四日目 ストーカーではないですよね?
来て頂きありがとうございます。
ゆっくりと目を覚ます。
ここは・・・見覚えはあるけど、日常では無い様な...どこだっけ...?
次第に、朦朧としていた意識がはっきりとしてくる。
そうだ!モーニングレポート!!!
ヴァンパイア・マンションに来ていた事を思い出し、勢いよくベットから飛び起き...って、今日は休みなんだっけ...。
時計は九時を指している。
意識が朦朧とするほど深く眠っていたのか。思ったより疲れが溜まっていたらしい。
1日自由と言え、何をしようか...。
考えていると、部屋のドアがトントンと叩かれた。
「ユーゴ様、おはようございます。起きていらっしゃいますか?」
この声はセンラか。
ドアを開けると、センラの手に黒い布が。まさか...
「もしかして、執事服...?」
「はい。こちら裾直しが完了しましたので、お届けに参りました。」
「ありがとう...!助かるよ...!!!!」
あぁ良かった。今日も明日もメイド服で過ごさないといけないのかと。
あれ、そういえば今日はセンラも休みのはずだが、メイド服を着ているな...。
「休みの日も執事服とか着るの?」
「いえ。休日は、裸で無ければどんな格好をしていても構いません。」
「裸とは極端な・・・。」
でもせっかく裾直しをしてもらったし、今日は執事服を着ておこうかな。
「今日はセンラもお休みなんだよね。何をする予定なの?」
「キョウ様のご様子を確認する予定です。」
「休み...なんだよね?」
「はい。ですのでキョウ様のご様子の確認をする予定です。」
...それは仕事では無いのだろうか。まあ本人が良いなら良いか。
そういえば、キョウも『ゆっくりさせてもらうよ』と言っていたし...声を掛けてみるか。
「それじゃあ、ごゆっくり。」
「はい。ユーゴ様も、ごゆるりとお過ごし下さい。」
サイズぴったりな執事服に着替え屋敷内を散策していると、訓練場を見つめるキョウの姿が。
「キョウ、おはよう。何してるの?」
「やぁユーゴ。訓練に励む皆を見ていたんだ。皆勤勉に頑張ってくれて嬉しいよ。」
そう言うキョウの目は、遠くの日光を反射して美しく光っていた。
コバンとはまた違う、大御所の貫禄を感じる。
「そうなんだ...ん??」
何か視線を感じ振り返ると、廊下の角からセンラがこちらを見ていた。
流石に気になって声を掛ける。
「せ、センラ...何してるの...?」
「変わらず、キョウ様のご様子を確認しております。」
「へ、へぇ...。」
ここまで来ると、センラのプライベートの過ごし方が気になってきた。
「ねえ、今日はセンラについて行っても良い?やる事も無...」
「素晴らしい忠誠心です。いえ。忠誠心では無くキョウ様の魅力ならば、一分一秒も目を話したくないというお気持ち、大変よく分かります。...っと、移動されるようですね。くれぐれも邪魔にならないよう、20歩以上前を徹底して下さい。」
「ハ、ハイ...。」
食い気味な上に恐ろしい勢いの捲し立てだった。
お付きのメイドの忠誠心や、恐るべし。
次にキョウが向かったのは外庭だった。美しく咲いた薔薇達を見つめている。
今日は天気が良く、日が差して暖かい。まあ、俺達がいるのは日陰なのだが。
ところで...
「...あのさ。これってストーカーだよね?」
「そんな野蛮なものではありません。使用人としての立派な嗜みです。」
嗜みの範囲はおよそ逸脱している気がするが...。まあいいか。
「そういえば、あの薔薇はセンラが手入れ...あれ!?」
さっきまで隣りにいたはずのセンラがいない!?
「キョウ様、日傘でございます。」
と思ったらキョウの隣に居る!?
20歩前を徹底という話は!?
「センラ、いつの間に...!」
「おやユーゴ。また会ったね。それとも、後をつけてきていたり?ふふ、冗談だよ。」
「あ...アハハハ、まさかまさか...。」
これバレていないか!?
しかも、当のセンラは何食わぬ顔で日傘をさしている。
薔薇を前にしばらく談笑した後、キョウは屋敷に入っていった。
「ユーゴ様。今度こそ20歩以上前を徹底して下さい。」
「待って待って、センラも隣に居たよね...!?」
「キョウ様は吸血鬼なのですから、日傘は必要です。緊急事態なのでやむを得ません。」
「そういうものか...。」
「はい。」
「本当に吸血鬼なんだな...。えっじゃあ血吸うの!?」
「いえ。現在は吸血鬼用のサプリがございますのでご安心下さい。」
ぶ、文明だァ...。
再びキョウの後をつけ...もとい、様子を確認する。
次に、キョウは廊下にある絵画を興味深そうに眺めた。
「ふむ...。」
キョウにとっては見慣れた絵画だろうに、そんなに興味深いものなのだろうか。
「絵画の位置は清掃時に使用人達で自由に入れ替えています。恐らく、その配置を見て楽しんでいらっしゃるのかと。」
「なるほど...。」
主人を飽きさせない為の工夫と言ったところだろうか。
絵画自体を見慣れているからこそ、使用人達のセンスが現れて面白いんだろうな。
「...ところでさ、やっぱりこれストーカーだよね?」
「ストーカーではありません。ご様子の確認です。」
次にキョウが向かったのはキョウ専用の衣装室だった。
わざわざ外に回り、遠目から部屋を覗く。これでは完全に不審者である。
衣装室はかなり広そうで、6畳はありそうな部屋にドレスが大量にかけられている。しかし、どれも黒を基調に赤、紫で装飾されたものばかりだ。
「キョウって黒好きなの?」
「嗜好としては赤、紫を好まれますが、様々な理由からお召し物は黒を基調とされています。」
「『様々な理由』って・・・?」
「様々です。」
濁されると余計気になる・・・。
まあ、主人本人の承諾も無しにプライベートを語れないという事なのだろう。
それはそうとキョウ本人は、気になったドレスを手に取っては自分の身体に合わせてみたり、デザインを見ては頷いたりしていた。さながらショッピングだ。
ふと隣を見ると、センラが顔を赤くして恥ずかしそうに笑っていた。
・・・笑っていた!?
センラが笑ったところ、初めて見た・・・!?
「え、なに、どうしたの・・・!?」
「いえ・・・。先ほどキョウ様がお手に取られたのは、以前私がお仕立てさせていただいたものでして...お気に召して頂いて嬉しい限りでございます。」
嬉しそうに笑うセンラを見て、こちらまで心が温かくなるのを感じた。
「ご移動されるようです。戻りますよ。」
「ねえ、これってやっぱりストーカーですよね?」
「ストーカーではありません。ご様子の確認です。」
その後も、音楽を嗜んだり、コーヒーを飲みながら本を読んでいるキョウを盗み見る事数時間。すっかり夕方になってしまった。
「本当にキョウの様子を見るだけで一日過ごした・・・。」
「はい。とても有意義な休日でしたね。」
「ソウダネ・・・。」
有意義かどうかはさておき、キョウの観察をしたくなる気持ちは少し分かった気がする。
絵画の時と言いドレスの時と言い、使用人が自分の為に何かしてくれているととても嬉しそうに笑うのだ。
センラはキョウの事を知りたいと言うのもあるだろうが一番は、そうやってキョウが笑ってくれるのが嬉しくて仕方がないのだと思った。そうでなければ、センラがあんな風に笑うと思えない。
「それはそうと、ストーカーだよね?」
「ストーカーではありません。ご様子の確認です。」
「おや、何の話をしているのかな?」
後ろから声がして振り返ると、そこにはニコニコしたキョウが立っていた。
「き、キョウ・・・!!」
「お疲れ様です。」
「二人共、今日一日で随分仲良くなれたようで何よりだ。」
「あ、アハハ・・・。」
仲良くなれたかは分からないが・・・センラの意外な一面は知れた。
「ユーゴ、今日は何をしていたのかい?ぜひ聞かせてくれ。」
「エッとぉ~・・・。」
どうするべきか分からずセンラに目線をやると、目を閉じて知らん顔している。
とにかく、何か適当な言い訳をしておかねば・・・!!
「や、屋敷を見て回ってた・・・かな。」
「ふぅん・・・。」
見定める様な目・・・。冷や汗が止まらない。
「センラは何をしていたのかな?」
良かった、切り抜け・・・
「変わらず、キョウ様のご様子を確認させて頂いておりました。」
言った!?!?!?
「センラも飽きないね。」
知ってた!?!?!?
「え・・・?コッソリやってたんじゃ・・・!?」
「ふふ、やはりユーゴも居たんだね。」
「あ。」
「私が気付かないとでも思ったかい?」
本当、キョウには敵わないなぁ・・・。
「つまりあのストーカー行為はキョウ公認って事か・・・。」
「ストーカーではありません。ご様子の確認です。」
「ハイ・・・。」
「ふふふ。」
この先もきっと、ギルド内ストーカーは続いていくんだろうなぁと思うのだった。
* * * *
夜。食堂から自室に戻ろうとしていた時。
使用人用玄関が開いた音がした。振り返ると、
「あれ、ミラ?」
「ゎ!!」
ミラは驚いてこちらを見た。
そういえば、今日は一度も姿を見かけなかったな。
「今日はどこかに出かけてたの?」
「は、はい!私もお休みもらったから、ちょっとお出かけぇ~。」
そう言って笑うミラのメイド服は、山登りでもしたかの様に土や葉で汚れていた。先ほどから目を合わせようとしないのも気になる。
「・・・どこに行ってたの?」
「それは、ゆーご様にもナイショ!プライベート、ですから・・・。それじゃ!!」
そう言って足早に部屋に戻っていった。
どことなく元気がない様に見えたが、大丈夫だろうか。
無理やり聞き出す訳にもいかないし、首を突っ込みすぎるのも良くないだろう。
そう思って、自分も自室へと戻るのだった。
センラが仕立てたドレス 黒を基調に赤と紫の薔薇で飾られたドレス。




