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【商業企画進行中】さようなら、私の初恋。  作者: ごろごろみかん。
一章:さようなら、私の初恋
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ちょっと酷い。

「──」


家族は、私にもっと強くなれ、と言う。

でも、家族の言う【強さ】とは何なのだろう?

他者を虐げても、他者に苦しみを与えても、それを当然と呑み込める【度量の深さ】?

でもそれは、自身に与えられた能力を当然のものと思い込んだ奢りとも、言えるのではない?


(ううん、それよりも)


自室に戻った私は、部屋の扉に背を預けながらおおきくため息を吐いた。


「っはぁーー…………」


(酷すぎない??)


確かに、貴族として、【宝石姫】の両親として。

彼らにも立場があるのだろう。宝石姫を産んだことによる、自尊心もあるのだろう。


でも──それ以前に、私は、彼らの娘だったはずだ。

私は、お父様には、お母様には、私の持つ肩書きよりも、私自身を見て欲しかった。


それは、そんなにも欲張りで、贅沢で、強欲なものなのだろうか?

私の持つこの望みは、大それたものなのだろうか。


もし、例え、この望みが大それた傲慢な欲だったとしても。

私は、そうであって欲しかったのだ。


ほかの誰が私を宝石姫という記号でしか見ていなかったのだとしても。家族には、血の繋がった肉親にだけは、私を、ただのひととして見て欲しかった。


だけど──それも、叶わない夢だと、知ってしまった。


お父様は、お母様は、私がウィリアム様に嫌われていて、彼に忌避されているのを知っている上で、彼の妻になれと言う。彼らは、私の幸せではなく、家の幸せに重きを置いている。


彼らにとって大事なのは、(わたし)の幸せでは、ないのだ。


「……そっかー。…………そっかぁ」


繰り返し、理解するように呟いた。

ウィリアム様に殺されたあの時。希望は消えたと思っていた。微かに残っていた恋心は燃え尽き、その残滓さえも掻き消えた。


宝石姫として生きた私に待っていたのは、ただのひととしての死だった。それを、理解していたはずだったのに、まだ、少しだけ苦しい。


(……だいたい、まともな親が、毎月【規定量】の宝石を生み出せと強要するはずがないじゃない)


なぜ、そんな簡単なことを、私は忘れていたのだろう?


毎月の提出する宝石の規定量は、杯をいっぱいになるまで。王家から与えられた黄金の杯を宝石いっぱいで満たすのが、私の責務。


ほんとうは、価値の高いダイヤモンドを生み出せと言われているのだけど、私にはダイヤの生み出し方が分からない。レッドダイヤモンドなら、血を流せばそれになるのだけど。


お父様にも、お母様にも、お兄様にも。

そして、カティアにも、宝石の提供をやめるよう言われたことは無かった。毎月、ナイフを手に持って肌を傷つけ、血を流した。


痛いのは、嫌いだ。

幼い頃は、自傷行為を拒否し、嫌がって泣いたことだってある。

だけど、両親は、『それが、宝石姫(あなた)の責務』だ、と言って拒否することを許してくれなかった。


今思えば、私が宝石姫の責務なのだから仕方ない、と思い込むようになったのは。そう思うようになったのは。幼い頃からの、両親の言葉が理由だったように思う。


(まるで洗脳。……呪いのよう)


扉に背を預けたまま、ゆっくりと考える。

どうすべきか。どうしたらいい。


どうしたら、私は──。


ここから、逃げられるのかを。





その時、ふと気がついた。


(あ。結局、水を貰ってくるの忘れちゃった……)


まあ、いいか。今降りて、両親やカティアと鉢合わせになったら、それこそまずい。


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