34話 先輩A 2
ストーカーAと先輩Aは何かを言っているみたいだけど僕はそれを無視してある場所を見つめていた。おばさんと佐藤の方でもない。亜紀さんと雪菜さん、涼香さんが仲良く歩いている。三人の気配がしたので振り返ってみたら案の定いた。買い物帰りなのだろうな。三人とも袋を持って談笑している。・・・先輩Aストーカーが僕へ嫉妬や殺意を孕んだ目を向けているな。
「君は気持ち悪いところがあるな」
「・・・僕からすればほとんどが気持ち悪いですよ」
「へぇ〜、私がこうしても気持ち悪い?」
「離れろ」
先輩Aが何故か抱きついてきた。ものすごく不快になったのでタメ口で言うが……「私に抱きつかれて嬉しくないのね」と言って物体Aは離れた。接触された部分を削ぎ落としたくなる衝動を抑えながら何故抱きつきてきたかを聞いたが、何も答えてくれない。おそらくは気持ち悪いに自分が入っていることに腹を立てたからだろうけど。
雪菜さんから視線を外したせいでどこかに行ってしまった。佐藤にクレームを入れてやろう。お前がしっかりとこの物体Aを管理してないから僕に被害が被るんだってさ。ストーカーAの殺意が増えたなぁ。この物体Aの作戦だろうから放置しておいてもいいけど、他に影響がないとも限らないからさっさと対処しておくことにしますか。盗聴されている可能性があるからね。
「どこに行くのかな?」
「鬱陶しくなったので帰ろうかと」
「君がそれでいいならそうすれば良い」
物体Aから先輩Aに昇格しておかないとダメだなこれは。普通にこっちの考えや行動を読んでから動いてやがる。敵にしなくても厄介ではあるけど、関わらないのであればどうってことはない。近付けさせなければいいってことね。ただ竜二みたく変人であれば……付き纏われる可能性があるのは嫌だがな。まぁ無視すればいいか。
「先輩A、そこにある小石を取ってくれませんか?」
「これか。はい、一体何に使うのかな?」
「そりゃあ投げるんですよ」
「は?」
先輩Aから小石を貰いそれをカバンを盾にしているストーカーAに向けて投げるふりをすると慌てて逃げようとするが、失敗してズッコケた。ストーカーがいる場所からは聞こえにくい筈だけど、何故か過剰に反応をする。僕や先輩Aの動きからある程度は分かるだろうけど……反応が良すぎる。
盗聴されているのであれば僕が投げる前から小石を警戒することはないだろう。“誰に向けて”とは言っていないし僕はストーカーに気がついていないふりをしている。一応警戒している線はあるからそれでかもしれない。てゆうかカバンを盾にしようとしているなら逃げようとしなくてもいいと思うんだけど。あっ、恥ずかしそうに逃げっていった。
「彼に気付いていると思っていたが」
「ではこれで」
「どうして追い払ってくれた?」
「鬱陶しくなったので。そうだ……これをどうぞ」
「あぁ、紙に書いてあるのは連絡先か?」
先輩Aからの質問に答える気はないのでさっさと帰る。おばさんには挨拶をして帰ったが、佐藤には何も言わなかった。仲良く挨拶を交わすのはどう考えてもおかしいし、連絡もしないでおこう。僕とアイツは今は敵同士な訳だしそっちの方がいいかもしれないな。早く帰ってご飯。
あのあとは何事もなく普通に就寝して登校したら、校門に先輩Aと黒井先輩が仁王立ちしていた。せっかく雪菜さんと一緒に登校が出て来た。ここから逃げる道は一旦戻らないとこのまま、捕まって終___ん? 右隣から何故だか腕をガッチリ掴まれているんだけど。
「雪菜さん」
「昨日、あの人に抱きつかれてたよね?」
「抱きつかれ…………た。けどあれは__」
「一緒に聞くから」
これは逃げれないってことなのか。二人から逃げることは簡単だけど、雪菜さんから逃げたくないと思ってしまっている僕がいるんだよね。母さん父さん、雪菜さんとその家族以外は割と雑に扱ってもいいと思っているからなぁ。けど今回は大人しく捕まってあげますか。
「咲人くん、遅かったね」
「普通の時間だと思いますが」
「昨日ぶりだね藤咲くん」
「これは先輩Aじゃないですか。さっさと消えてくれませんか?」
「こっちの、可愛い子は」
これは可愛いと思っていない時の反応してやがるなぁ。もしかしたらあのストーカーAは先輩Aに利用されているかもしれないから調べておいた方がいいかもね。一番いいのは宇恵野だけでも夜夢にお願いするのもありかもしれないな。先輩Aがそうだったとしたら普通に両方に頼るのはダメだな。
「嫌われちゃったのかな」
「人見知りなだけなので気にしなくていいですよ」
「そうなんだ。いつまで先輩A呼びなの?」
「一緒ですかね」
先輩Aと話す度に両腕が痛いのはな……両腕だと? 雪菜さんは右側にいるから左は痛くないはずなのに。左を見るとそこには黒井先輩が抱きついていた。僕が「はぁ?」と言うと「嫉妬しちゃった。テヘペロ」と真っ赤な顔で言ってきた。なので僕は、黒井先輩に一旦離れてもらって股間も蹴り上げた。
登校している生徒からドン引きするような声が聞こえてきたが無視する。普通に考えて可愛い子に抱きつかれるのであればいい。例えば雪菜さんとか写真の子とかな。それを女装している男の娘に抱きつかれて僕は嬉しくない。しかも顔を真っ赤にしているとか何を考えているんだよ。
「サキくん、それは可哀想だよ」
「別に可哀想じゃないでしょう」
「ふ〜んサキくんね。私もそう呼ぼうかな」
「絶対にやめろ」
「私に当たり強くない?」
そりゃあたりが強くなるでしょうに。愛しい人と何もない他人では距離が遠いのは当たり前なのに。先輩Aを放っておいてもいいんだけど、ファンがいた場合は面倒なことになるからな。雪菜さんを抱えて逃げることは普通にできるけど、目立たせることはしたくないから大人しくしないと。
僕の腕にしがみついている雪菜さんを見て頬を赤らめている奴や見惚れている奴がいるのは少し許せんなぁ。別に僕の彼女って訳ではないけど、牽制くらいは問題ないよね? 僕は雪菜さんに小声で(牽制する為にキスしても大丈夫?)と言った。雪菜さんは大きく目を見開いて顔を茹で蛸にした。うん、可愛い。
「わ、私からしししてもいいなら」
「慌てすぎじゃない?」
頬にキスをするだけなのにこんなに取り乱すことなんてあるのか? まぁ雪菜さんの方からしてくれるみたいだし全くみるかな。あまりに遅かったら僕の方でキスをすれば良いからなぁ。・・・ん??? もしかして僕は“頬にキス”を言っていなかった。それで慌てるって訳なのか。
「いぃぃぃぃくよ」
「雪菜さんちょっとま___」
「「「はぁぁぁあ!?」」」
「君ら、マジ」
「おのれぇ、雪菜くん!!」
雪菜さんを止めるのが遅くて普通に唇にキスをされた。これは事故だしノーカンってのはダメだろうからしっかりと責任は取ります。僕と雪菜さんは時間でいうなら10秒程度だろうけど、キスをした。離れようとしても雪菜さんにガッチリと頭を固定されていたので無理だった。
「は、初めてだから」
「僕もなんですけど、逃げませんか?」
「あっ……うん」
真っ赤になった雪菜さんをお姫様抱っこして思いっきり逃げた。周りから歓声が聞こえてきたけども聞こえないふりをして逃げることに専念する。あとで雪菜さんに先輩Aの話はしっかりしないといけないな。