33話 先輩A 1
屋上から家まで雪菜さんと2人で帰ったがお互いに無言だった。部屋に入って制服のまま、ベッドに寝転んで僕が言ったことを思い出す。佐藤の好きなことで勝負してやると言ったのはいいけど、負けるだろうな。アイツの好きなことと言えばサッカーだし……普通にやればボロ負けになる。
サッカーじゃなくてもチームでしないといけない競技に関しては僕の周りに集まってくれるような連中はいないだろうからその時点で負けが確定している。いや集まってくれる人達は数名はいるか。それでも負けるだろうから何か対策をとらないといけないのが面倒すぎる。
「サキ〜裕太ママが来てるわよ」
「今すぐ行く」
まさかのおばさんの登場にびっくりして飛び起きて制服のまま玄関まで降りて行った。おばさんはものすごく申し訳なさそうな顔をしていることから佐藤に話を聞いたんだろう。とりあえずはリビングに上がるかを聞いたが遠慮された。母さんがリビングにいるので聞かれたくないのだろう。僕はリビングに行き外に出てくることを言う。
「母さん、外に行ってくる」
「・・・夕飯までには必ず戻って来なさい」
「わかっている」
母さんは一瞬嫌そうな顔をしたがすぐに引っ込めて夕飯までには必ず戻ってくるように言われた。また何かに巻き込まれるんじゃないかと心配しているから出てくる言葉だろうな。それは守ってあげないと心配かけすぎは本当にダメだから。
「行きましょう」
「ごめんね。急に押しかけて」
「いえいえ、アイツのことでしょう?」
「裕太と縁を切ってほしいの」
おばさんもそんなことを言うとは思っていなかったので予想外だった。まぁこの人の場合は僕に迷惑をかけない為に言っていることなのだろうけど、「お断りします」と言っておいた。おばさんは驚いた表情をしてかたまってしまった。なぁぜ驚くのだよ。
ここに放置しておいても何も言われないのじゃないのか? そんなことは一切する気はないけど、歩いている途中で固まっている。佐藤でも連絡を入れておくかと思ったけどもやめておこう。一応、敵同士みたいだしこんなことで連絡を入れても__面倒だな。もう連絡しておくか。
「はっ! 咲人くん、聞き間違いだったみたい」
「間違いではないですよ」
「裕太が変なことを言い出したから迷惑をかける前に友達をやめてほしいのよ」
うわぁ……すごく今日「アナタの息子さんから思いっきり敵認定されました」って言いたい。そしてクラスの雰囲気が最悪になり始めていますとも言ってもいいがそんなことは言わない。おばさんがぶっ倒れるかもしれないからな。
「お袋、何やってんだよ!?」
「裕太!?」
「裕太くんのお母様!!」
おっと面倒なことになってきたなぁ。もうここから帰ってもいいよね。そんなことよりも変なことを言うなよと思いを込めてから佐藤にアイコンタクトを試みるが一切こっちを見ていないので意味がない。おばさんもこっちを見ていないのにさぁ。なんでかなぁ〜知らん女子Aがこっちを見てくるのはなぜ。
おばさんと佐藤が少しだけ話したいそうだから近くの公園に移動して女子Aと僕は少し離れた場所からそれを見守ることになった。意味が一切わからないが別に何かをすることもされることもないだろうからいいや。ものすごく睨んでくるのは無視すれば何も言うことはない。
「藤咲くんは……お母様と仲がいいのかな?」
「そうですね。それでアナタはどちら様で?」
「私を知らないだと!? 君ちゃんと学校に通っているのか」
微塵も知りませんが。アナタを知らないだけでそこまで言われることってありますか? 相当な有名人か頭のおかしな人しかそんなことを言わないでしょうに。一応、明日にでも宇恵野に聞いておくか。特徴をメモっておかないと絶対に忘れるから何か書くモノはないから別にいいや。
えっと髪は長めで茶髪の腰あたり、身長は高いから180cmはあるように見える。学年は三年生で見た感じはストーカー被害に遭って一人で抱えてそうな奴。佐藤と一緒に居るってことは実際にあったか、近い感じのモノにあったんだろうな。今は関係はないので知らないがね。頭はそこまで良くなさそうな気がするからテストの順位も聞いておこう。絡まれた時に使えそうだからね。
「私は_」
「名乗らなくていいです。先輩Aと呼びます」
「はぁ! 君ふざけているのかな?」
ふざけていると思われたのは心外だな。宇恵野に聞くから別に名乗ってもらわなくていいと思ったから今日だけは先輩Aで呼ぶってだけだ。そんなことを伝えないとわからないのか。・・・普通に伝えないと分からないはそんなことは。これは僕が悪いんだわ。
「すいません。友人に聞こうと思っていたので」
「そ、そうなのね。なら私が教えた方が__」
「いえ結構です」
「君は敵を作るのが上手いタイプとみえるね」
何やら相当怒っているようだけどもなぜ? まぁ僕には関係ないし、いいや別に。ってか二人は話は終わらないのかな。そろそろ待つのが面倒になって来たから帰りたいんだけども。先輩Aに任せてもいいけど踏み込んだ話もあるから任せられないからなぁ。事情を知ってる人が近くを通ればいいんだそうけど。
当事者が帰るわけには行かないからここにこの先輩Aといるけども話すことはないから無言でいよう。夕焼けって本当に綺麗だなぁ。何もせずにこうやってボーッとしているのもたまにはいいかな。母さんと父さんを心配させなくていいだろうし、何日かやろう。
「聞けよアホ後輩」
「ナンスカ」
「裕太くんはライバルなのか?」
「全く。眼中にないので」
「即答か。欲しくないのか、ライバル」
何故そんなことを聞くかは分からないし分かりたくもないけど、欲しかった。ライバルとは何かが僕には分からない。簡単にねじ伏せられる人たちのことをライバルとは言いたくないし、親友をライバルと思えない。確かに親友でライバルってのはいるだろう。
佐藤と僕では釣り合いがとれない。佐藤はライバルとして必死に努力をしてくれるとは思うが、僕はそんなことは絶対にしない。する価値を見出していないというのが大きな理由だ。アレが出来るコレが出来る、努力せずに簡単に出来てしまう僕にはそれが分からないから……見ないようにする。
「興味はないですね」
「ライバルはいいモノだぞ。私にとってはだけどね」
(羨ましいですね)
「ん? 何か言ったか?」
「何も」
変な人だな。普通は佐藤の為に怒った方がプラスになる筈なのに何故かしてこない。単純に惚れているだけの奴らとは違うってことか。三年生だしそりゃあ違うだろうけど、恋は盲目になるっているし警戒はしておこう。佐藤がいないからこうなっているだけかもしれないからな。
「一番盲目なのは君だと思うがね」
「声に出てましたか?」
「いや。なんとなくだ」
うわぁ怖いなこの人。