74話 雪菜とタヌキ 1
僕は何故か家に帰らされた。今回のことは入院疲れでおかしくなったということになった。解せぬがアレを見られたら僕が一方的に悪いってことになるからなぁ。西さんにハメられたって訳で納得しておくかな。・・・車で送ってくれるのはいいんだけど、運転手とは別の付き添い人が原さんなんだよ!! 仲悪いの知らない訳じゃないと思うんだけど?
「はぁ……バカでしょアンタ」
「相変わらずだな」
「あの女の罠くらい分かるでしょ」
「アレくらいなら引っかかっても問題ないさ。で感想は?」
「ざまぁ」
原さんはそれだけを言って車に乗り込んで発車して行った。本当に原さんって僕に対して口悪くない? にしても罠ねぇ。あの行動全てが罠だったとしてもあそこまで計画性がないような気もするんだがな。西さんなら罠を張っている可能性は高いけど、先輩Aの時は罠ではなくて普通に本能的な感じだと思っているんだが……同性同士でしか分からないこともあるだろうからな。
色々と考えながら玄関を開けると中は異様に静かだった。二人はデートにでも行っていると思って家に入りとりあえずリビングに行くと、_パンッ_と音が鳴ったので少し跳ねた。・・・音が鳴った方を見ると二人がしてやったりという顔でこちらを見ていた。イタズラをするなんてどうかしていやがるな。どう仕返しをしてやろうかと考えていたら目の前にケーキが用意された。僕の誕生日はまだ先だから一体なんのケーキなんだ?
「「退院おめでとう、咲人!!」」
「あ〜そのケーキね。父さん母さんありがとう」
「いやぁお父さん頑張ったんだぞ」
「味見をでしょうが。作ったのは私」
二人が言い合いを始めたので僕は無視してソファに座る。二人を見ながら思うことがある。こうゆう日常が僕は好きだから……本当に良かった。これから何か大きなことが起きたとしても僕は今解決していない先輩Aのこと以外は出来るだけ行動しない。ただこうゆう日常を守るために行動しているだけで僕は“死神”なんて物騒な奴ではないんだ。
◇◇◇
[原 視点]
藤咲を家までしっかりと送り届けた後、どうしようもなくムカついた自分がいたから少しだけ八つ当たりをしてしまったわ。あの女に簡単に騙された三人もそうだけども分かっていて行動した藤咲にも問題があるわよ。藤咲は帰らされたし、あの女はユウくんに向かって嘔吐したのを見て滑稽だと思ったわ。だからこその「ざまぁ」なんだけど。
「・・・申し訳ございません。少し遠回りいたします」
「どうしたのでましょう?」
「前を向いてくだされば分かります」
運転手が車を停めて遠回りするなんて言うから何事かと思ったがそこまで重大なことではないわね。言われた通り正面を見ると……桜木雪菜が前から来ていた。私は運転手に彼女を乗せて少し先の公園に向かってもらうようお願いした。運転手は少し悩んだような素振りを見せたが承諾してくれた。あの子が警戒していないといいのだけどね。
私の心配は杞憂だった。桜木雪菜はすんなりと乗り込んでスムーズに発進できた。この子、誘拐や詐欺に遭わないかが心配になるくらい素直に乗り込むわね。まぁそれほどこの子も私と話したいことがあるってことでしょうけども本気で心配ね。今度対策を考えておくとして今は彼女と向き合わないと。以前から私は彼女のことを避けているから色々と質問される方知らないわね。
「・・・着いたみたい」
「えぇそうね」
私と彼女は運転手にお礼を言って車を降り公園に入った。ここは私達の思い出が詰まった場所だけど流石に覚えているかは怪しいわね。この子はともかく彼は絶対に覚えていないわ。彼は……私になんて興味はないから覚えておく必要なんてないと思っているんでしょうね。目の前にいる彼女は別でしょうけど。
「たぬちゃん、覚えてる? この遊具はさぁ」
「・・・私はたぬちゃんなんかじゃないわよ」
「貴女はたぬちゃんだよ。だって……この痕は彼女のだから」
前髪を伸ばして左顔を隠していたのは火傷の痕を隠すためだった。私は誰にも見せたことなんて無かったし雪ちゃんは気絶していた筈だから知らないのに、何故私の痕が左顔にあるってことを分かっている? あの狸爺から話を聞いたのかもしれないわ。そうだとしても私は引き返す気はない。雪ちゃんには言えないことがいっぱいあるけど、あの虫を……彼を……私は許すことが出来ないからここで貴女にバレるわけにはいけない。
バレるわけにはいかないだから私は彼をお手本に悪役を演じる。貴女は私の復讐の対象じゃないから遠ざけないと、近づかれると決心が揺らぐから避けていたのに……ここで雪ちゃんを私達から遠ざける。赤城さんには悪いことをしてしまったと思うけど彼女の為にあの虫から遠ざけることを出来た。一時的にではあるけどね。私の雪ちゃんと彼女はあの虫のストッパーになるからダメだなの。
「たぬちゃん……サキくんと同じ表情してるよ」
「それが何?」
「サキくんのこと好きなの?」
「それはない」
私が彼のことを好きだなんてありえない。地球が滅ぼうとも最後の二人になったとしてもあの彼と結ばれることなんて絶対にありえないから。なんて言いたいけど、私はそれを言う権利はないから否定だけしておく。今の彼と私の関係は利用し合う仲なだけでそれ以上なんてありえないんだわ。昔みたいに三人でなんて甘いことを言うわけじゃないわよね? 雪ちゃん。
「そっか……ライバルが増えるのは嫌だから良かった」
「はあ?」
「たぬちゃん、私とサキくんのお爺さんの勝負内容知ってるよね?」
「知ってるわ。守友夜夢か貴女のどちらかが彼と高校卒業までに婚約するって内容よね?」
「うん! だから私は夜夢さん以外のライバルは全員卑怯な手を使っても潰す」
「っ!!」
あの天使のような雪ちゃんが……私の光が闇落ちしたヒロインみたいになってしまっている。しかも目のハイライトが消えているとか……最高じゃない!! 彼に嫉妬してしまうけど今回はよくやったわ。少しだけ褒めてあげてやるわよ。




