85話 色付いた記憶のウサギ追い 1
何か異常がないかと思い雪菜さんの家に行ったのだが何故か上がらされて「うちの子が悩んでいるみたいだから相談に乗ってあげて」と言われた。だから雪菜さんの部屋に行って入る前にノックしたが返事がなかったので「入りますよ」と言ってから中に入ったのは良かったのだが……雪菜さんがベッドで倒れ込んでいた。
「私は最低だなぁ」
「雪菜さんは最低なのか?」
「すごく最て_えぇぇぇ」
「良かったら話聞くよ?」
よく分からないが自己嫌悪に陥っていたので話を聞こうと思っていたが凄く驚かれた。どんだけ僕に気が付いていなかったのかが分かるな。解決が出来るかと言われたら出来ないだろうが……聞いて負担を減らすことくらいは出来ると思いたい。彼女は「私の問題だから」と言って僕へ笑顔を見せてきた。まぁ僕でも同じようにするだろうからそれに関しては何も言うことはない。
おそらくは夜夢と何かしら接触したと考えるのが妥当だろう。そうじゃない可能性もあるがそうだとしたら、誰と接触したのだろうか? 僕の弱点として知られているのを考えるに竜二は……案外慎重なタイプだったみたいだから大きくアクションはおこさないだろう。そうだとしたら竜樹あたりか。大きく枠組みをとるとしたら生徒会だな。色々とある組織だから僕への報復として雪菜さんを利用するってのは考えられる。阻止をするけど……今の状態では無理だろう。
流石に雪菜さんの前で考え事に集中するのは良くないか。誰かを励ましたりするのは佐藤に任せていたから上手くない。あの主人公様に頼りすぎていたのを痛感するとは思わなかったな。主人公になりたいとは微塵も思っていないが……好きな人が悩んでいるのに手助けすら出来ないのはこんなにも無力だと感じるモノたのだな。初めての感情って訳ではないか。
「雪菜さんが最低なら僕はその先を行く最底辺かな?」
「サキくんはそんなことないよ」
「僕は佐藤に責任を押し付けて逃げていたんだよ」
「・・・私からしたらサキくんの方が立派」
励ますつもりが逆に気を遣われてしまった。やっぱり佐藤に任せた方がこういうことはうまくいくのかもしれない。適材適所ってヤツだけどこれだけは僕がどうしてもやっておきたいんだよ。他の人なら無視出来るけど雪菜さんは無視できないから佐藤じゃなくて僕が……僕に頼ってほしい。雪菜さんが知っている佐藤は悪いヤツなのかもしれないが僕が知っているアイツはいい奴だから好きになるかもしれないのが怖い。
君の彼氏や好きな人ではないのかもしれないけど、少しくらいは独占欲を出してもいいよね? 僕は普通の人間ではないがそれでも“普通”なふりはできるから君の近くにいるのはいけないのかな。・・・ネガティブな考えを今するべきじゃないだろう。雪菜さんが何かを思い悩んでいるのであればそれを僕が解決すれば良い。ただ自身の成長に繋がるようなモノに関しては僕はアドバイスだけに留めておく。やりすぎは本人のためにならないってことはすでに知っているから。
「雪菜さんは今悩んでいるのを解決するのは一人じゃないとダメですか?」
「じゃなくても良いと思う。けどサキくんには言えないよ」
「僕も間接的に関わりがあるってことね」
雪菜さんはコクリと頷いた。確かに僕に相談しにくいだろうな。間接的にではあるが関係者である僕には相談は少し話しづらいだろう。大体のことはなんとなく予想できるけど、正しいとは決めつけない方がいいな。守友家が……おそらく夜夢と何かあったからここまで悩んでいるのだろう。どこで知り合ったのかは知らないけど、仲が良かったのかもしれないからなぁ。足が治るまでは大人しくしておかないと周りから止められる。
怪我を無視して動けるのであれば降りかかる雨を弾いてやる。本当にそんなことをしたら脚を切られてしまうだろうし、監禁されてしまうから大人しくしておかないとね。先輩Aのことを佐藤達だけに任せて僕は何もせずに居て、雪菜さんの悩みの相談役にすら出来ない。今の僕には一体何が出来るのかが全く分からないけど、何かをやってみよう。まずはたわいもない話をしていこう。
「サキくん、ありがとう」
「僕はまだ何もしてないけど?」
「いっぱいしてくれてるからそのお礼だよ」
「記憶に無いんだけど?」
「いっぱい……助けてくれて……ありがとうサキくん」
涙目でお礼を言う雪菜さんを観て忘れていた記憶がウサギの形をして遠くへと逃げて行く。だから僕は追いかけた。
〜色付いた記憶のウサギ追い〜
雪菜さんと出逢ったのは少し前じゃなくやはり幼い時だったみたいだ。その時の僕は世界なんて不気味でなんの色もなかった。両親はしっかりと姿形が分かるのに他は全く分からないで居た。だから他の人間たちなんて見る気にもなれなかったし見る価値もないと雪菜さんに出会うまではそう思っていた。彼女は普通よりも小さく風が吹いたらどこかに飛んで行きそうな感じだった。
母さんから聞いた話では守ってあげたくなるような女の子。まぁ僕には関係ないと思ったが……守っていきたいと思った。彼女は人の形を保っていたから貴重なモノだと思ったから壊されるのは嫌だから守ることにした。そこまで生きてきていないが普通の奴らよりも弱い彼女を見てどうしてそこまで出来ないことが多いのかと思ったこともある。なのに何故輝いているように見える。僕は全く理解できなかった。
彼女は人見知りが激しく家族や僕の背後によく隠れる。仕方ない奴だと思っていたら急に離れて行って一人で泣いている少女に手を差し伸べる。何も出来ない奴が増えたって意味をなさないと思って眺めていたのだが「サキくん、この子も一緒に入れて遊ぼ」と目を逸らしたくなるような眩しい笑顔を見せて来る。それを見て僕は「いいよ。遊ぼう」と言ってしまう。泣いていた子は“たぬき”と言うらしい……微塵も興味はないから「たぬさん」と呼ぼう。
雪菜さんは僕の中で不思議な人として観察し始めてすぐに保育園に入園することになった。そこで起きた出来事によって僕が彼女への想いに気が付いてしまった。気づかないほうがよかったのかもしれないと思えるほど自分が単純すぎて笑えてくる。




