第十話 背負ってきたもの
来て頂きありがとうございます。
「コバン、お疲れ。」
「あ、ユーゴさん...お疲れ様です。」
「オルカの...容態は?」
ゆっくりと、首を横に振るコバン。
あの後、引き上げられたオルカは意識が無く、もう数日目を覚まさないのだ。
幸い、噛まれたのは尻尾だけで日常生活に影響は無いそうだが、大きくえぐれてしまい治るかは分からないとの事。
コバンが使える回復魔法は傷口を塞ぐ事しか出来ないらしく、ここまで大きな怪我を治すには相当な時間を要するらしい。
「私のせいで...。」
「コバンのせいじゃないよ。サンゴとクララもそう言ってたでしょ?」
「みんな優しいから...それに甘えてちゃ駄目なの。私だけは、私を許せないままでいないとっ...。」
作戦後からコバンはずっとこの調子で、自分を必要以上に責めていた。
作戦前に聞いた、コバンのミナミさんに対する想い______
[私もそんな風にできたら、そんな風になれたらって...。]
[今の私があるのは、お姉ちゃんが居たから。]
コバンはずっと、姉の影を追ってきた。
それがある日突然なくなって、1人大きな荷物を背負ってきた。
周りがいくら肩を貸しても、借りれば借りるほど心への負担が大きくなっていく。
そんな状況で誰が完璧にできようか。
でも、いくら言葉を掛けたって今のコバンには重くのしかかるだけだ。
なんて声を掛けたら良いか分からなくて、静かに部屋を出た。
こんな時、ミナミさんが___最愛の姉が彼女の隣に居たなら、なんて声を掛けるのだろう。
「難しい顔をしてるねぇ~。」
「ユーゴさん。お疲れ様です。」
廊下で佇んでいたら、クララとサンゴが声を掛けてきた。
これからオルカの部屋に行く予定だったのだろうか。
「クララ、サンゴ、お疲れ様。水龍の様子は・・・?」
「相変わらず、落ち着いた気配は無いねぇ~。魔法攻撃の威力が下がったくらい?」
「そっか・・・。」
そう。水龍の方も、残念ながら落ち着く気配が無かったのだ。
落ち着かせる方法も分からず、オルカは戦えず・・・。完全に八方塞がりになってしまった。
「マスターは相変わらずですか?」
「うん・・・。」
「昔から責任感強いからねぇ~。」
確かに、ミナミさんの話をしていた時に思ったが常に『頑張らなければ』と思って行動しているように思う。それはきっと今も変わっていないのだろう。
「私達がコバンちゃんの事を『マスター』って呼ぶのも、『マスターとしての自覚を持ちたいから』ってコバンちゃんの方から提案してきたしねぇ~。」
「そうだったんだ...。」
「そんな気負う必要無いのにねぇ〜。ま、そんなあの子の事だし~今はそっとしとくしかないね~。」
クララやサンゴも「なにを言っても重くのしかかるだけ」という考えは同じなのだろう。
2人と別れた後、食材の買い出しに街へ出た。
以前食材と思って買ってきたものが猛毒だった事があり、食材の買い出しは俺に任せてはいけないという事になっていたのだが、オルカが倒れているだけでなく、コバンもずっとオルカの回復に付きっきりなので、普段やらない仕事も回って来たのである。
逐一毒で無いかを店主に確認しながら買い物を進める。屋台が立ち並ぶ様は観光でも楽しいだろう。などと考えていると...
「おや、奇遇だね。」
「!!」
聞きなじみのある声が聞こえ振り返ると、ゴシックな黒い日傘を持ったキョウが立っていた。何度見ても見惚れてしまう程美しい人だ。
「キョウ、久しぶり。何してたの?」
「少し欲しい物があってね。観光がてら歩いていたところさ。キミは...買い出しかな?」
「そんなところ。」
本当に奇遇だ。水龍の件、なぜキョウが討伐以外に協力しないのか聞きたかったし、丁度いい。
「キョウ、水龍の事で聞きたいことがあるんだけど...。」
「ふむ...構わないよ。ここでは何だし、移動しようか。」
キョウに連れられ、海沿いの道へ赴く。
キョウは少し進んだところにあるベンチに腰掛け、隣をトントンと叩いて座るように促してきた。
「さて、質問を聞く前に...キミは水龍の正体について知っているのかな?」
「う、うん。コバンのお姉さん...ミナミさんだって教えてもらった。」
やはり、キョウも知っていたのか。
「ならばキミが気になっているのは、何故私は討伐にしか協力しないのか。違うかい?」
「...合ってるよ。」
この人、本当にどこまで見抜いているんだ...!?心の中を読む魔法でも使っているかのようだ。
少し間をおいて、キョウは口を開いた。
「結論から言えば、彼女から頼まれていたから、かな。もちろん、理由はそれだけでは無いけれどね。」
「頼まれてた・・・?」
「そう。私はミナミとは友人でね。よく手合わせをしたものだ。」
そう語るキョウの表情はどこか懐かしむようだった。
キョウの実力を目の前で見たわけではないが、キョウの助力で水龍を鎮められるくらいなのだから、相当の実力者だろう。
そんなキョウと手合わせできるなんて、ミナミさんはどれだけ強かったんだ...。
「ここも、ミナミがお気に入りの場所だと言って紹介してくれてね。色々な事を語らっていたよ。その中で、彼女は自分が化身族であることを打ち明け、万が一の時は...と言っていた。」
自分の秘密を打ち明けるくらいには親しかったのか。
「ミナミさんは、なんでキョウにそんな事を…?」
「それだけの覚悟だったと言う事だ。たとえ姿が変わり、理性を失い、二度と戻らないとしても…この街やシーガーデンを守るという強い覚悟。それから…あの子達にその決断をさせたくなかったのだろうね。」
「キョウは一人で討伐しようとは思わなかったの?」
「あいにく、私は水中戦は苦手でね。」
さらり、と答えるキョウ。
「コバンたちに決断させたくなかったというミナミさんの想いは…!?」
「ミナミ、悪いね。…これでいいかな?」
「良くない気がするッッッけど、実際そうするしか無かったわけだもんな…。」
「ふふふ、人情深いね。」
すごくからかわれた気がする…。
「水龍の沈静化には失敗していた様だけど…討伐に踏み切れたなら、また私のところへ連絡するといい。力を貸そう。」
「うん。ありが……あれ、キョウは元々水龍を討伐しようとしてたんだよね…?じゃあ取引なんてしなくても…」
「ほら、ユーゴ。通信が鳴っているよ。」
見てみればコバンからの着信。本当だ。気づかなかった。
「キョウ、ごめんちょっと…あれ。」
顔を上げた時には、そこにキョウの姿は無かった。逃げたな……。
それはさておき、通信に応答する。
「もしもし、コバン。どうしたの?」
「オルカちゃんが起きた…!!」
回復魔法 術者の熟練度によって威力が変わり、欠損した部位を再生した術者もいるとか。
ユーゴが食材だと思って毒を持ってきたエピソードは6話の次の番外編です。
読んでいない方は読んでみてくれると嬉しいです!




