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宝石姫の価値 ①


ルシア・ステアロン嬢が行方不明。

その報が王城に届けられると城内は大騒ぎになった。


宝石姫ことルシアが生み出す宝石はどれも純度が高く、高品質だ。それに、彼女は磨かれた宝石だけでなく、原石をも生み出す。

今はもう採り尽くしてしまった鉱山と似た品質の宝石もまた、生み出すことが出来るのだ。


ベルアにとって、ルシアは手放すことの出来ない金蔓、養分、あるいは金の卵だった。

予算を気にせず政を行えるのも、ルシアの宝石があってからこそ。


その本人がいなかった、となれば──。

とうぜん、議会は混乱する。


王太子、ウィリアムは父である王に呼び出され、謁見の間にいた。

謁見の間にはほかにも、議席を持つ大臣や有力貴族の顔ぶれが揃っている。重臣らの顔をそれぞれ見てから、王が重々しく口を開いた。


「……先日、ステアロン伯爵邸で火事が起きた」


「存じております。ご令嬢──宝石姫が行方知れずというのは、ほんとうなのですか」


ひとりの重臣が尋ねる。

それに、王は額に手を乗せて答えた。


「報告通りだ。ステアロン伯爵邸の火事が鎮火された時、宝石姫ことルシア・ステアロン嬢のみ、姿が見えなかった」


「そんな……!では、これから我が国はどうなるのですか!!」


ルシアが毎月差し出している規定量の宝石は、全て海外へ輸出されている。今はもう採れない、幻の宝石はとんでもない高値がつく。

王は、その取引で得た金銭を、諸予算や、貴族への手当に充てていた。


金は、精神を安定させる何よりの薬だ。

大臣や貴族らが不満を募らせないよう、王はルシアから得た金を臣下に配っていたのである。

その上、毎月湯水のように湧いてくる金に着服する役人も少なくなく、ルシアの行方不明の報は、彼らに大きな衝撃を与えた。


彼女の安否を気にしているのではない。

今後の、自分たちの生活が気がかりなだけだ。彼らにとって、ルシアとは文字通り金だった。


ひとりの人間である前に、彼らには金を生み出す道具、としか見ていないのだ。


「ルシア嬢は生きているのですよね?」


「早く捜索隊を出しましょう!我が家からも私兵を派遣させます」


「一体、殿下は何をされているのですか!ご婚約者というお立場にありながら、ご令嬢をたいへんな目に遭わせるとは……」


「陛下、ルシア嬢を失うのは、ベルアの損失ですぞ!策はあるのでしょうな!!」


謁見の間は、紛糾した。

みながみな、自身の保身のために口を開く。責められたウィリアムは彼らのその様子に気分を害したのか、わずかに眉を寄せた。


王は、口々に叫ぶ彼らを見て、手にした王杖を三度、打ち鳴らす。シャン、シャン、シャンと謁見の間に高らかな音が響く。それに、我に返ったように貴族たちは口を閉ざした。


「捜索隊は既にステアロン伯爵家に派遣させておる。管理不行き届きとし、ステアロン伯爵には罰を与えることも決めておる。……彼女が自分の意思で(・・・・・・)逃げ出した(・・・・・)のなら、そうすることの方が、効果があるだろう」


「自分の意思で……とは、どういう?」


そこまで、ずっと静寂を保っていたヴェリアン公爵が静かに尋ねる。淡々とした重低音に、また場がしんと静まり返った。

ヴェリアン公爵は、王家に継ぐ歴史を誇る、格式高い家柄である。


「ルシア嬢は、ウィリアムのことで頭を悩ませておった」


「──」


その言葉に、僅かにウィリアムが目を見開く。だけど、それはほんの一瞬のことで、彼はまた平静を装い、話を聞いていた。貴族たちは王の言葉にまた、ざわめいた。


「なんと……」


「キャサリン嬢のことか。ステファニー公爵家の……」


「では、それを咎めなかったステファニー公爵にも非が……」


小声で囁かれる言葉に王は厳かに頷くと話を続けた。


「貴公らの言う通り、この件は、我が愚息、ウィリアムと、ステファニー家にも非がある問題だ。宝石姫という婚約者がいながら、ほかの女に目を向けたウィリアム。宝石姫という婚約者がいることを知りながら近寄ったステファニー公爵家の令嬢。どちらも、愚かとしか言いようがない」


「っ……」


「それぞれの責任の追求はまた、違う場で行うとしよう。まずは、ルシア・ステアロン嬢だ。彼女の容姿は銀髪青目と、よくある色合いだが、彼女はその瞳が特徴だ。宝石姫の象徴でもある瞳を隠すことは出来まい」


王はぐるりと謁見の間に集まった貴族を見て、重々しく言った。


「みな、自領の私兵に伝達せよ。【瞳に蝶を飼う者】を見つけたら、容姿、性別は問わない。必ず捕らえよ、と」

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