまま起き上がれなかった。
そんな彼へ、再びアジュシーラが魔法弾を撃とうとすると……。
「ルークス・ツォルン・バーニング!!」
自身の必殺技で氷を溶かし、自由になったフィトラグスがディンフルを背に立ち、アジュシーラへ剣を向けた。
「今度はお前が相手か?」
「ああ。弟も返してもらいたいからな!」
フィトラグスは言いながら、相手の後ろへ目をやった。
ノティザを包んだ球体はアジュシーラの後ろで浮いており、中にいる幼い王子はまだ眠ったままだった。
「二度も誘拐するとは許せないぞ、卑怯者!!」
フィトラグスが怒鳴りつけると、それまで笑っていたアジュシーラが真顔になった。
今回は自身が進んで誘拐したが、前回は不本意にノティザを連れ去ってしまった。それを誘拐と捉えられ、納得がいかなかったのだ。
「今回はともかく、前回はオイラのせいじゃないんだけどなぁ~」
「何……?」
「こいつがハシゴから落ちそうになったのをオイラが助けたんだ。それで話を聞いたら、“修行に行きたくない”って駄々こねたから協力して連れ去っただけ。でも、その時はお前の弟だとか、インベクルの王子ってことを知らなかったんだ」
「ウソをつけ!! ノッティーが修行をサボったことをいいことに、誘拐したんだろう?!」
フィトラグスは話を遮り、再び怒鳴ってしまった。
ノティザが修行をサボって逃げ出したことは知っていたが、敵であるアジュシーラが弟を助けたことは信用出来なかった。
頭ごなしに怒る相手に当然、相手は気分を悪くするのであった。
「また頭ごなし……。オイラだって、好きで連れ去ったんじゃねぇ! お前の弟だって知ってたら、相手にしなかったよ!!」
今度はアジュシーラが叫ぶと体から黒いモヤが現れ、彼を包み込んだ。
それが晴れると、彼は上半身が裸で下半身はライオンのような胴体、尻尾は蛇のように長く、その先端は意思を持ったように口をパクパクと動かしていた。髪は天然パーマから、ライオンのたてがみのように揺らめいていた。
アジュシーラはニヤリと妖しく笑ってこちらを見た。口を開いた際に見えた歯は細長く鋭くなっており、捕らえた獲物を食いちぎりそうな形をしていた。
さらに、彼の目は白目なしのピンク一色へ変わっているのであった。




