第一話 まさか、まさかとは思うが・・・
※ラッシュガード...日焼け防止に着る水着の上着。
・・・は?
俺は死んだ。死んだはずだ。
なのに、なのに…
「生き、てる…?」
夢か…いや、あれなら確実に死ねた。不登校になり、スマホゲームに逃避した結果、給料の安いブラック企業勤め。疲れ果てて実家に戻ると母親は既に亡くなって、親不孝者と父親に罵られる始末。金もない、行き場もない。オマケに、不登校時に逃避していた美少女RPG『美少女楽園~プリティ・バトル~』はサ終していた。人生詰んだ俺は水野 優吾としての人生は終えた・・・はずだった。
「体・・・動く。」
見覚えの無い街並み。左手には カラフルに彩られたコンクリートの建物が海沿いに立ち並び、右手には青い海が見える。中世チックというかレトロチックな街。まさか、まさかとは思うが。
『転生』
なんて、そんな馬鹿げた話だろうか。最近では漫画のジャンルとしてメジャーになりつつある、あの。
だとして、よりによってなんで俺なんだ。自分で命を絶った者が転生するなんて。
色々と意味は分からないが、いずれにせよ、まずはこの世界がどんな世界なのか知る必要がある。異世界ハーレムならバンザイだし、絶望的な世界ならもう一度トンズラするしかない。それで死んだら終わり、もう一回転生したらイージーモードの世界までリセマラだな。
そんな冗談を考えつつ、状況を確認する。所持品は...もちろん無い。今あるのは飛ぶ前に着てた白Tと黒いデニムパンツ、勝負パンツと愛用スニーカーのみか。これでは生きる事すら難しい。
とりあえず海沿いの街を歩く。一度命を捨てたからか気分は軽く、不思議と不安はない。
「サン大陸産!美味しいトウモコーンだよ〜!」
「ムーン大陸名物の黄金まんじゅうはいかが〜?」
カラフルな建物のお店は、どこも掛け声やいい匂いでお客さんを呼び込んでいた。
店の人の掛け声を聞く感じ、俺が元居た世界と類似したものが存在しているらしい。言語も聞き取れるし、完全に詰みではなさそうだ。
ふと、行き交う人々を眺めてみる。1番多いのは若い少女達。他にはお買い物中の主婦と思われる婦人、散歩中と思われるおじいさん、お婆さんの見た目をした小人、ツノや尻尾が生えた少女、和風装束を来た少女、猫耳尻尾が生えた少女など、多種多様な・・・
「いや、多種多様すぎないか!?」
通行人が驚いてこちらを見ている。いや、叫んでも仕方ないと思う。流石にバリエーション豊富すぎやしないか。
ここで俺はもしや、と思い浮かんだ事があったが、あまりにも都合のいい解釈だったので掻き消した。
若い少女達は皆スマホ?を持っているが、この辺りは道路は無い。中世らしく馬車で移動するのか、この辺に道路が無いだけなのか...。
そんな事を考えながら街を歩いていると、少し街の様子が変わって来た。ここは…
「『エントランス港 ムーン大陸』……港か。」
『エントランス港』は日本の船乗り場というより海外の船乗り場に近く、白い木でできた広場の様な桟橋は青い海とよく似合っていた。石造りの階段をおり、桟橋に足を踏み入れる。広場の両サイドに伸びる海沿いの道は潮風がより強く感じられ、散歩をするにはうってつけの場所だろう。
船があるという事は、車が存在している可能性も高そうだ。
少し歩いてみるかなと思っていると、広場正面にある船乗り場に何やら人だかりが出来ていることに気付いた。気になって近づいて見ると、人集りは何かに向かって不満を言っているようだった。
「おいおい、ま〜た船が出せねぇのかよ。」
「すみませんすみませんすみません、現在『シーガーデン』で対応中ですので、しょ、少々お待ち下さい、すみませんすみません…」
「私これから娘の結婚式なの。あとどれくらい掛かるの??」
「わ、分からないんですすみませんすみませんすみませんすみませんすみません」
人々を相手にしているのは1人の少女だった。
気弱に伏せられた美しい水色の目。白に所々黒いメッシュが入った長い髪には、数本三つ編みが施されている。青色のラッシュガード※を着ており、波を背景に『SEA GARDEN』と書かれた黄色いロゴが右腕に印刷されている。ラッシュガードの下にはスカートタイプのスク水を着ているようで、サメっぽい尻尾が出ていた。
すごい...本当に異世界なんだ。
気弱そうな彼女は、今にも群衆に押し切られそうになっている。流石に見てられないな…そう思い、文句を言っている群衆と女の子の間に割って入る。
「ちょっと。対応中って言ってるんだから、大人しく待ちましょうよ。女の子1人に向かって寄って集って文句言うなんて、大人として恥ずかしくないんですか。」
それを聞いた群衆はばつが悪そうに口を閉じ、次第に散っていった。
「悪かった。あんたらが一番大変だよな。」
「いえ、あの、ご不便をお掛けします・・・。」
先頭のおじさんは少女とそんな会話を交わしていた。案外素直に話を聞いてくれて助かった。そういえば、俺の言語も通じていたし、普通に会話は出来そうだ。
ホッとしていると、先ほどの少女が話しかけてきた。
「あ、あの、ありがとう、ございます。ご、ご迷惑をお掛けしました。」
「いやいや、これくらいは全然。こちらこそ、色々聞きたいことがあってさ。」
「え、あ、はい、なんでしょう...」
この子ならこの世界の事に詳しそうだし、色々聞かせてもらおう。
「まず...君の名前と、ここがどこか知りたいんだけど...」
「わ、私は海互 コバンと言います。それで、ここは『エントランス港 ムーン大陸』です。『サン大陸』や他島々に行くための船が出ている場所、です。」
「『ムーン大陸』と『サン大陸』っていうのは...?」
「え?あ、えっと...この世界にある、二つの大きな大陸です...。他にも島はありますけど...。」
こちらで言うユーラシア大陸とアメリカ大陸みたいな感じなのだろうか?知らない世界とはいえ、類似点が多い分、案外苦労はしないかもしれない。
「なるほど。さっき言ってた、『シーガーデン』っていうのは?コバン...さんの服にも書いてあるよね。」
「シーガーデンは、この港町を守っているギルド、です。あと、私の事は呼び捨てで構いませんので...多分、あなたの方が年上ですし...。」
そういえば、コバンが幼く見えるので何となくタメ口だったけど...結構失礼だな、俺。今更敬語にするのも距離を取っているみたいになりそうだし、このままで行こう...。
「ありがとう。じゃあ、コバン。ギルドっていうのは...」
「は、はい...ギルドは、世界各地でその国々を守っていたり場所によっては自治していたり...って組織です。あ、サン大陸の方にギルドの総本部があるんです。」
「なるほど、ありがとう。」
「いえ...。」
他にも聞きたいことはあるが、時間取らせては悪いだろうか。などと考えていると...
ぐぅぅぅぅ
「やべっ・・・」
俺の腹が文字通りぐうの音を上げた。思えば、飛ぶ前からまともなご飯食べてなかったな・・・。
「お腹、空いて・・・じゃあ、ウチのギルドでご飯とか」
「マスター!!ちょっと良いかー!?」
コバンの後ろにある乗り場からこちらに向かって走ってくる人影が見えた。
「あ、オルカちゃん...!」
オルカ、と呼ばれたその少女は、白と黒のオッドアイの大きなつり目。コバンと同じ青いラッシュガードを着ているが、チャックは開けている。中には白のラインが入ったスポーツ水着と赤いスカートを履いている。印象的なのは少年っぽい彼女のルックスとは相反し、肩まである真っ黒な黒髪をハーフアップで纏め、赤いリボンの可愛い髪飾りを付けていることだ。オルカという名の通り、シャチと思われる尻尾も出ている。
コバンと同じラッシュガードを着ているということは、オルカも『シーガーデン』のメンバーなのだろう。コバンをマスターと呼んでいたあたり、『シーガーデン』のマスターはコバンか。失礼だが、全然そうは見えない。
「なんで二人共水着なの・・・?」
「わ、私たちは主に海で戦うので...。」
なるほど。オルカはシャチだし、コバンは...コバンザメか。
オルカは俺の事には目もくれず、慌てたようにコバンに話しかけた。
「客の対応中に悪ぃな。今回特に暴れ散らかしててよぉ。アタシらだけじゃ対応しきれねぇんだよ。」
「そ、そっか...どうしよう...。」
「あのさ、何か俺に出来ることない、かな。事情とかは、何も知らないけど...。」
事情どころか、何も知らないが。だけど、世界を知るには丁度いいかもしれない。こんな事を考えるのはダサいかもしれないが、とにかく何か食いぶちが欲しい。
俺の発言を聞いたオルカと呼ばれた少女が、ギロリとこちらを見て口を開いた。
「あぁ?助かる...けどよ。アンタ戦えんのか?魔法とか使えるように見えねぇけど。」
「魔法...は使えません...。」
思わず敬語になってしまった。というか、多種多様な種族やらギルドやらがある時点で予想はついていたが、やはりこの世界には魔法が存在しているのか。
「う~ん...なら任せらんねぇなぁ。」
「で、でも、話だけでも聞いてもらわない...?このまま私達だけで悩んでても仕方ないし...。それに、魔法が使えなくても、みんなの手当とか出来ることはあると思うよ...。」
「・・・マスターがそういうんなら...。」
恐らく、俺の無知な様子と腹の音が鳴った事から、食いぶちに困っているのを察してくれたのだろう。さっきはマスターに見えないと思ったが、ちゃんとマスターなんだな…。
「コバン、ありがとう。」
「へ?いえいえ、むしろ巻き込んでしまって申し訳ないというか...。あ、そういえば、お名前って…」
「今まで名前知らねぇで話してたのかよ…」
「俺は、水野優吾。優吾でいいよ。」
「珍しいお名前ですね…ユーゴさん。」
「ゆー…ご、ゆーご、ユーゴ!」
2人ともカタコトな発音が可愛らしい。少女が多く、名前はカタカナっぽいので漢字の名前はあまり聞かないのだろう。
「あ、そうだマスター、悪ぃんだけどよ。さっき怪我しちまってさ。回復してくんねーか…?」
「分かった…!」
ほう、コバンは回復役なのか。コバンの優しい性格によく似合っている。
オルカに向かって、コバンが手をかざすと柔らかな光がオルカを包んだ。まさか、魔法をこの目で実際に見る日が来ようとは思わなんだ。
「へぇ…すげぇ…それって俺も・・・
ヴヴンッ
[海互 コバン]
体力:C
防御:B
魔力:S
筋力:E
得意技:回復、防御弱体魔法
・・・・・・は?」
突然、コバンの隣にゲームのウィンドウの様なものが表示された!?
「わ、わわわ私何か不手際を・・・!?」
「あ、いや・・・」
腹が減った事による幻覚かと思い、目を擦る。が、ウィンドウは表示されたままだ。
何とか状況を伝えようとするが、
「・・・・・」(あれ・・・?)
「あぁ?お前どうした?」
「・・・・・」(声が...出ない...)
怪訝な目で睨み付けてくるオルカ。
「・・・・・」
「「?」」
今俺の頭の中で、一つの仮説が浮かんでいた。これが正しければ、このウィンドウの事は少女に伝えてはいけない要素なのだと思う。
俺の中で浮かんだ仮説。
街を歩く多種多様な人々、ヤケに多い若い少女
俺にだけ見えるウィンドウ・・・
俺が生前、唯一得意で大好きだったもの。
本日二回目の、まさか、まさかとは思うが・・・
「もしかして俺、美少女ゲーの世界にいる・・・!?」
海互 コバン 港町のギルド『シーガーデン』のマスター
テンプレからのスタートでつまらなかったかもしれませんが、読んでくれてありがとうございます。
何とか差別化できるように頑張って後の話考えたので、ぜひ二章までお付き合いしてほしいです。長ぇよって思う方は5話まで追ってくれると嬉しいです。
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