第三話 プレイヤー
「お、おい!大変だ!!海遊ビーチで水龍が暴れて・・・!!!」
「「「「「!?」」」」」
男の報告を聞き、コバンが面食らった様な顔をした。
「そんな...!今まで一度もビーチになんて・・・!!」
「すぐに向かう!オッサンはそこで待ってろ!!」
真っ先にオルカが飛び出し、後を追うように他の全員も、走ってギルドを飛び出していく。
状況を教えてもらった手前、待っているだけというのも落ち着かず慌てて後を追った。
* * * *
俺が到着した時には、水龍が砂浜間近まで迫っており、オルカ、クララ、サンゴの三人が応戦している頃だった。コバンは、人々の避難誘導をしていたが皆パニックになっていた。
「みなさん、は、走らないで!落ち着いて行動してください!!」
コバンのか弱い声では混乱した人々には聞こえていない様で、色々なところで人が転んでいたり、子供の泣き声が響いていた。
「落ち着いて、ゆっくり...きゃっ!!」
「おっと!!」
人並みに流され、転びそうになったコバンを支える。
「すみません...ありがとうございます。」
「ううん。怪我がなくてよかった。手伝うよ。」
せめて何か、と思い人々への呼びかけを手伝う。
「みなさん!!コバンさんに従って、ゆっくり、落ち着いて行動してください!!」
「・・・みなさん!!走らず、なるべくビーチから離れて下さい!!!!」
少しずつ人々に伝わり、皆巻き込まれない位置までどうにか誘導できた。
ドーーーーーーーン!!!!!
その時、突然砂浜の方から大きな音がした。砂埃が上がっており状況はよく見えないが、恐らく水龍が砂浜に打ちあがってしまったのだろう。暴れ回っているのか、砂埃が一向に晴れない。
俺に何が出来るのか分からない。でも・・・
「コバン、少し水龍に近づいてもいいかな。状況を知りたい。」
「き、危険です...!私も・・・!」
「いや。コバンは皆が近づかないように、ちゃんと見張ってて。絶対に巻き込まれないって約束する。」
「・・・絶対、約束ですよ。」
「うん!」
坂道を下り、砂浜に近づく。その間に徐々に砂埃が晴れ、状況が見えてきた。
「あれが水龍・・・。」
水龍。青や水色の鱗が生えた龍を想像していたが、身体は白く、クジラのようにつるつるしていそうだ。顔は想像していた通り、蛇の様な鼻にギロリとした眼。龍らしい大きなツノは深海の様な黒に近い青だった。「神聖」という感じではなく、思ったより「生物」らしい。
暴れ回る水龍に巻き込まれないよう、3人は距離を取り様子をうかがっているようだ。と、水龍の動きが一瞬、落ち着いたタイミングでオルカが飛び上がり、
「オラァッ!!!」
水龍の脳天に一撃、拳で殴った。その瞬間、
ヴヴンッ
「!!」
[鋭凜 オルカ]
体力:A
防御:D
魔力:E
筋力:S
得意技:物理攻撃、シールド破壊
また、あのウィンドウが表示された。
このタイミング・・・まさか。
再び暴れ回る水龍。オルカが巻き込まれそうなタイミングでサンゴが間に入り、攻撃を受けていた。そしてその瞬間、
ヴヴンッ
[秘石 サンゴ]
体力:S
防御:S
魔力:E
筋力:C
得意技:物理防御、攻撃引き付け
やっぱり・・・!
そういえば、コバンのウィンドウが見えた時も、コバンが回復魔法を使った時だった。つまり、ウィンドウが出現する条件は「対象の技を見る」事なんだ・・・!!確信を得るために、クララに向かって叫ぶ。
「クララ~!!技!!なんか技を見せてくれ~!!!!!」
「エッ、私~?」
「ユーゴあいつ、突然何言ってんだ?」
「も~、困った新人さんだなぁ~。」
そう言って、クララは海に向かって手を伸ばす。すると、水龍によって荒れた波が穏やかになっていた。波の管理をしていたのはクララだったのか。
ヴヴンッ
[游波 クララ]
体力:A
防御:E
魔力:S
筋力:E
得意技:魔法攻撃、魔力強化魔法
やはり、正解だったようだ。
これだけ状況が揃えば、それこそゲームの要領で指揮できるかもしれない。
「3人共!皆の避難は終わってるから!!ちょっと来てくれ!聞いてほしいことがある!!」
「はぁ!?行けるわけねーだろうが!!ナメてんのか!!」
「しかしオルカさん。このまま戦っていても埒が明きませんし。避難が終わっているなら問題は無いでしょう。」
「そうだねぇ~。聞くだけ聞いてみよ~。」
「ふ、2人ともなぁ・・・!!」
なんだかんだ言いつつオルカも聞いてくれるようで良かった。この作戦にはオルカが必須だ。
「みんな。俺に指揮をさせてくれないかな。」
「新人くんのキミが~?面白いこと言うねぇ~。」
「何か良い作戦でも思いついたんですか?」
「うん。上手くいくかは分からないから、みんなを危険に晒すことになるけど・・・。」
みんなう〜ん、と考えている様だった。そりゃあ、メンバーの事を何も知らないはずの奴に命なんて預けたくはないだろう。特にオルカはサンゴが守っているとはいえ、一番危険なポジションだし...
「アタシは乗るぜ。」
「え!?」
「オルカさん?まだ作戦も聞いていないのに・・・。」
俺含め困惑する3人。
「お、オルカは一番に断ると思ってた・・・。」
「お前が適当言ってんなら断ってたな。でもユーゴ。お前には何か見えてるんだろ?アタシらには見えない何かがさ。」
「えぇっ」
「まっ、勘だけどよ!!」
尖った八重歯をキラリと光らせ笑うオルカ。野生児すぎないか・・・
「それによ、サンゴも言ってたとおり、このまま戦っててもしょうがねぇ。危ねえと判断したら逃げるなりすりゃいいんだし。やるだけやってみようぜ!!」
「オルカさん・・・。」
「オルカちゃんの勘はよく当たるからネ~。付き合ったげるよ~。」
「みんな、ありがとう!」
俺はみんなに作戦を伝えた。
* * * *
「ユーゴさん・・・。」
ユーゴさんが走っていった後、避難民を送り届け戻って来た。そうしたら、3人と何やら作戦を話し合っているみたいで、ちょっと羨ましい。
いつもそう。私は見ている事しかできない。昔から、いつも。
私がマスターになったのだって、お姉ちゃんがいたからだ。
私は何もできない。回復は出来るけど、怪我をするのはみんな。私が戦えないから。
ユーゴさんはどうしてかこの世界について何も知らない。なのに『手伝うよ』って人々と、私の事をアッサリ助けてしまった。
話し合いを終えたのか、ユーゴさんがこっちへ走って来た。
「コバン!!!!」
「ユーゴさん...」
「来てくれ!やってほしい事がある!!」
「・・・?」
* * * *
困惑しているであろうコバンの手を引き砂浜へ向かう。
「ゆ、ユーゴさん!?わ、私は戦いでは役立たずで・・・!!」
「弱体魔法が効きにくいから?」
「なんで、それを知って・・・!?」
<作戦会議中>
「言っとくがユーゴ。あいつはアタシとクララの全力攻撃を軽々防ぐぜ。」
「うん。だから俺の作戦は”コバンの魔法で弱体化させよう作戦”だ。」
以前コバンのウィンドウを見た時、得意技の項目に弱体化魔法があって気になっていた。
しかし、皆は困った表情をしている。
「ユーゴさん。非常に申し上げにくいのですが、熟練の魔法使いの弱体魔法なら強力です。しかしマスターの弱体魔法はアテには・・・。」
弱体魔法が得意なコバンが戦いに参加しないのはおかしいと思った。やっぱりそういう事情があったか。ソシャゲでも弱体効果が評価されないのはよくある現象だ。
でも……
<現在>
「教えてもらった。それで、対策も考えた。一回やってもらえないかな。」
「・・・わ、分かりました。」
上手くいくかは掛けだ。この世界に攻略サイトもヘルプも存在しないのだから。
まずはサンゴが攻撃を引き付けている間に、オルカにシールドを破壊してもらう。
「うらぁっ!!!!」
次に、クララがコバンに向かって魔力強化の魔法を掛ける。
「マスタ~。行くよぉ~。」
「へっ!?わ、私攻撃魔法は・・・!!」
「違うよぉ~。弱体魔法、一回やってみ~?」
「え・・・?」
促されるまま、コバンは水龍に向かって手をかざす。と、青紫の光が水龍を包み込む。そうしたら...
「クララ!オルカ!全力で叩き込め!!」
「任せろ!!」
「りょうか~い!」
ドカアァァァァンッッッ!!!!!!!!
オルカの一発。シールドが破壊されたなら、これでクララの攻撃が・・・
ガァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!!!!
苦しそうに悶える竜神。
「き、効いてる・・・!?効いてます!!なんで!?」
<作戦会議中>
そのままじゃ効かないかもしれない。ただ、バフ・デバフというのは条件が揃えば輝くダイヤの原石だ。
「多分、普通に掛けてもダメなんだと思う。だから相手には弱体化してもらって、こっちは威力を上げてみる。」
「どういうこった??」
「オルカの攻撃には相手のシールドを弱体化させる能力があるんじゃない?」
「はぁ!?聞いたことねぇよ!?」
今まで知らなかったのか・・・。まあ、エフェクトとかは無いから仕方ないか。
「クララは、魔法関係を強化出来るよね?多分だけど弱体魔法にも効果があると思うんだ。」
「なるほど~。」
ウィンドウの各項目は、魔力や防御など曖昧な表記だ。詳細は分からないが、これだけアバウトに表記されているなら「魔力」の項目自体がアバウトな存在。つまり、魔法の威力からバフの威力まで「魔法全般」を指すのでは無いか、と読んだ。
クララとコバンは2人とも「魔力」の項目が高い。ならば、力を合わせれば化けるのでは、と思ったのである。
「攻撃は、多分自然とサンゴに集まるんじゃないかな?」
「は、はい。昔から、魔物に狙われやすい体質ではありますが...。」
「やってみる価値は十分にあるネ~。熟練の魔法使いなら強力って事は、弱体魔法自体は弱くないはずだし~。」
<現在>
流石に痛手を負ったのか、水龍は海へ逃げていく。
「マ、マジで効いたじゃねーか・・・。」
「わ、私の魔法・・・役に、立った・・・?」
コバンは夢でも見ていたかの様な顔をしている。
「お手柄だよ~。さすが我らがマスターだねぇ~。」
「流石です、マスター。」
「い、いや・・・!みんなの力があってこそで・・・!」
「マスターもユーゴもやるじゃねぇか!!やっぱ、アタシの勘は正しかったんだな!!」
オルカはコバンに駆け寄り、嬉しそうに抱き着いた。
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑うコバン。
ホッとした様子で笑うクララ。
尊敬のまなざしでコバンを見つめるサンゴ。
恐らく、俺はこの世界に『プレイヤー』として転生した。
だから他の転生モノの様にチートな能力があるわけじゃないし
これはゲームではないから、進むだけではハッピーエンドに辿り着けない。
それでも、少女達が紡ぐ群像劇の中で少女達が笑えるように
”ハッピーエンドに導く”
きっとこれが、俺がもう一度生を受けた意味だ。
だから投げやりになんてならない。
* * * *
「と、言うわけでユーゴ。しっかり説明してもらうぜ。」
水野 優吾 プレイヤー「ユーゴ」として美少女RPGに転生した。
なろうチュートリアルである、転生→事件発生→事件解決でした
何となく雰囲気やキャラクターが伝われば良いなと思っています。




