5話 藤咲家と桜木家1
寝ている間、何かを抱き枕にしている感覚はあったんだが気にせずに眠りについて次に起こされた時に目の前に居た人物に驚いてベッドから落ちた。流石にお隣の雪菜さんを抱き枕にしているとかは誰が想像できんのじゃい!! 掛け布団を抱き枕にしていると思ったんだけど、違ったのか。というか母さん達もなんで僕を起こしに来てないんだよ。
大声出したり抵抗してくれたらよかったのにとは思うが、抱き枕にした僕が何かを文句を言うのは違うな。爆睡しているみたいだし……起こして謝罪しないといけないな。起き上がり雪菜さんを起こそうかとしたがドアから気配がしたので1度開けるが誰も居ない。気のせいかと思い、雪菜さんを起こしにかかるが女性の体に触れていいのもなのか。まぁ抱き枕にしたから別にいっか。
「雪菜さん、起きてください」
「んぅ? ・・・ぇえぇ!!」
「申し訳ございません。嫁入り前の同級生と同衾してしまって」
「いや……寝てただけだよね?」
「責任は取るから」
「責任って……えぇぇぇぇ」
すぐに起きてくれたので助かったけど、声が大きいなぁ。まぁほとんど関りのない同級生……しかも男と同じベッドで寝ていたんだ。叫びたくもなるだろうが、母さん達が来たら厄介なので少し声を下げて欲しいって思ってはいる。・・・やっぱりドアから気配を感じるんだよね。幽霊とかではないことを祈っておこうっと。
「せ、責任ってどうづるの?」
「切腹か結婚かな」
「なんでその二択!?」
意外とツッコみ適性が高いな。いや今はそんなことはどうでもいいんだよ。切腹か結婚以外の責任の取り方を知らないんだが……それに初めて家族以外で同じ布団の中で寝たんだから、こういう時の対処法は知らないんだ。向こうで夜夢が何回か一緒に寝ようとして来てはいたが、断固として拒否していたから。さっきから話が脱線していっているな。こうなったら雪菜さんに決めてもらおう。
「雪菜さんが決めていいよ」
「えっ」
「責任をとるからなんでも好きなこと1つ聞く」
「す……好きなこ___」
何故か雪菜さんは固まってしまった。目線は、先ほどから気配を感じているドアの方を見ながら固まっている。徐々に顔を赤くしていきドアを指さして口をパクパクさせている。あとの展開は予想できるからあまり見たくはないが見ないと先に進めないので後ろを振り返ると両家が全員スマホをこちらに向けながらドアの隙間に密集していた。桜木家も勢揃いですか……よく綺麗に縦でいれるよね。さてと___
「アンタら、何やってんの?」
「サキトくん……娘をよろしく頼む」
「今お願いされても困るんですが」
「なぜ? 娘では満足出来ないのか!?」
「稼ぎがありませんし」
いや稼ぎとかの問題ではなくて単純にそれはどうかと思いますよ。娘をよろしくしてきた男性は雪菜さんのお父さん桜木海で何度か会ってはいるが陽気な人だ。父さんと仲が良いらしく二人でキャンプに行っているとのこと。あとはお兄さんの亜紀さんでほんの三週間前に海さんといる時に初めて会った。社会人らしいのだが初対面で「お前なら任せられる」と言われたのでこの人も相当陽気だろう。
そして、妹さんの涼香さんで中学3年生になったばかりで小柄なのだが……びっくりするぐらいのイノシシだと奏さんに聞いた。本人もその時居たんだけど、否定していなかったので自覚はあるみたいだ。桜木家は5人家族で全員仲がいいみたいだ。どこかの名家とは違って兄妹間も何も問題ないみたいだな。
「ごめんね、母さんのご飯楽しみにしていたのに」
「気にしなくていいよ」
確かに母さんのご飯を楽しみにしていたけども別にこれからは食べれる訳だし問題はないんだよ。駄々をこねるつまりはないし、元々寿司は好きだから行きたいとは思っていたんだよね。それに家では今日のことを話さないといけなくなるかも知らないからなぁ。それは面倒なので嫌なんだよね。部外者って言い方は悪いんだけど、それがいるから変に振られないだろう。
「よし、それじゃあ行こうか」
「「「「おー」」」
何故か父さんがリーダーみたいになっているんだけど……なんで? いや、別にいいんだけどさぁみんな慣れ過ぎてない? もしかして僕がいない時に仲を育んでいたのか? 僕だって雪菜さんとも仲良くなりたかったのにさぁ呼んでよ。
「・・・僕だけいなかったのにズルい」
「「本当にサキはかわいいなぁ」」
しまった声に出していないつもりが出ていた。父さんと母さんは同時に僕へと抱きついてくるからそのままバランスを崩してベッドに三人仲良く倒れ込んだ。雪菜さんはすでに退いていたので巻き込まれはせずにすんだが……桜木家は微笑ましいものを見るような目でこちらを見ていた。
流石に恥ずかしいのでこの場から逃げようとして見るが二人にガッチリと身動き出来ない抱きつきをくらっている。助けて欲しいがおそらく助けてくれないだろう。はぁ、流石に人前でこの状態が続くのはやめて欲しいな。




