82話 私の初恋で一番愛しいサキくん 1
懐かしいものを夢で見た気がするんだけど……思い出せない。まぁ別に思い出す必要なんてないから忘れているんだろうが、心の深層が思い出せって言っているように感じるのは何故なのだろうか。僕には分からないものだと言うことだけは分かる。流石にここまで考えても意味がないから一旦は辞めよう。さて目が覚めたのだから起きてたぬさんの料理の練習をしようか。
「咲人くん、おはよう」
「・・・なんでいるの?」
「たぬちゃんがここにいるって言っていたから来たんだけど……」
「アイツが居ない」
「急用があるって言ってたよ。私も帰るね」
急用なら仕方ないけどせめて何か言ってからにしてくれよ。母さんに頼んだ物が無駄になるかもしれないからなぁ。ん? さっきまで誰かさんが居たところにメモ用紙が落ちてるな。何が書いて……見なかったことにしてどこかに置いておかないとな。デカデカと危険人物ランキングとか書いているのが見えたからな。中身はしっかりとは読んでいないからノーカンだろ。
何が目的で落として行ったのかが気になるがこんなのはどこかに隠しておけば誰にも見られることはないだろう。とりあえずポッケに入れて後片づけをしないといけないな。・・・家の防犯についてそれとなく父さんと母さんに言っておくかな。あと、雪菜さんの家も危ないかもしれないからね。
◇◇◇
[???視点]
あ〜ヒヤヒヤしたぁ。いつ気付かれるかが分からなかったから急いで出て来たけど、良かった。寝起きだから気が付かなかったみたいだったし案外チョロい仕事を受けちゃった。この桜木雪菜って子に変装したのはいいけど、まさか原たぬきちゃんをこの目で観るとは思わなかったぁ。ファンだったからサインが欲しかった。紙を置いてきたし何も問題はないだろう。
「ん〜あとは藤咲咲人くん次第だ」
「私のサキくん次第ってなんですか? 変態さん?」
背後から声が聞こえてきたので振り返るとそこには僕と同じ姿をした桜木雪菜が立っていた。一番この仕事をしていてやっちゃいけないことがある。それは本人との接触だ。素顔はバレていないからここから逃げればいいが僕は運動神経は全くない。今日はついてない日みたいだぁ。あの腹黒会長に目はつけられることになるわ。変装している本人に出会うし、本当についてない。
「ねぇ……私のサキくんに何をさせる気なの?」
「ひっ!!」
僕はあまりの怖さに短い悲鳴をあげて腰を抜かしてしまった。平日は同じ教室で授業を受けている普通の女の子が出せるような殺気じゃあない。どうして僕がこんな目に合わないといけないんだよぉ。ジリジリと近づいてくる彼女から逃げる為に地面を這いつくばるが流石に歩いている彼女に勝てる訳なく捕まる。僕の人生が終了した。
「私はやっとサキくんに認識してもらえたんだよ?」
「へ?」
「私との想い出を忘れてしまったのは仕方ないとは思うんだけど、やっぱり悲しい」
僕に追いついた彼女がしたことは隣にしゃがんで話すことだった。全く意味がわからないことを言われても困惑するだけだ。僕はただ依頼をこなしているだけに過ぎないのに……認識や想い出の話をされてもわからない。関わっては駄目なタイプの奴なのは分かったから話に夢中になっているうちに少しずつでも距離をあけないと殺される。明日の学校でも会わないといけないから少しでも恐怖心を_
「ねぇどこ行くのかな?」
_そう言ってきた彼女に頭を鷲掴みにされて首にナイフを突きつけられて僕はあまりの怖さに気を失った。
◇◇◇
[桜木雪菜視点]
私の変装をしているクラスメイトを発見して想い出の話していたらどこかへ行こうとしていたので聞いてみたら、泡を吹いて気を失ってしまった。彼の為だから誰にも言わないでおくけど、漏らしてしまっているみたいだからこのまま目が覚めるまではそっとしておこう。私の顔はしっかりと剥いでおくけどね。それはともかくサキくんも人が悪いと思う。
こんな雑な変装では、すぐに気がつく筈だからあえて泳がせているだなんて。あーあ早く明日にならないかな。夜夢さんとの約束で私はサキくんと仲をあまり深められない。夜夢さんと私はライバルだから平等にしないといけない。一定期間ずつで交代してアピールをするって話だったんだけど、気にしなくていいのかな? 夜夢さんのターンな筈なのにアクションを全く起こしていないし動こうともしていないのはどうしてだろう?
「気長に待たないとね。サキくんは元々私のものだし」
サキくんは私のであり私はサキくんのものである。それはサキくんと出逢って一週間が経った頃から決まっていることだから今更何も覆ることはない。だからと言って待つだけじゃあ駄目なのも分かっているからちょっとずつ距離を縮めていく。だけど11年間しっかりと話していないのは痛いなぁ。イマジナリーサキくんでなんとかしていたとはいえしんどかった。
夜夢さんは知らないと思うが私はサキくんにあの事故以降、143回助けられている。その143回とも私を認識できていなかったのは本当に残念だったが……暗示をかけられているらしいから仕方がない。私はそれについては我慢できていた。だって私のことが大切で仕方ないってことだから。私を守れなかったことで後悔している事から自責の念で押し潰されそうになっていたみたいだった。
「サキくん……昔も今も大好き。私の初恋で一番愛しいサキくん」
サキくんの盗撮写真の眺めて、イヤホンを着けてサキくんの声を編集したものを再生しながら帰路につく。サキくんの前ではしっかりとしないとドロドロになっちゃったら引かれて嫌われるかもしれないから耐えていかないと。・・・夜夢さんに約束の件はなしにしてもらってお互いに好きな時にアタック出来るように話を待ちかけよっと。




