表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第4章 一味、分裂
100/123

第98話「過去~レジメルス~」

 ヴィヘイトル一味の三人衆の一人・レジメルスは物心がついた頃には親兄弟などはなく、ディファートだけの養護施設に入っていた。


 五歳の頃。普段は元気いっぱいの彼だが、この日は皆が外で遊ぶ中、熱を出して部屋で寝ていた。

 おとなしく眠っていた彼は知らなかった。これが運命の分かれ道になるということを。


 賑やかだったはずの外から突然、悲鳴が聞こえた。

 起きて外を見ると、ディファート撲滅を企む人間集団が施設内に入っており、児童や先生たちはどんどん捕まり、一人ずつ縄で縛られて馬車に乗せられていった。


 子供ながらに只事でないと悟ったレジメルスは熱がある体を引きずりながらも、施設から脱走した。



 逃げるように走って行くと、見知らぬ町にたどり着いた。

 これまでは施設の中だけの生活で、外の世界はまったく初めてだった。

 町に着いたところで、病状は悪化し走れなくなった。


 見かねた通行人が声を掛けるが皆、ディファートの特徴である細長い瞳孔を目にすると、見て見ぬふりをしたり蹴飛ばしたりして冷たく当たるようになった。

 施設で「人間はディファートをいじめる怖い種族」と教えられていたレジメルスは、その恐怖を目の当たりにするのであった。


 見つからないように建物の陰に身を潜めていると、一人の少女に話し掛けられた。

 歳は十五、六ほどで学校の帰りだったらしく制服を着ていた。顔を覗き込んだ時にわかったのは、彼女も人間だったということだ。

 レジメルスは急いで逃げようとするが、少女は「大丈夫。私はあなたをいじめないから」と引き止めるのであった。



 少女・リージメスはレジメルスを密かに自宅へ連れて帰ると、彼の看病を始めた。

 レジメルスは「優しい人間もいるんだ」と感銘を受け、「この人と一緒にいたい」と思うようになった。

 だが、すぐに無理だと考え直した。施設の教えで、人間とディファートは一緒にいられないことがわかっていたからだ。


 ところがリージメスはディファート賛成派で、町にいたのは学校で「ディファートが町にいる」と噂が立っており、会いに来たためだった。

 ましてや、相手は子供。リージメスは子供好きもあり、暴力を振るわれている彼を放っておけなかった。現状を見た彼女はレジメルスと本気で家族になりたいと思っていた。


 だが、リージメスの両親と妹は引き取ることに猛反対。

「ディファートを引き取ったら、近所から嫌われる」という世間体を気にした理由だった。

 それはリージメスも承知していたが、せっかく拾ったディファートの子供を再び捨てたくもなかった。


 それでも、彼女はレジメルスを引き取ることにした。

 その結果勘当され、通っていた高等学校も退学になり、リージメスは彼を連れて、住んでいた町を出ることにした。

 この時、レジメルス五歳、リージメス十五歳だった。



 その後、二人は住む場所を転々とした。

 リージメスはバイトの経験を活かして必死に働き、時には年齢をごまかして来たりしたが、「ディファートと一緒に暮らしている」という噂が立つといじめられ、追い出されるようになった。


 働かせ続けてくれる場所もあったが、ディファートとそれに関わった人間は賃金が安いため、思うようにお金は溜まらず、生活費で精一杯だった。

 娯楽などは持てなかったが、レジメルスは姉となったリージメスといられるだけで幸せだった。


 彼女が汗をかいて働く姿を見てからは、レジメルスは子供ながらに気を遣うようになった。

 リージメスは働き終わってからはクタクタで帰るため、家事のほとんどが出来なかった。

 特に掃除、整理整頓や片付けが苦手で、いつも何をどこへやったか忘れ、部屋中を探し回っていた。


 レジメルスは彼女の力になるべく、率先して掃除を主とした家事を行った。

 そのため、リージメスが物を探し回ることも無くなり、家の中も常にキレイになっていた。

 掃除を行うのは、ディファートの特性・嗅覚の関係で「部屋がくさくなくなるから」という理由もあった。



 七歳になると、レジメルスは学校へ通うようになった。初めは「ディファート」という理由でいじめられ、泣きながら帰って来ていた。

 そこでリージメスは弟を強くするために、自身が身につけていた武術を教え込むのであった。

 毎日、姉から教えてもらった武術を自主練することでレジメルスは強くなり、いじめられなくなった。おかげで勉強にも集中出来た。


 リージメスは元々勉強家で、高等学校を卒業したら行きたい学校(リアリティアで言う大学)があったが、弟を引き取ったことから断念していた。

 そのためレジメルスは姉の分も勉強を頑張り、彼女が汗水たらして働いていることを無駄にしないようにしていた。



 数年が経ち、レジメルスは十六になった。姉が退学した歳をすでに超えていた。

 出会った時は小さかった体も、彼女を包めるぐらいに大きくなっていた。

 姉は二十六。まだまだ若いが、昔以上に疲れが溜まる年齢にもなっていたので、時折レジメルスが重い荷物を持ったり、マッサージをしたりとサポートを行っていた。


 そんな時、リージメスに「付き合って欲しい」という男性が現れた。

 彼女は「ディファートの弟がいるから」と断るが、相手もディファート賛成派で弟がいることも了承してくれていた。


 レジメルスも反対はしなかった。

 何故なら、自身と出会ったことでリージメスは家族から縁を切られ退学までし、「ディファートと関わっている」という理由で安い賃金で働く人生へと変わってしまった。

 出会っていなければ彼女は家族と円満で志望校にも進学し、女性の幸せである結婚もしていたかもしれない。

 それらを奪ったことに、レジメルスは子供の頃から姉に申し訳ないと思って生きて来たのだ。


 今では自身も大きくなり、身の回りのことは一人で出来たので、このまま姉と離れて暮らしても問題はなかった。

 むしろ、離れる方が彼女のためだと思っていた。いくら恋人がディファート賛成派で、「弟さんも一緒に暮らそう」と言ってくれていても、これ以上リージメスに迷惑を掛けるわけにはいかなかった。



 だが、偶然道で姉の恋人を見つけたレジメルスは衝撃の事実を知るのであった。

 恋人は見られていることに気付かず、通信機で知人と話していた。内容によると、恋人はリージメスと付き合うフリをして金銭を騙し取っていたのだ。


 初めから彼女と付き合う気はない上に、「ディファートと一緒にいる人間は、同じ弱者だからいい金づるになる」と言って笑っていた。

 レジメルスは即刻相手に得意の蹴りを入れ、「二度と姉に近付くな」と圧倒した。


 この事実を知ったリージメスは騙された惨めさと絶望から、涙が止まらなかった。

 そんな彼女をレジメルスは優しく抱きしめ、心に誓うのであった。

「この人は僕しか守れない。これからも傍にいる」と。



 二年後、レジメルスは高等学校を卒業し、姉が行きたがっていた学校へ通う権利を手にした。

 ところが、「ディファートは通えない」と学校側が拒否したため、断念し働くことにした。

 それでも納得がいかない彼へリージメスは「卒業してくれただけで充分よ」と、弟を労うのであった。



 さらに二年後、リージメスが病に倒れてしまう。

 レジメルスが急いで病院に連れて行くも、彼がディファートだからという理由で診察はしてもらえなかった。姉が人間であってもだ。


 リージメスは病名がわからないまま、家での療養となった。

 レジメルスは姉を看病しながらも働き続けた。本当はずっと傍にいたかったが、働かないと生活が出来なかったからだ。

 それに、リージメスも「私のことはいいから」と彼を働きに行かせるのであった。


 姉の症状が良くならないそんな時、レジメルスにチャンスが訪れた。働き先から「昇進のための研修を受けてみないか?」と誘われたのだ。

 ところが、この研修は二週間も泊まり込みで行う。その間、姉に会えないのが気掛かりだった。そうでなくても、体調も良くないので余計に……。


 それでもリージメスは、レジメルスに研修へ行くように勧めた。弟の昇進は、育ての姉として一番嬉しかったからだ。

 彼はリージメスに背中を押され、二週間の研修へ向かうのであった。

 最後に姉からお守りとして、彼女がずっと大切にしていたペンダントを渡され、家を出た。



 研修へ行ったのはレジメルスだけでなく、他に人間が数人いた。

 研修先に着いた途端、レジメルスだけ呼び出され、建物内の掃除を命じられた。

 上司いわく「研修の一環」とのこと。レジメルスはその言葉を信じて、清掃を頑張るのであった。


 ところが一週間経っても掃除ばかりが続き、不審に思い始めた。「そろそろ、勉強があってもいいんじゃないか」と。

 掃除を抜け出し研修室を除くと、自身と同じ日にここへ来た人間たちが勉強を受けていた。


 おそらく、掃除が出来る彼を清掃係としてタダ働きさせるために誘ったのだろう。


「騙された……」確信したレジメルスは無断で研修先を後にした。

 もう昇進など、どうでも良かった。



 向かったのは、もちろん姉が待つ家。

 あれほど期待して背中を押してくれたのに、残念な結果を伝えるのは心苦しかったが、彼は一刻も早くリージメスに会いたかった。


 帰りながらレジメルスは「何故、ディファートというだけでここまで差別を受けないといけない?」とはらわたが煮えくり返っていた。

 だんだんと、フィーヴェの代表国であるインベクル王国へ怒りの矛先が向けられた。


(正義の国なのに、何でいつまでもディファート問題を解決しないんだ? 僕らや関わった人間はいつまで苦しめばいい?!)



 家へ向かう途中から異臭が漂い始めた。

 生きて来た中で嗅いだことのない異様な臭い。嗅覚に長けていた彼は、すぐにそれが自宅から流れて来ていることを理解した。


 家へ近付くほど強くなる臭い。マスクをしていても、防ぎ切れないほどだった。

 胸騒ぎがした。考えたくもない結末が彼の頭を過ぎる。

 だが、家の近くへ来るとそれは現実となるのであった。


 調査に来ていた政府によると、姉・リージメスが孤独死していたのだ。

 死後三日以上は経過していたとのこと。


 夏場であったため、姉の遺体はかなり腐敗しており、家の中も腐敗臭で溢れているのと建物の老朽化もあって今後は住めなくなり、レジメルスは姉と家の両方を失った。

 持ち物は、最後に姉がくれたペンダントのみ。それが彼女の形見となった。


 レジメルスニ十歳、リージメス享年三十歳だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あっ臭いに過敏なのって……(涙) これは人間恨んでも仕方ないよ… リージメスの人生辛すぎる(本人は多分辛いとは思ってなかっただろうけど)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ