38話 反省文1
昼休みと午後の授業は特に何も起きず普通に終了したが放課後にラスボスは待ち構えていた。僕らの担任ことラスボス、新井先生はホームルームが終わり次第、即確保して来た。あの動きは人ではないって訳ではないけど、油断していた。反省文を書かせるためにしていたから仕方ないんだよなぁ。
ということで今現在、僕は生徒指導室で二十枚の反省文を書かされています。タイトルはすでに書かれているのでそれについて反省をいかにしているか書いているところになります。追加で書かされないように大人しく書いているのだけど……ほとんどは僕は悪くないことだしどないしろと?
「留学生を誘拐したと言う報告もあるんだが?」
「誘拐ではなく、合意の上で拐ったんです」
「それで今回はどんなことに首を突っ込んでいる」
「何もありませんよ」
「嘘だな。佐藤は巻き込まれるがお前は自分で突っ込んで行くだろ?」
僕はそんなことはないわ。その逆で僕が事件に巻き込まれて佐藤が突っ込んで行くんだよ。なんでそんな面倒だとわかっていることに自分で突っ込んで行かなきゃいけない。楽をしておきたいのが僕なのにどうしてそんなことを思われている。はぁ今回のことは僕が突っ込んでいるから何も言えないけど。
雪菜さん達は先に新井先生が帰らせたから情報の共有が出来ない。抜け出そうと思ったら出来るけど、そんなことをしたら普通に倍の反省文+母さんの説教が待っているだろうからここで終わらせるのが正解だ。ちゃんと考えながら書いているフリをして五枚は終わらせた。
このままの調子で書き続ければすぐに終わるからクーさんとチーさんのことを考えてみよう。とりあえずはクーさんを佐藤グループから抜け出させることをしよう。佐藤は何も言ってこないだろうけど、他の連中が行動できないように封じておかないといけない。特にあのよく分からない原さんとか言う女が面倒だな。
「何かあれば俺にでも相談をしろ」
「先生に? 機会があれば」
「あぁ〜酒とタバコがほしい」
「なんですか、いきなり」
「大人でも嫌なことから目を背けたくなるもんだ」
何を言ってるんだよこの教師は。そんなことは分かっているし、しっかりと周りの大人を頼っているからそこまで心配しないで……いいとは……思う。父さんと母さんには心配を凄く掛けているんだろうから佐藤とのことは話しておくべきか。二人は僕が置かれている状況を知ろうとすれば出来るのにしないからなぁ。
よし、佐藤との件はしっかりと話してついでに二人のことについて意見を求めよう。新井先生は相談をしなくてもいいか。この学校の教師なんだし、僕の事情には詳しいから別に頼らなくてもいい。そうなると佐藤の方に先生がついてしまったら相当厄介か。ここは適当に竜二のことでも探ってもらう方がいいか。
「先生、守友竜二って知ってますか?」
「どうせアイツを探れとかだろ。嫌だね」
「えぇどうしてですか」
「呼ぶくらいなら出来るが探るのは無理だ」
ここに呼べはするんだなぁ。探るのは無理って断言できるってことは一度したことがあるんだろう。竜二を呼んでも特に意味はないし、竜樹と夜夢がしんどい思いをする可能性があるから絶対にダメだ。ゴリ先輩の件はアイツが裏に居たわけだし、何をするかは分からないからな。
新井先生のことは諦めて……仲間を増やす方法はないものか。宇恵野から聞いた情報では西さんはミスコンを2年間連続優勝をしている人で、教師からも他生徒からも信頼されているらしい。今回のことでその信頼がどうなるかは分からないって言っていたからこっちに引き込むのはありだろう。
「そういえば桜木は大丈夫なのか?」
「特に変わったことはないですが」
「ならいいんだが、イジメとか」
「先生……されているんですか?」
「・・・お前の近くにいるだろ」
ただ心配して聞いてくれただけなのか。そんなことをしている奴らがいたら全力で潰してあげたのになぁ。確かに一番僕の近くには雪菜さんがいるけど、他にもいるからね。他の奴がイジメにあっていたらもちろん助かるし、雪菜さんを虐めている奴らがいたらここに居られないようにしないと。
◇◇◇
[新井視点]
「書き終わったので帰りますね」
「あぁ気を付けたなぁ」
ふぅこの学校で1番の問題児に反省文を書かせたが危なかった。桜木は昔、いじめを受けていたことがあることは調べてあるから知っているが……今受けているかは分からない。だから藤咲に探りを入れようとしたのが間違いだった。俺が答えを間違えた瞬間に殺されるんじゃないかと思えるほどに殺気がだだ漏れだった。あの様子だと佐藤がいじめっ子だとは知らないかもな。
しかし守友竜二みたく一度も道を踏み間違えないのは、両親と桜木のおかげだろうな。いくら佐藤の父親が命を助けたといえど、アレはそんなことではあんなのには育たんだろう。マジで一体どんな教育のかを学びたいんだが。だってこの反省文は誰がどうみても異常だろう。書き直させる気も失せるわ。
「人間を物体として捉えているとか……俺には制御できんぞ」
これならまだ学生時代の守友竜二の方が可愛げがあったと思えるレベルだわ。普通に性格破綻者で妹大好きな変態だったのに、ソイツが可愛いとか吐き気が出てくる筈なのに。天才は同じ人間ではなく別の生き物として考えろって担任が言っていたな。最悪の貧乏くじを引いてしまったな。
「マジでタバコと酒がほしい」
「仕事を終わらせてくださいよ」
「黒井か。何の用だ?」
「いやぁ彼の殺気を察知して」
「キッモ」
黒井鏡花、2年生で現生徒会長。藤咲の厄介ファン2号だと俺は個人的に思っている。1号は佐藤裕太なのは確実だろう。それはまぁいいが黒井は女装をしている男子生徒ではあるが成績優秀、他教師からの評判はめっちゃいい。難点があるとしたら女装しているところだと言われるほど優秀だった。
藤咲が入学していた辺りから眠れる変態性が起き始めて来たのは残念すぎる。コイツが藤咲と一緒に食堂で昼食を摂っているとこを見かけて、そこまでは良い。色々と問題が起きた後がヤバいんだよ。藤咲が居なくなった後の黒井は興奮をしていた。普段、冷静な守友竜樹すら引くぐらいには。
「どうでした?」
「何がだ」
「そりゃ咲人くんですよ。よかったでしょう?」
息を荒げながらこっちに近寄ってくる黒井を無理やりソファーに座らせて、水を飲ませた。なんとか落ち着きを取り戻した黒井は「すいませんでした」と謝ってきたのでとりあえずは許した。まぁ誰にでも取り乱すことはあるからいいだろう。
「佐藤くんですが、停学にできませんか?」
「無理だ。藤咲の方を停学にしろって言われてる」
「・・・彼は暴力を振るっています」
「奴は人助けだろう」
「では咲人くんもそうじゃないですか!!」
佐藤と藤咲では暴力の使い道が違う。佐藤は人を助ける為に昔は使っていたが、藤咲は自分に降りかかってきた厄災を払うために使っている。助けるか助けないかの違いだ。あとは普通に過剰に暴力を振るっているのが問題になっているだけだからな。いくら黒井が言ってきてもそれはどうにもならない。
藤咲は入学した後も変わっていないが、佐藤はここ最近は人が変わっているような感じでいるからどうなるかは分からない。ただ助けられた奴らで周りを囲んでいるから中々手出しはできなくなっている。それをしっかりと分かった上で言ってほしいとは思うが相手はまだ子供だからな。
「お前の言いたいことは分かっているつもりだが」
「冷静になれですよね」
「その通りだ。教師勢は藤咲の味方ではある」
理事長命令で今回の件で藤咲を停学処分に下す予定だったが、それを全教員で猛反対したのだ。國のことはこっちが一方的に悪いのに、引き金になっただけの藤咲にそれは可哀想だ。力が強い國やその周りの暴走を一人で止めただけ賞状ものな筈なのにな。
「ほら、藤咲の反省文だ。持ってけ」