35話 クーとチーちゃん 1
なんとか校門から逃げれたけど教室に素直に入れない。ま、まぁ少し前のことだし誰も知らないだろうから気にせず入るか。ちなみに雪菜さんは教室に着くなり赤城と宇恵野に連行されて行った。僕は誰にも連行なんてされないだろうから何も問題はない。
「はよ、藤咲っち」
「坂内は何故ドアの前にいるんだよ」
「今さぁ面白い情報が出回っているんだ」
坂内はそう言いながらスマホを見せてきた。そこには僕と雪菜さんがキスをしている写真がなかった。お姫様抱っこして逃げているところを撮られたところだったのでセーフだな。もうすでに出回っているとは情報が周るスピードは速いものだな。キスをしていた写真がないのは助かったからよしとするか。
「藤咲っち」
「どうした?」
「キスって……味したん?」
「しなかったけど、またしたいとは思っ」
「へぇ〜藤咲っちさんでもそういうのあるだぁ」
ニヤニヤしている顔が腹立つので脛を蹴ってから自分の席に着いた。キスの味を聞かれただけなのにそんなことを言わなくても良かった。坂内は痛みで苦しんでいるので放置でいいだろう。雪菜さんの方は色々と質問攻めにあっていると思うけど助けにはいけないから、放置でいっか。
さて教室の雰囲気は特に変わりは……あるのにはあるけど、関わりたくないから無視を決め込もう。前に助けた女子がこっちをものすごく睨んでくるのが気になるけど、無視だ。僕は何もしていないし何も関わりはないのでこちらに来ても対応はしませんよっと。
「じー」
「・・・」
「じー」
佐藤グループに所属しているちびっ子が何故かここまでやって来た。あと「じー」は効果音だから口に出すのはあまりしないんじゃないかな。このちびっ子の特徴は全てにおいて小さいとしか分からない。そもそも知らないから特徴なんて伝えられる訳ねぇだろう。
先輩Aの情報を宇恵野に聞くのを忘れていたのに、さらに増えてくるとか普通ありえますかねぇ。無視していたらそのうち飽きてくるだろうから放っておこう。色々と起きている訳だし少しは状況整理をしてみるかな。まず第一に佐藤との敵対とその他に避けられている。
次に雪菜さんと佐藤の関係性は同じ保育園だったことしか分からない。佐藤の得意なことで勝負にはなっているが何もリアクションがない。問題は先輩AとストーカーAの対処だな。あの先輩はどうも裏がありそうで関わりたくはないんだよなぁ。GPSか盗聴器が仕込まれている可能性があったから紙で教えてあげたけど、どうしているんだろうか。
「じー」
そして今起き始めた問題としてはこのちびっ子による僕への視線だ。何も対処しなくはないけど、「じー」とか言われながら見つめられるのはなんか嫌な気分になるのは何故だろうな。これは反応しないと呼び鈴が鳴るまで続くだろうから話しかけるか。リボンの色的に先輩か。
「何か御用ですか?」
「チーちゃんが珍しく男の子を褒めてた」
「それが僕となんの関係が?」
「彼、じゃなくてアナタを。何故?」
いや、知らん。あとチーちゃんって誰なのかを教えてほしいけど、それよりも気になるのは「彼」と言いながら視線を向けた先に居たのは佐藤だった。おそらく何かの噂を聞いて相談ごとを持ち掛けたが僕が解決をしてしまったんだろう。そのチーちゃんとやらには会ったことがないから知らない。
「クーは彼は好きじゃない」
「そっすか」
「クーはどうすればいい?」
どうすればいいのかは分からないよ。僕は貴女と喋ったのは初めてなんですから。チーちゃんとやらにも貴女にも出来れば関わりたくはないんですよ。嫌いなら離れればいいと言いたいけど、訳アリだろうからそんなことは言えないなぁ。このことについても雪菜さんと相談した方がいいだろう。
そういえば周りが何故かザワザワし始めているけど何があったのだ? 単にこのちびっ子が有名人ってだけだろうから気にする必要性はないか。先輩Aも有名みたいな感じに自分のことを言っていたけど、本当なのかは分からないからな。ちびっ子さんはクーさんとでも呼んでおこうか。本名は知らないからな。
「チーちゃんの匂い」
「へ? 誰の匂いもしないと思うんですが」
「クーはチーちゃんの匂い分かる」
幻覚なのは分かるが犬の耳と尻尾が見えるんだよ。それよりもチーちゃんが近くに来ているってことだからどんな人なのかを見てみたい。気難しそうなちびっ子が懐いているってことは相当な善人だろう。さっき話したばかりだから、この人のことは知らないけど佐藤は好きじゃないと言っているからな。
ちびっ子が教室のドアを見ているので僕と一緒に見ているとひょっこりとアホ毛を揺らしてキョロキョロしている。ちびっ子の方を見るとパァーみたいな効果音が聞こえてきそうな勢いで嬉しそうにしている。チーちゃんとか呼ばれる人は……地味な見た目をしていた。街中ですれ違っても全く気が付かないような感じだった。
「あれ、クーのチーちゃん」
「へぇ〜仲良いんですよ」
「・・・あのクソ野郎に惚れてる」
佐藤のことは好きじゃないではなくて大嫌いな敵だったみたいだわ。憎悪が籠った目で睨みつけているのはやばいわぁ。ちょっと待ってこれは僕も対象になっていたり「アナタはいい」と言ってくれたわ。ナチュラルに心を読むのはやめてほしいけど今回は良かった。
「クーなんでこの教室にいるの」
「チーちゃん、クーは調査」
「藤咲さん少しだけ時間をもらってもいいですか?」
クーさんとチーちゃんに連れて来られた校舎裏で逃げ道を塞がれた。なんでこう僕が巻き込まれているんだよ。佐藤に関わってもそうじゃなくても僕は事件に巻き込まれるんですね。とりあえずは何を言いたいのかを聞いてから色々と話して終わらせてやろう。
「クーは私の恋路を邪魔するんです」
「チーちゃんは彼のことをちゃんと知らない」
「何を言いたいんですか?」
「「どっちが悪いと思う(ますか?)」」
どっちでもいいわ。人の恋路なんてどうでも良過ぎるから無理矢理でも戻ってやるわ。二人を押し退けて教室に戻ろうとするが「アナタはクーを見捨てるの?」と言いながら右腕にしがみつく。引き剥がそうとするが左腕には「藤咲さんは私の味方ですよね」と言って掴んでくる。
「クーさんは理由を話すべきです」
「ガーン。見捨てられた」
「チーさんは嫌であれば縁を切ればいいでしょう」
「うぐっ。味方じゃないんですね」
何故かダメージを受けている二人を放置して僕は教室へ戻るために歩き出す。両腕から離れているので今のうちに逃げておかないとまた捕まるだろうからなぁ。走りながら、あの二人を佐藤の方に投げれる方法はないだろうか考える。僕は関わりは出来るだけ避けたいんだが。
「今朝ぶりだねぇ後輩」
うわぁ今すごく会いたくない人がやってきたんだが。




