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75話 雪菜とタヌキ 2

◇◇◇

[原  視点]


「たぬちゃん……どうして少しずつ近づいてくるの?」

「ご、ごめんなさいね」


 危なかったわ。危うく抱きつきそうになってしまったけどなんとか理性を保てたわね。雪ちゃんには何かフェロモンでも出しているんじゃないかと思ってしまうような時があるけど、実際はそんなことはなくて単に彼女の魅力ってだけなんだけどもね。私じゃなかったら襲っているでしょう。何かしら怪しまれない嘘をつかないと。


 私は彼女を見ながら言い訳を考えるが気がついたことがあった。・・・少し見ない間に綺麗になったわね……初めて会った時なんて目を合わせてくれなかったし少しの間は彼の背後で居たのに、今はこうやって正面で真っ直ぐ私の目を見て喋っているのね。意見を通す時だけこっちをまっすぐ見てきて困ったんだから。あの時はこんなことになるなんて想像していなかったから仕方ないけど、あまり深く関わるのは間違えだったかもしれないわね。


「たぬちゃん……私のこと嫌い?」

「嫌いに決まっているでしょ」

「それはあの時、守れなかったからなの?」

「違……うわ。あれはどうしようもないわよ」


 あの事件に関しては大規模なことだから子供だった私たちがどうしようもないわよ。それに貴女を嫌いになんてなれる訳無いじゃない。何を無くそうとあの暗闇から助けてくれた貴女を私が嫌いになるんじゃないわよ。貴女が私を嫌いにならないといけないんだからって伝えれたらどれだけよかったことか。もし、この事を伝えたら貴女は一体どう返してくれるの?


 そんなのは聞かなくても分かりきっている。雪ちゃんは私のことを無理矢理にでも嫌いになるんでしょうね。彼に負担のかけないようにしてくれるのでしょうから。それが自分の負担になっていることに気付かないふりをしながら、だから私は貴女を遠ざける為に悪役だって死神だってなってあげるわよ。心から貴女が私を嫌いになれるようにしてあげるから。


「貴女が好きな彼は私が壊すわ」

「・・・どうして?」

「これは復讐よ。彼へのね」

「サキくんは知っているの?」

「ノーコメントってことを言っておくわ」


 雪ちゃんが……その凄く寂しそうな顔をしているわね。抱きしめてあげたいんだけどそんなことをしたら覚悟が緩んでしまうわ。ユウくん……あの虫を使って彼を潰すんだからここで雪ちゃんのことを気にしたら戻れなくなってしまうわ。しっかりとしなさい私。捨てられた子犬のように見えてきてしまったわ。ヤバいから誰か助けてくれないかしら?


 私の願いが届いたのかは分からないけどユウくんが「何しているんだ? 二人とも?」と言いながら公園に入ってきた。本当に助かったわ。私は理性が保ちそうにないからユウくんに挨拶だけしてその場から逃げた。


◇◇◇

[佐藤裕太視点]


 サキと原さんがいなくなったからほとんど話が進むことが無かったので俺は帰らせてもらったんだが、何故か懐かしい公園が目に入ったので足を運ぶことにしたら、雪菜ちゃんと原さんがいた。疑問に思ったから声をかけたら原さんは「ユウくん……私帰るね」と言って慌てた様子で帰って行った。俺に聞かれたくなかったものなのかもしれない。雪菜ちゃんはものすごく睨んでくる。


「俺は今回何も関係ないから」

「何も言ってない」

「反省しているんだ。そろそろ許してくれない?」

「無理」


 本当に塩対応過ぎて辛いなぁ。さっさと帰ろうとする雪菜ちゃんの腕を掴みこちらへと引き込もうとするが案外力が強い。・・・沙耶のことに関しては気になっているけど、やっぱり初恋の相手のことがまだ……少し未練が残っているみたいだ。こんな状態で彼女向き合うのは失礼だと俺は思うから完膚なきまでに叩き折ってほしい。サキはなんだかんだ言って手加減をしてくるだろうから、君じゃないと。


「やっぱりあの頃のまま変わってない」

「俺はサキの親友枠になった。お前はどうなっている?」

「忘れられてる」

「ってことは俺はお前よりもサキとの関係は深い」

「確かに……」

「だから諦め_「このクソ虫がぁ!!」_ろぐぅっ」


 帰って行った筈の原さんに何故か殴り飛ばされてそのまま気を失った。


◇◇◇

[原  視点]


 二人がどんな会話をするのかが気になって戻って来たら雪ちゃんをイジメているクソ虫がいたので思いっきり殴り飛ばした。左腕が痛いけど物凄くスッキリしたので私的には大満足だわ。私の大切な雪ちゃんをイジメる奴なんて虫だわ。いやそれ以下と言っても過言ではないからもう一発殴っておこうかしら? 不良モドキから助けてくれた恩は他の女を助けるのに協力した件で返してあるし、ぶん殴ってあげましょう。


「たぬちゃん、気絶してるよ?」

「そんなことより大丈夫なの!? 雪ちゃん?」

「・・・今……雪ちゃんって……」

「…………うなぁぁぁぁダァ!! 今度は全力で殴ってやるわ!!」

「たぬちゃんストップ」


 気絶したままの虫のシャツを掴み殴ろうとするのを雪ちゃんは全力で止める。これに関しては止められても仕方ないとは思うけど、この虫のせいで隠していたことがバレてしまったもの。しょうがないけど私は白状した。たぬちゃんは私で、貴女をわざと避けユウくんだけに近づいた事を。その虫が気になっている彼女をわざと遠ざけるように仕向けたのも言った。


 全部白状したからこれで相当嫌ってくれるわね。本当だったら何もかも終わった後にでも伝えて『後悔』して貴女の心に残るようにしたかったのに……情に流されてしまっているわね。私は悪役で人の命を刈り取る死神じゃないと彼には到底及ばないのに、自分自身の奥底に仕舞い込んでいた欲が出てきてしまってはダメだ。だからこそ私は雪ちゃんと決別する。


「雪ちゃん……私は__」

「たぬちゃん!!」

「えっあ、はい」

「全部無視して昔みたいにあそぼ?」

「っ!!!!」


 雪ちゃんに両手を掴まれてからそう言われてしまった。ここで何も答えずにいるとダメなのは分かっているけど、口を開いたら「うん」と言ってしまいそうで怖いから沈黙をとるべきね。

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