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81話 勝負と後悔 2

 結果だけで言うとたぬさんのおかげで服を奪われずに済んだのだが……「もう勝てないわ」と項垂れている彼女をどうすればいいか分からない。あの後は普通に解放されたのでたぬさんに料理が出来るのかを聞いたところ、目を逸らされた。勝ち目があるから勝負を持ちかけたのかと思ったけど……出来ないとは思わなかった。いやね、得手不得手があるのは分かっているからいいんだけどもダメじゃん。勝ち目が全くないのに何をカッコつけていたのさ。僕の家で母さんに教えてもらいながらやっているとはいえ_


「・・・大丈夫、伸び代があるってことよ。たぬきちゃん」

「おばさん……」

「絶望的だけど」

「うぐっ!」

「母さん!?」


 母さんの一言で丸まってしまった。この人って相当アホだしポンコツだろ。ここ最近で印象の温度差が変わった人No.1だわ。一旦母さんには買い物に行ってもらうことにした。流石にあのままだと色々と酷いことになるだろうからね。対策を立てないといけないけどどうしたものか。夜夢は確か料理は出来る筈だから勝ち目が一切ない。まぁ別に勝ち目が無くても失うものはコイツからしたら無いに等しいから別に対策なんていらないと思うけどな。


 何故か必死になっているからそんなことを言わないでいるが……目の奥に炎があるのは何故? 僕からすればぶっちゃけどっちでもいいと思っているけど、たぬさんはもしかして僕とデートを楽しみに_なんてことは天地がひっくり返ってもありえないだろう。大方、雪菜さんに勝手なことをした上、負けでもしたら嫌われるかもしれないとか思っているんだろうなぁ。そんなことで嫌われないとは思うけどね。


「藤咲……あの女をぶっ飛ばすわよ」

「勝手にどうぞ」

「私はアンタとデートをしないといけないのよ」

「どっちでも良くない?」

「・・・はぁ??? アンタ、あの女とわたしどっちでもいいって思ってるの?」


 何故にいま怒るんだよ。面倒くさすぎるだろこの人は。僕としては二人は同じ枠組みだからどっちでもいいしどうなってもいい。はぁこれに関しては勝ってもらわないと困るかもしれないから肩入れするのであればたぬさんだな。料理勝負と言っても本格的なやつではないから美味しくすればぶっちゃけいい。だから秘策がないって言う訳ではない。ただ……ドが付くほどの下手だからなぁ。


 僕がどうこうしても要がダメだったら意味をなさないからどうしようもないんだよな。これからは特訓するから覚悟しておいてほしい。僕の目がギラついたのを感じ取ったのかキッチンから逃げようとするので襟を掴んで引き留めた。流石にこんな炭しか作れないやつを放置して勝負をさせるほど落ちぶれてはいない。作るのは簡単な物でいいんだよ。料理勝負なんだからね。


「たぬさんには卵焼きを作ってもらう」

「・・・それじゃ勝てないわ」

「勝てる。好みは人それぞれだけど勝てる」

「卵焼きで?」

「ああ、僕が勝たせるから練習しような」


 まぁ五分五分だけど勝てると自信が出てくるようにまずはしないといけないから……あの二人に連絡入れておくか。夜夢が審判を見つけるって言っていたから卵焼きの好みを調べておいてほしい。僕らの方は卵焼きの練習だけど、母さんに小麦粉と牛乳を買って来てもらおう。まずは焼く練習からスタートしないとね。いきなり卵を割って溶いて焼くなんてしんどいからね。


 母さんとあの二人には連絡を入れたから……下準備はないし少し休もう。流石に松葉杖で移動するのは疲れた。母さんが、帰って、来るまで__


◇◇◇

[原 たぬき視点]


 藤咲は疲れていたのかソファで眠ってしまった。忘れ物を取りに学校に戻ったら中庭でまた女狐に押し倒されている彼を見つけた時は文句を言ってやると思ったが……「救おうとしているの?」と言っている声が聞こえて立ち止まってしまった。彼になんと酷いことを言ったのかが分からない女狐に怒りが沸々と沸いてきた。


 あの女狐は彼のことをしっかりと知らないから仕方ないと思うわ。私だって雪ちゃんに聞くまでは知らなかったし同じだったと言えるけど……酷い。純粋な疑問だとして、表情を見てから察せない女狐は本当にダメな人なのね。・・・彼はどうして天才でいることを辞めようとしたのかを今となっては知ってみたい。雪ちゃんや守友夜夢みたいにある意味で惹かれ始めている気が私の中にある。


「ねぇアンタは私にどうしてほしいのよ」


 スヤスヤと眠っている彼に言っても仕方ないか。私はそう思うことにして料理の練習すべく立ち上がると「たぬちゃん?」と良く知る声が聞こえてそちらに目線をやると目から光の消えた雪ちゃんが立っていた。いつから見られていたかによるんだやろうけどこれってもしかしたら死ぬかもしれない状況じゃない。早く誤解を解かなくては私の命がないわ。


「雪ちゃん、私が好きなのは貴女だけよ」

「えっ……」


 違うでしょ!! 彼との関係をいま簡潔に伝えないといけないのに、何を雪ちゃんへの愛を言えって言ったのよ。駄目だわ……冷静でいようと思えば思うほど雪ちゃんへの愛が溢れてくる。藤咲のことを考えて邪な気持ちを吹き飛ばせばいいのよね。それなら雪ちゃんに対しての愛を言わなくても大丈夫なのだから。惹かれ始めているとはいえまだ私は彼のことは好きじゃないから何も問題ない筈。


「藤咲はよく見るとかっこいいしエロいわね。ん?」

「は?」

「えっ? ん???」


 私は今何を口走ったのよ。変なことを言ったのは間違いないけど……思い出せ私。_よく見るとかっこいいしエロいわね_って何を言ってるのよぉ私。待ってまだ藤咲のことについてじゃない可能性も「サキくんのことを……」って雪ちゃん!? 全力で否定したかったのにどうしてそう言うことを言うの? こうなったら逃げるしかないわね。絶対、今は顔が真っ赤になっている筈だから。


「お邪魔しましたぁ!!」


 私は逃げた。そりゃもう全力疾走で逃げた。勝負なんてあの女に持ち掛けずに放置して帰れば良かったと後悔しながら「うわぁぁぁぁ」と小さい声で街中を駆け抜けて行った。

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