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【商業企画進行中】さようなら、私の初恋。  作者: ごろごろみかん。
三章:宝石姫を失った代償

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略奪された他国の宝

その反応に、是だと推測したのだろう。リアム殿下が真剣な面持ちで言葉を続けた。


「やっぱりそうなんだね。文献は真実だったか」


「どういう意味です?……文献?」


「……ルシア、よく聞いて。そもそも、宝石姫というのはベリア国で生まれたものでは無いんだよ」


「…………は?」


突拍子のない言葉に、思わず間の抜けた声が出た。目を見開いていると、リアム殿下は頬杖をつき、人差し指を立てた。


「順を追って説明する。まず、悪魔憑きの魔女。彼女がなぜああ呼ばれているのか、あなたは知っている?」


「知りません。あなたはそれをご存知だと?そもそも、なぜあなたは魔女を訊ねて──」


尋ねようとすると、リアム殿下はうん、と頷いた。


「それも、後でちゃんと説明する。まず、悪魔憑きの魔女だけど、恐らく彼女はうち──サミュエル国の人間だと、俺は思う」


「それはなぜ?」


「我が国の伝承に、悪魔がいるからだ。悪魔がいて、天使がいる。我が国は天使の祝福を戴いた国だ」


「……なるほど。あなたのお話は分かりました。ですが、魔女がサミュエルの出だと断言するには、理由が弱いのでは?伝承に悪魔が出る国は他にもあるかもしれません」


「そうだね。あなたの言い分も一理ある。だけとね、ルシア。彼女は自身を【悪魔憑き】と名乗っている。そこにヒントがあるんじゃないか、と俺は思うんだ」


悪魔憑きの魔女、なぜそう呼ばれるようになったのか、そもそもいつから彼女は存在するのか、誰もが知らない。ただ、迷信にも近い噂話の中で、彼女は度々出てくる存在だ。

例えば、魔女の怒りに触れるとカエルにされる、という、恐らく絵本の内容から派生した噂話だったり、はたまた魔女に願えば代償と引き換えに叶えてくれる、という、悪魔という言葉から連想された噂話だったり。

だけどそのどれもが【噂】の域を出ない。実際に魔女に会って願いを叶えてもらった、とか、魔女の怒りに触れた、なんて話は聞いたことがない。

私は王太子の婚約者として、そして宝石姫として育った。社交界に回る情報の全て、とは言わないがその大半はステアロンの家に入っていたはずだ。その私が知らないのだから、魔女に関連する噂はやはり、噂の域を出ないものが大多数だったのだろう。


(だからこそ……驚いた)


以前、ウィリアムに殺された時。彼は魔女から薬を用立ててもらったように言っていた。つまり、彼は魔女と取引したのだろう。魔女は実在する。死に際になって初めて私はそれを知ったのだ。


なぜ、彼女は私を殺すための協力をしたのか。

魔女が無償で頼みを聞くとは思えない。だとしたら、その代償は?

もし、リアム殿下の言う通り、魔女が隣国の出身なら、なぜ今彼女はベリアにいるのだろう。その目的は?


うっかり考え込んでいると、静かな声が私の思考を破った。


「ひとまず今は、魔女は我が国の出身で、彼女は悪魔と取引をしてその立場を得たと仮定する」


顔を上げると、リアム殿下はティーカップを持ち、ファルクの淹れた紅茶に口をつけていた。私はそれを呆然とみながら、つぶやくように尋ねた。


「悪魔と、取引……?」


「サミュエルでは、悪魔と取引して堕ちた人間のことを魔女という。そして、天使に選ばれた人間……これを愛し子と呼ぶんだけど、愛し子がその魔女を倒したことで、今のサミュエルが生まれたとされている。これが、我が国の伝承。……どう?悪魔憑きの魔女と被るところがあるんじゃないかな」


「……もし、悪魔憑きの魔女がサミュエルの出なら、なぜ彼女は今ベリアにいるのでしょう?」


「伝承通りなら、退治されたくないから?……なんてね。そこは、俺にも分からない。だけどこの話において、魔女の正体はさほど重要ではないんだ。そっちじゃないんだよ」


そっちじゃない……?

私は首を傾げながらリアム殿下に尋ねた。


「では、なぜ彼女の話を?」


「あなたに我が国の伝承を話し、サミュエルには天使に選ばれた【愛し子】がいることを伝えたかったからだ。さっき、俺はあなたに言ったね。魔女と敵対する存在がいる、と」


ゆっくり、先程の内容を簡略化して要点だけ話すリアム殿下に、私はある推測を抱いた。


もしかして──


「魔女が存在するなら、愛し子も存在する……?」


私の疑問にリアム殿下は目を瞬いた後、指を鳴らした。


(that's)正解(right)!すごいね。今の話だけでそこまで読めたんだ」


「十分、分かりやすくお話くださったと思いますが……。では、そうなのですね。魔女と敵対する存在が実際にいるとして、それを私に話している……ということは」


点と点が線で繋がっていくような感覚。その瞬間、私は頭が冷える感覚を覚えた。もし私の考えが正しいなら、今話していることは【宝石姫】に関連すること、いえ、もっというなら恐らく、この話題の最終着地点は──私が知りたいと思っていた疑問への、答えになるかもしれない。ごく、と息を呑んだ私は、真っ直ぐにリアム殿下を見つめ、尋ねた。


「その愛し子こそが……私、宝石姫なのですか?」


一瞬、静寂が室内に広がった。聞こえてくるのは、外の雨音のみ。雨足は落ち着いたようで、先程のような激しさはない。シトシトと静かな音が聞こえてくる。しかし、その反面、雷は立て続けに響いてくる。今も、雷がどこかに落ちた音が聞こえてきた。


ゴロゴロゴロ……ガッシャーーーン!!という、暴力的な音が聞こえてきて、その衝撃のためかテーブルに置かれた三枝付き燭台(ジランドール)から二本の蝋燭の火が消えた。


ふっと、炎が掻き消え、室内の光量が絞られる。


直後、また激しい雷がどこかに落ちた。

今度は近い。


リアム殿下は、私の質問になにか答えるより先に笑みを浮かべた。挑戦的で、まるで猫のような笑みだ。

目を細めた彼がゆっくりと答える。


「その通り。宝石姫は、約千年前に我が国からベリアに略奪された──愛し子だよ」


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