9話 黒井先輩1
遅れて教室に入ったらクラスメイト全員がこっちを見てきた。授業中なのに先生も手を止めてジッと僕を見てくるから今からでも廊下に出たい気持ちが溢れてきたけども流石それをすると変な噂が広まりそうだからやめておく。父さん達にはこれ以上迷惑をかけたくはないからね。
大人しく自分の席に着いて教科書を取り出してから黒板を見ると数学の先生は「あー次からは遅れて来ないようにしろよ」と言って授業をまた再開した。初めての授業なのにこんなにも目立つなんて最悪だな。昔からユウのことで巻き込まれることが多くて中学では「自称モブ」やら「死神モブ」やら言われてしまった。
それにあの会長がいらん噂を流してくれたせいで僕がどのくらい苦労したことか。ユウには「世間が敵になっても俺は味方だからな」といい笑顔で言われたことが尚ムカつく。しかも当時のクラスメイトには暖かい目で見てくるんだよ。黒井の野郎は、その噂を僕に知られないように徹底していやがったからあの野郎の味方はせん。いつの間にか授業は終わっていたみたいでユウが僕の席まできていた。
「サキ、大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ。なんで僕だけなのかは解せん」
「流石にアレはやりすぎだろ」
不良共を気絶させてまわっただけなのに。まぁ流石にやり過ぎたかもしれないから反省はしておくけどさ、正当防衛として成り立つと思っているんだけど無理だよね。それはサイコさんがなんとかしてくれるでしょうから任せておくけど、問題はそれじゃないんだよ。僕が暴力を振うような人間だと思われると今後の高校生活がヤバイ。
「そういえば雪菜ちゃんが何かあったのかを聞いていていたぞ」
「なんて答えたんだよ」
「不良たちをボコして捕まって連行された」
「合っているけど違う」
確かにあっているんだけどもしっかりと理由があるんだんよ。それをユウはおそらくわざと説明を省きやがったなこの野郎。これで雪菜さんに誤解されてしまったらどうするんだよ。まぁ別にあいつには関係ない話だろうからそういう風に言ったんだろう。
「その雪菜さんはどこにいるんだよ?」
「赤城さんに連れて行かれたよ」
「赤城って誰だ?」
僕がユウに赤城沙耶というクラスメイトでまだ2日目だけどクラスカーストは上位とのこと。どうでもいいと思うが流石に声には出さないでおく。ユウのヒロインかもしれないのでここは仲良くしておくべきだろうか。僕は雪菜さんと仲良くなりたいけどもユウと仲が良いのが腹がたつので赤城とかいう奴と仲良くするか。
僕が考えていたら赤城と雪菜さんが教室に戻ってきたので弁解しに行こうと席を立つと何故か座らされた。ユウが肩を押さえ込んでいたので僕は困惑してしまうが「今は行かない方がいいぞ」と言われた。雪菜さんの耳が少し赤いような気がするんだよな。赤城の奴め……雪菜さんに一体何をしやがったんだ。
「お前なにか勘違いしてるな」
「ユウは良いなよ。雪菜さんと仲良くなれて」
「はぁ、親友として心配だよ」
何を心配しているかは分からないけど、お前は自分のヒロイン(仮)のことを心配していろよ。今朝の子だっておそらくはお前のハーレム要員の一人になるかもしれないんだぞ。天然たらしの大馬鹿野郎なんだからって言っても何も分からないんだよな。まぁそのことはあとでなんとかするとして、雪菜さんと仲良くなる方法はないものか。
「雪菜さんの好きなものとか知らないか?」
「自分で……変わってなければイチゴだな」
「僕と一緒じゃん」
「・・・そうだな」
何故か物凄く暖かい目で僕を見てきた。別にそういう目で見てきてもいいんだけどもそろそろ肩を押さえつけるのをやめていただけるとありがたいんだけどもやめてくれないよね。僕はなにもしないんだからいい加減さ離してください。チャイムが鳴るまでユウは肩を押さえ込んでいた。
その後も何もなくてお昼休みまで雪菜さんとは1度も喋れていない。ユウも赤城も楽しく雪菜さんと楽しそうに喋りやがって……僕が参加しようと近づくと雪菜さんは避けるし本当に嫌われているのかな。なんて考えていたら「やぁ、咲人くん。お昼一緒にどうかな?」と声が聴こえてきたので顔を上げてみて即顔を下に向けた。
「無視するなんてひどいじゃないかぁ」
「生徒会会長様がオレになんの用ですか?」
「ここではアレだし食堂に行こうか」
僕はお弁当があるのでお断りしたのが無理矢理に連れて行かれてしまった。母さんの手作りお弁当を持って食堂まで来た。黒井会長は「今日はえらく大人しいね。絶対に抵抗すると思ったのにさ」と笑顔で言い放った。僕は少しムカついたので黒井先輩を無視して食堂を見渡す。結構広く大勢の生徒が利用するからなのかメニューも豊富みたいだな。
生徒会役員のリストバンドを付けている奴は何人かいるけどもリストバンドの色が違うのはなんでだ? 黒井先輩に来たら分かるだろうがこの人に聞くのは少し癪にさわるので聞きたくはないな。ユウが言っていた派閥ってやつが影響しているのかは知らないが……どっちがどっちだ? 白と青って両方ともイメージが出来ないな。似合ってないしさ、ここにいる人が似合っているのは紫だし、アイツは黒だしな。
「おや食べないのかい?」
「アンタの派閥はどっちだ」
「流石だね。もう知っているとは」
アレは派閥に関係しているんだな。黒井先輩は「白だよ。私の派閥の子はね」と言っていつの間にか注文していたキツネうどんを啜っている。黒井先輩と一緒に食堂にいるのはマズったか。厄介なことに巻き込まれることになるかもしれないからこの目の前に居る人を警戒しよう。
黒井鏡花という奴は……ヘビと同じく陰からジッとねっとりと狩れるチャンス窺っている。




