39話
◇◇◇
[黒井鏡花視点]
私は新井先生から反省文をもらって生徒指導室から出たのはいいものの、業務を全て他の役員に押し付けてしまったから戻りたくないんだがそれはダメだろう。咲人くんの反省文は反省していますよって感じに書いているのが丸分かりだった。彼には反省文なんてどうでもいいようだ。
「これは再犯するだろうね」
「そうだな。お前みたいにな」
「こここここここ」
「全く真面目な会長はどこに行ったのやら」
「な、何故ここが」
副会長くんがいつの間にか背後に立っていたのでびっくりして振り返った。よしここは先手必勝の逃げ__ようとすると後頭部に強い衝撃が走った。副会長くん以外にも誰かいるのかと首を動かすとハリセンを持っている葉月くんがいた。側から見てからも分かるようにすごく怒っている。
あ〜これは何も抵抗せずに連行された方がまだ優しくされるパターンですね。私は両手を挙げて降参しますの意をみせた。片や秀才、片や努力家なので私が逃げれるなんて事はない。もし逃げれても他役員達が捕まえる為に躍起になるだけだろうからね。ここで捕まる方が助かるってわけだね。
「はぁメンタルが強いにも程があるだろう」
「この場合は面の皮が厚いと言うのではありませんか?」
「確かにそうかもな」
「面の皮は厚くないですぅ。あとメンタルが弱いのは知っているでしょ」
そういえば二人は黙った。今の生徒会になる前に私がプライドを捨てることがいると思い今までの全てを話した。その場には國くんも居たけど、彼は靡いてくれなかった。それは仕方ないことだから良いとしても他は私について来てくれることを選んでくれた。彼のことは本当に残念に思うよ。
「そろそろ戻るとしましょう」
「お前が言うな」
「会長には言われたくありません」
「では競争しましょう」
私は走り始めた。二人はそんな私を見て驚いた顔をしていると思うけど、たまにはこうゆう青春を経験するのもいいだ……ろう。私は足を止めて前からやってくる奴をジッと見る。おそらくは顧問である新井先生を呼びに行く途中なのだろう。
私の視線に気が付いたらしい人懐っこい笑みを浮かべてこちらへと向かってくるが、顔をしかめた。二人の足音が止まったので私に追い付いて来たみたい。なるほど、そういえば彼は副会長くんが嫌いだったのを忘れてしまっていたな。副会長くんはは悪人ではあるのだが「極悪人ではないから安心したまえ」と言ったのだがね。
「新井先生を見ませんでしたか?」
「彼なら生徒指導室にいるよ」
「ありがとうございます。サキも居ましたか?」
「私が行った時には居なかった筈だよ」
「そうですか。では失礼します」
うむ、彼にも業務的なやりとりが出来るとは思っていなかった。それにしてもまだ愛称で呼ぶとは彼は一体何がしたいのかが私には分からないな。以前、敵対するなら愛称で呼ぶのはやめた方が良いと警告しておいたのに。アレは敵を増やす行動だと分からないのかね。私にとってはかわいい後輩なんだけど。
「アイツ、嫌がらせなのか?」
「いや違うと思うよ」
「私も愛称で呼びたいですわね」
葉月くん、君は咲人くんに惚れているから羨ましいと思って言っているだけなのだろう? こんなことを口に出したらまたハリセンで叩かれるから言わないが。葉月くんと雪菜くんでは勝ち目がないから諦めているのは知っているが……彼は押し倒したら責任をとってくれると思うんだけどねぇ。
「おっとこれ以上は任せている役員に怒られるな」
わざとらしくそういうと二人に叩かられた。愛の鞭と言ったところだろうから素直に受けるが、痛いぞ。いや本当に痛いから頭を交互に叩くのは辞めて、涙目で訴えてやるぞ。
◇◇◇
[佐藤裕太視点]
生徒指導室に向かう途中で黒井先輩に会ったがそこにはあの副会長も居た。黒井先輩以外とは会話なんてしていないが。もう一人いて名前は葉月琹だった筈。その人もサキに人生を変えるチャンスをもらったらしい。この人たちを一人ずつ壊していけばサキも本気を出すだろうな。いや今はそんなことよりも
「先生、部活に顔を___タバコ臭っ!」
「ん? 佐藤か。どうした」
「どうしたじゃないです。部活に顔を出さないから呼びに来たんです」
「忘れた。すぐに行く」
新井先生は疲れた様子だったがサキの奴は一体何をしてたんだ。タバコを一気に吸って灰皿で消し立ち上がって「悩んでいるな?」とニヤついた顔をして言ってきた。悩み事がない奴なんてサキくらいでしょとは言えない。確かに悩んではいるけど、別に何かに支障をきたす訳でもないのに。
「昨日、部活を途中で抜けたらしいな?」
「少し予定がありまして」
「桜木に告白するのがか? よっぽど大事らしいな」
「知っていたんですね」
先生は指をソファーに指して座った。部活終了まではまだ時間はあるから問題はないけど、このまま説教コースか。座ってお茶を出させれるので一口飲むとニヤつかれた。新井先生は「すまない。湯呑みを洗うのを忘れていた」と言って俺から取り上げない。
そこは取り上げろよとは思うんだけど何考えているのかが分からないから飲むのは控えよう。サキならそうするだろうから俺も習ってそうしよう。アイツならそれが正しいと思ってやれる。サキから離れた俺ならこれくらいは警戒出来るんだ。
「好きでもない奴によく告白できるな?」
「好きでしたよ」
「そうか。でもお前は間違えている」
「俺は正しいです。そうに決まってます」
新井先生は何も言わずにお茶を飲む。無言は肯定とはよく言えたものだと思う。ここで黙られると否定されている気がするから無理にでも肯定されていると思いたい。ズバッと言ってくれないのがそんなにしんどいなんて思いもしなかった。
「藤咲とサッカーで勝負しろ」
新井先生は俺とサキの勝負は知らない筈だ。俺はサキから言われた後にサッカーで勝負をしようと思っていたから良いが何故、先生からそんなことを言ってくるのかが分からない。先生は「タバコ吸っていい?」と俺に聞いてくるので「ダメです」と答えておいた。
渋々タバコをしまった先生は「お前、楽しめてないだろ?」とこちらの心の奥底を覗いているみたいに言ってきた。確かに今は何故だか楽しくないし大勢に囲まれても人を助けても苦しい。そんなことを言ったら先生の思うツボだからそんなことは絶対に言わない。
「楽し……いですよ」
「ならいい。藤咲との勝負はサッカー以外にしろ」
「それは無理です」
「どうせ負けるんだ」
冷たく言い放たれた言葉は俺のどこかを傷付けた。お袋も先生もなんでサキの味方ばかりするんだ。サキの味方は少数なのになんでアイツを信じれるんだよ。サッカーで負けるなんてことは絶対にない。俺とアイツなら今もやっている方が勝率は高いだろ。
「いや勝てます」
「土曜日に練習試合があるだろう?」
「あります。それに呼べと?」
「そういうことだ」
先生は「負けた方には退学してもらおう」ととんでもないことを言ってきた。流石にこれに関して俺は反対したが先生の中でもう決定事項になっているみたいだった。おそらく先生は俺とサキの勝負内容からサッカーを除外させたいんだろう。絶対に変えないし、他の人から何を言われてもいいならやる。
「いいんだな?」
「問題ないです」
「わかった。ならお前から藤咲に伝えろ」
「分かりました」
先生が立ち上がり廊下に出るので俺も慌てて出る。先生の表情から分かったことは一つで『本気で負けた方は退学させる』ことだった。これならサキも本気で勝負をしてくれるだろう。