41話 藤咲家、恒例“正”コイントス 2
三つ巴になったのはいいけど、これどうするのさ? ルールはそのままでいけると父さんは言ったけど本当なのかは怪しい。一度練習をやるとのことだからまずは母さんと父さんのやり方を見よう。それから僕が勝てるか判断しよう。
それぞれ硬貨を選んだ。僕は十円玉を、父さんはメダルみたいなのを、母さんは牛乳瓶の蓋!? そんなのアリかよ!! 父さんは特に何も言っていないのでアリなのは分かった。今じゃあんまり見ないようなものをよく持っていたな。
「まずはお父さんからだ。まずは表」
父さんは表を選んで……裏だった。“正”は書いていないのでこの場合は消されない。まぁ練習だから書きはしないんだけどね。母さんの番で表を選んでコイントスをした。蓋はコイントスに入るのかは何故だけど二人が何も言わないのであれば別にいいか。
「よし、表。これで“正”の1文字目を書くの」
「お母さん、それを使うのは反則じゃないの?」
「あなた、勝者がルールなのよ」
父さんは終わった後にツッコミを入れたけど、母さんの言葉が正論だったのか黙ってしまった。勝ったらルールも追加も出来るのね。・・・さてはこの二人は結構この遊びをやり込んでいるな。おそらくは学生時代からずっとしていてもおかしくないぞ。
母さんから「サキの番よ。さっさとおやり」と言ってきた。楽しんでいる母さんを無視して、僕は裏を選びトスをする。出たのは裏だったので僕も本来であれば1文字目を書ける。単純な遊びだけど楽しいかもしれないなぁ。
「二人ともそれじゃ本番を始めようか」
「「はーい」」
「よし、じゃあ今度はうらぁ」
父さんは少し大きな声で宣言してトスをするが……結果は表だった。まぁ半分は運みたいなところがあるようなゲームだし仕方ないよね。次は母さんだけど「えっとじゃあ表で」と父さんを気遣っているのか少し遠慮気味に言った。これって父さん、相当負けてるんじゃない?
母さんのトスの結果は表だった。それを見た父さんは「まっ始まったばかりだしね」と言っていたけど少し泣きそうになっていた。始まったばかりなのに泣きそうになっているとかなんでなのさ。多分だけど今回も負けると思っているからなんだろうね。
「僕の番か……裏かな」
「お父さんも裏だと思う」
「あなた……」
うわぁ父さんがこうゆうってことは裏じゃない可能性がある。まぁそのままでトスをするんだけどね。うまく弾けたのはいいけど机に落ちるのを待つのは少し面倒だなぁ。そういえば落ちてくる途中でキャッチしてはいけないなんてのはルールにはないね。
僕はコインが取りやすい位置まで落ちて来たのを確認してからキャッチした。手を開けるとコインは裏向きだった。父さんの方を見ると唖然としていて、母さんの方は笑顔だった。ルールの穴を突いたのに別に怒りもしないとは意外だったなぁ。なんかそういうところ怒ってきそうなイメージがあったのに。
「ほら、あなたの番よ」
「はっ! 今度こそ裏だ」
「あら綺麗に飛んだ」
「ふっふっふサキよ。キャッチはこうやるんだぞ」
父さんがキャッチをしようとするもスカッという効果音が出そうな感じになった。机に落ちたコインを確認する僕と母さん、顔を両手で覆い隠す父さん。そして今回も表だったので何も変わらない。これって母さんが強いんじゃなくて父さんが弱いだけだろ。
そこから1時間ほどで決着がついた。勝者は母さんなので涙目の父さんと晩ご飯を作る。まぁ母さんが下準備を終わらせているのでそんなにすることはない。出汁を温めてみそ汁を作って、ハンバーグなので形を作って焼くだけ。白米は漬け置きがあるのでそれを炊飯器で炊くだけの簡単な作業ではあるはずなんだが……
「父さん危ない」
「猫の手はしっかりとしているよ。にゃーってね」
「キャベツは僕が切るから」
「じゃあ焼こうか」
形を整えたハンバーグを父さんに渡し__母さんが横から奪い取って僕らを少しどかして焼き始めた。何故母さんが焼き始めたのかが分からない僕を無視して父さんは「もぉ〜お母さんは可愛いなぁ」と言ってテンションを上げていた。そんな父さんを見て少し引いてしまったのは内緒である。
「あなたは座っていて」
「えぇ三人でやろう」
「なら揶揄わないの」
父さんは何も言わずにみそを溶かしていく。母さんは少し頬を紅くしてハンバーグを焼いているので僕は残りのキャベツを千切りにする。そういえば三人で台所に立つのって久しぶりだなぁ。母さんが急に参加して来た理由って三人で料理をしたくなったからか。なるほどね。
確かに可愛いく思うけどもそれを本人に言ってはダメでしょうが。いや別に問題はないんだけどさ、息子がいるところではイチャつくのはせめて最小限にしてくれませんか? 見ているこっちは空気になることを努力しているんだから。仲睦まじいことはいいことなのでそのままでもいいか。
「サキ、裕太くんとは全力でぶつかりなさい」
「本気で相手はしないよ」
「それはお互いのためにはならないからね」
「お父さんの言う通りだと思う。じゃないと分かり合えないから」
「そんなのはどうでもいい」
「「・・・」」
確かに父さんや母さんの言うことは正しいからワザと負けないようにはしないといけないなぁ。二人も僕がちゃんと負けるつもりはないってことが伝わったみたいだし良かった。全力でぶつかるなんて事は誰にもしたことがないから加減が出来るか心配だから練習をしてみよう。
そんなものより雪奈さんから返信ってきているか確認をしておかないと今後の行動が制限されてしまう。佐藤の件に関してはまた何か接触して来たら対応することにしておこう。じゃないと手が回らなくなるから仕方ないことだよね。
「えっと……は???」
キャベツを切り終わった後、スマホを見るとそこには雪菜さんと佐藤から連絡が入っていた。佐藤からの連絡に対して驚いたわけではない。アイツの内容は普通に勝負の日付けを送って来ただけだからだ。問題は雪菜さんの連絡だった。
雪菜さんの連絡内容はチーさんは佐藤に一切惚れていないことが書いてあった。いやじゃあクーさんに嘘をつく理由なんて何もないはずなのに何故なんだ。チーさんとしても傷つけるつもりは一切ないとは思うんだけどな。それと電話は出来るとのことだった。はぁとりあえずご飯食べよ。
晩ご飯と風呂を済ませた僕は雪菜さんに電話する。3コールで雪菜さんは出てくれた。そこからは今日の昼休みで話したことを簡単に伝えて、雪菜さんの方も簡単に教えてもらった。クーさんの事は大好きだと言っているそうなのだが……問題はそこではないみたいだ。
「なるほど、金持ちって面倒だな」
『仕方ないとは思うよ』
「僕じゃなくて佐藤を選ぶのは英断だったかもしれないね」
『それは絶対にない』
チーさんはクーさんに恋愛感情を抱いてはいるが、両家はそんなことは全く望んでいないから二人を遠ざけようとしているらしい。それに気付いたのはチーさんだけで離れるために佐藤に近づきたかったみたいだ。なのに僕を褒めていたのは謎だとは思うよ。
それはさておき、嘘を聞かされたクーさんは佐藤を見極める為にグループに入ったがお気に召さなかったと。また面倒なことになっている理由としてはチーさんとクーさんはお互いに自分の気持ちに蓋をしようとしているところだ。
『何か思い付く?』
「全く。二人の親をどうにかしても問題が」
『気持ちは間違っていると思っているところ?』
家に関してはどうにか出来る方法はあるだろうが、二人の想いや考えに関しては洗脳する方法しか分からない。僕は別に間違いではないとは思っているとクーさんには伝えたが、全く響いていないような気はする。まぁ一切洗脳はすることはないけどね