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86話 色付いた記憶のウサギ追い 2

〜色付いた記憶のウサギ追い〜


 僕が家の用事で休んだ日に雪菜さんが組の奴らにいじめられているというのを耳に挟んだ。その時点で僕はたぬさんを除いて全員を叩き潰すことを決めていたのだが雪菜さんが「二人には言わないで」と言っているところを聞いたので何事も無かったように過ごした。ただ僕が見つけ次第……皆殺しにでもしてやろうと密かに心に決めた。


 雪菜さんをこっそりとイジメるのに慣れたのだろうかは分からないが奴らは僕がいることに気が付かずに彼女に水をかける計画を小声で話していたのを聴いたので僕は即潰しにかかった。保育士に注意されているはずなのにも関わらず続けていたことは知っていたがあえて見逃してあげていた。雪菜さんが頑張っていたからそれを僕が無駄にするわけにはいかないので悔しいが耐えていただけだ。


「ひっ……」


 一人だけ残しておいた。雪菜さんをいじめていたグループのリーダーみたいな奴だったから後でたっぷりと苦しめてやろうと思って残した。彼は怖すぎて腰を抜かしたのか分からないが尻もちをついたまま動けずにいた。彼は「あの女が好きなんだろ!!」と叫んだ。何故いまそんなことを言うのかは分からなかったが確かに僕は雪菜さんのことが好きだ。えっ? ユッちゃんのことが好きなのか。僕は彼に言われて始めて二人とは別の感情で彼女のことを好きだとわかった。


 初めての感情で戸惑ってしまったからなのかは分からないがリーダーを逃してしまった。彼は雪菜さんに危害を加えようとしていたので少し本気で顔を殴った。結構吹っ飛んで行ったような気がするけど絶対に何かの間違いだろう。雪菜さんに怪我などがなくてよかった。癪だがコイツに言われて恋というやつを自覚したみたいだったので一発だけで許しておいてやる。雪菜さんは驚いていたが別に僕のことを怯えている様子はなかった。


「サキ……くん?」


 恋を自覚したからなのかは分からないが雪菜さんがいつもより何百倍も綺麗に見える。色々と済んだ後にたぬさんにこのことを言ったら「はぁ? 私は何千倍だけどぉ?」と何故かマウントを取られた。そこで何故マウントをとってくるとは思いはしたがそれを口には出さなかったのは偉いと思いたい。そんなことよりも問題は出来てしまった。雪菜さんが転園することに決まったのだ。ついでに仕事の都合上でたぬさんも。


「なんでアンタに負けたまま、どこかに行かないといけないのよ!!」

「えぇ……アレは勝ち負け関係ないじゃん」

「私からするとあるのよ!! 分かりなさいよ!!」


 たぬさんからすればあるとのことだったがたかだか演劇会で僕と彼女がダブル主役に決まったから一緒に演技をしただけなのにそこまで気にすることなのか? 雪菜さんは「二人ともすごい」って言ってくれていたからいいじゃん。そこまでこだわることじゃないような気がするのは僕だけじゃないよね。何故だか分からないがたぬさんが思いっきり足を蹴飛ばしてきた。


 何に対して怒っているのかは分からなかったからそのまま放置しておいたが後日、カバンを投げつけてきた後、頭を雪菜さんが止めに入るまでずっとぺちぺちと叩いていた。


〜〜〜


「アンタ、いつまで寝てんのよ」


 何故かずっと頭をぺちぺちと叩いているたぬさんの姿があった。あれ? さっきまで小さかったような気がするけど、気のせいか。僕は彼女の幼い頃になんて出会っているはずはないのだから。というか君って帰った筈だよね。なんで僕の家にい_ここ、家じゃないじゃん。しかもこの布団……雪菜さんのじゃないのか? ヤバい。


「ここって……」

「はぁ〜倒れたって聞いたから急いで来たのはいいけど、どうしたのよ?」

「僕でも分からないかな。何かを思い出していたような気がするけど」

「・・・何を思い出したのよ」


 それがわかったら苦労なんてしてないよ。何を見ていたのかも分からないのにどうしろと言うのさ。まぁこの人からしたらそんなことは一切関係ないんだろうけどね。ただものすごく懐かしいって事だけは分かるんだよ。僕が多くのことを忘れていたとしてもこれは悪い記憶ではないからね。そんなことを目の前にいるコイツに言ったら頭をまた叩かれるだろうな。


「急に帰ってごめんなさいね」

「いいよ」


 そう言えばアレか。料理の練習に付き合うって話していたのをすっかり忘れていたわ。そんなことよりも雪菜さんが何かに悩んでいるから手助けをと思ったからなぁ。それにこの通り気を失っていたみたいだからたぬさんに何かを言えるかと問われたらノーだとしか答えれない。だから別に何かを言われても何も言い返すことなんて出来ない。


「アンタも起きたことだし、あの子を呼びに行きましょう」

「雪菜さんね。何か悩んでいたみたいだけど……」

「それなら私が聞いてあげたから心配しないでいいわよ」


 それならよかった。と思うけど何故に君は少し顔が赤いんだ? 話の内容で何か照れるようなことでもあったのではないのかと勘繰ってしまうからやめてくれないかな。声になんて出す気は毛頭ないけど。おっとそろそろベッドから出ないとね。雪菜さんの物だしこれ以上僕が入っていても良くはないだろうから。僕は体を起こしてベッドを出ようとするがたぬさんに両肩を掴まれて出れなくなった。


 いや……なんで出れないようにする必要があるのさ。僕がベッドから出ないと帰れないし寝れないじゃんか。なんて事を考えている僕の思考を読んでかは分からないが、たぬさんは「両親が迎えに来るまではそこで休んで居なさい」と言われてしまった。確かに気を失っていたわけだし、彼女の言い分が正しい。たださ気になる事があるとすればどうしてそんなに焦っているのかな?


「本当に安静にしていて……私の身の安全のために」

「そんなに重大なの!?」


 それを言われてしまったらしっかりとここで休むしかないじゃんかさ。何も問題ないと思うけど。

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