4話 衝撃2
ひ孫さんの月美さんの介入によりみかんさんとの会話は中断されて、守友家から帰ってきた僕は軽く何かを食べようとしたがユウが何故かリビングで僕が食べる筈だった軽食はパクパクと食している。空腹でイラっとしてしまいアイアンクローをくらわせてしまったが反省はしていない。父さんが手作りドーナツを持って来てくれるまではやめずにいたから母さんに少しだけ怒られてしまった。何やら伝えておきたいことがあり走ってきてくれたそうだ。
「それで何を伝えに来たんだよ」
「友達の知り合いの情報なんだが」
ユウの友達の知り合いという奴から教わった情報は生徒会に二つの派閥があり、会長と副会長で争いがおこっているとのことだが僕にそれを伝えても何も意味がないのでは? と思ったがそれには続きがあって僕を引き入れようと黒井先輩がしているとの情報が出回っているらしい。それで竜樹の奴が先に僕を自分の派閥に入れる為に明日から動くと家で話していたとのこと。竜樹の情報に関しては夜夢が話してきたんだろうな。
「でサキはどうする?」
「何もしないけど」
「先輩の派閥に入らないのか? お世話になったろ」
「なってないし、迷惑をかけられただけ」
もし黒井先輩か竜樹かで言われたら先輩を選ぶがそれはもしもの話であって僕は平穏に学校生活を送りたいだけだから、どっちかに肩入れする気はない。厄介事を持ってくるなよとは思うが、入学式が終わったとはいえ、当日にそんな情報を持っている知り合いがいるってことを知れたのはいいかもしれないな。流石に同じ学校ではあるだろうから接触はしやすいかもしれないから名前だけは知っておこう。
「ユウ、その知り合いの名前は?」
「・・・ひょうひょう、しょれをはへそうと」
「口の中が無くなってからでいい」
何を言っているのかが全く分からなかったが……口の中に頬張りすぎだ。パンパンに頬が膨らんでいるじゃねぇかよ。まぁだいだいは予測はつくから別に言わなくてもいいけど、それが間違えていたら嫌だし言って貰おうか。ユウは口にある物を飲み込んで「その知り合い……宇恵野樹里って子なんだけど」と言った。確かそんな名前の奴クラスに居たような気がするなぁ。
「二人で話してみたいらしいぞ」
「らしいってお前なぁ」
「嫌なら断りを入れておくけど?」
「話しておいた方が後々楽そうだからいいや」
「そっか」
珍しく気を回していることを考えるとそれくらいに大変になるって思っているってことだろう。ジジィの次は竜樹とか面倒だな。黒井先輩に関しては鬱陶しいけど、別に放っておいても無いも害はないからいいかな。そのうちに家に挨拶に来そうな気はするんだよなぁ。急に母さんが会話に参加してきて「会長さんってあの美人さん?」と言ってくるから僕とユウは首を傾げた。美人さんってあの黒井鏡花が?
「美人ではあるのか……あの人は」
「母さん、アレは男だよ」
「「えっ」」
父さんも何故か驚いているんだけど、知らなかったのか。黒井先輩は女装をしているがバリバリの男の人である。あの人は見た目だけは本当にキレイだし、ファンも物凄く多いけど、心にはどす黒い闇が渦巻いているから適度な距離じゃないと色々と巻き込まれてしまうからな。なんて考えていたら父さんが「サキが受験勉強の時に差し入れをくれた子だから母さんとどんな関係なのかって話をしていたんだよ」なんて言ってきた。
「そうね。だから直接、聞いたんだけど」
「父さん達はサキがどんな選択をしても見捨てないからね」
「・・・用事思い出したから、俺帰るわ」
家にすでにやって来ていただと……しかも父さん達に一体何を吹き込みやがったあの阿呆は。今度、何を言ったかを問い詰めて返答次第では縛って吊るすか屋上から突き落とすしかないな。あの阿呆が誰かにそんな冗談を言えるようになったと考えると成長したんだな。中学時代だったらそんなことは絶対に考えられない。
「母さん、今日は家で食べたい」
「元々その予定だったんだけど……」
「サキ、父さんが無理言って明日にしてもらったんだ」
「? なんのことかは知らないけど、二人で決めたのならいいよ」
今日はご馳走って朝聞いていたけど、入学式終わったくらいに父さんから申し訳なさそうに「今日お寿司でもいいか?」と言われたからOKした。守友家が何かをしてきたんじゃないかと思っていたけどジジィに呼ばれた時点でそれはないし、ユウの家族と食べに行くってことでもないだろうからな。おじさんとおばさんは家族で過ごすことにしている訳だし、ユウもそれに賛成している。
「・・・少し寝てくるから、出る時くらいに起こして」
「わかった。ちゃんとした服装で行くからね」
回転寿司さんにちゃんとした服装で行くとかあるのかな? まぁちゃんとした服で行くつもりだったから別にいいけど、何かソワソワしているような気はするのは僕の気のせいって訳はないよねこれ。お隣さんの桜木家とご飯を食べに行くことが決まっていたりして。いやじゃないからいいけど、僕のことはちゃんと知らないだろうからなぁ、もちろん父さん達のことは知っているだろう。
「はぁ、入学式でこんなにも疲れてしまっていたら今後どうなるのやら」
ベッドの上に寝そべりながらある1枚の写真をポケットから取り出して……顔が見えない少女に対して僕は【君を知りたい、思い出したい】と強く思うのは何故だろう? みかんさんはアナタは何を思ってコレを持っていて僕に渡してきたんですか。みかんさんに直接聞いても老人のお節介って言って何も話してくれないだろうし別にいっか。
考えることをやめた僕は意識を手放した。起こされる時に僕がやらかすことをまだ知らずに、深い眠りにつく。




