32話 ライバル? 1
あの後も僕は竜樹にこき使われまくりヘトヘトになった。黒井先輩はそんな僕を見て笑っていたのでスネを思いっきり蹴ってやった。普通にしておけばモテるしカリスマがあるから人がついてくるのに……どうしてアホな行動をとるようになってしまったのか。まぁこれも慕われる理由にもなるだろうからいいんだろう。
「中々いいのが入っているんだけど」
「蹴りが黒井先輩に気に入ってもらって嬉しいですね」
「咲人くん、そんなことを言っていると人から恨まれるよ」
「幼馴染から敵認定されているので今更では?」
僕がそうゆうとみんな黙ってしまったのだが、ここは「確かに」と言って笑う場面ではないだろうか? 変なことは言ってないはずなのに黙ることはないだろう。アレだな僕のボケが高度すぎで反応できないんだろうなぁ。
「咲人、お前の姫様を迎えにいけよ」
雪菜さんは姫様ではなく僕の好きな人ってだけなのになんでそんなに嬉しそうにしているんだよ。まぁ父さん、母さん以外に教える気なんて一切ないから「姫様」の認識でいいよ。もう17時半だしあっちの女子会も終わっているだろうから迎えに行くつもりではあったからね。
とりあえず帰る準備を済ませて雪菜さんの荷物を持って生徒会室を出ようとドアを開けると葉月先輩がいて驚いてしまった。葉月先輩は「雪菜ちゃんは屋上にライバル様といらっしゃいますわ」と言って生徒会室に入った。ライバル様? って一体誰なんだ。僕にライバルって呼べる人はいない。
「すいません、葉月先輩」
「どうかしましたか?」
「ライバルなんていないのですが」
「「「「は???」」」」
生徒会室にいる僕以外の全員がハモった。ライバルになるような人なんで本当にいない訳……もしかして佐藤のことを言っているのか? それなら別に親友で幼馴染ってだけで別にライバルだなんて認識をしていなかったんだが。他から見ればライバルに見えていたんだろうな。
「じゃあ屋上に行って来ます」
「旧校舎にいらっしゃるはずですわ」
「ありがとうございます」
っていうことで僕は旧校舎の屋上目指して走る。何故、佐藤は雪奈さんを屋上まで連れて行ったのかは知らないが……迎えに行くのはいいだろう。僕の弱点は雪菜さんらしいから佐藤側に入れるのが目的だとは思うけど。もしアイツが雪菜さんを好きなら今の状況は動きやすくなるんじゃないのか?
屋上に連れて行ったのは告白して僕に精神的ダメージを入ることが目的な場合は……雪奈さんに危険が及ぶ可能性が高い。佐藤に限ってそんなことをしないと思いたいが、どんなことになるかは分からないから早く行かないと。いや待て、僕は本当に向かうべきなのか? 雪菜さんが距離感が近いってだけで本命は別だったら?
「・・・いや行こう」
◇◇◇
[佐藤裕太視点]
俺は屋上にいて幼馴染で親友のサキを呼べばいいんだがそれの想い人と一緒にいる。放課後の屋上に男女2人だけで夕焼けが綺麗に見える。ここで俺は雪菜ちゃんに再度告白する。1度目は保育園を移動するときに言ったが冷めた目で見られたまま断られてしまった。あの時はタイミングが悪かったと本気で思っていた。
「私に用はないと思う」
「あるんだよ。俺が告白した時のことを覚えているか?」
「覚えてる」
「・・・あの時からサキのこと好きだったんだろ」
そうゆうと何も言わずに頷くだけだった。雪菜ちゃんが好きになる理由は痛いほど分かるし、サキなら初恋の相手を任せたいと思っていた。今は違うと思っているから俺が告白してモノにする。あの時とは違うから成功するなんてことは一切ないだろう。雪菜ちゃんと話している時は笑顔だが、目が冷たい過ぎる。
絶対に無理だと思っている人にどうやってこっちに来てもらう方法は“サキを人質”にとることだ。そうすれば雪菜ちゃんでも俺の告白を受けられずにはいられない。ここ最近は人助けをしまくっていたので俺の味方は多くなっていっている。
「俺は今でも好きなんだよ」
「そうなんだ。私は嫌い」
「サキは……段々と孤立していくだろうな」
「私と同じことをするの?」
あの時は好きな人を独り占めしたくなっていただけで別に嫌いだからしたわけではない。今回はアイツのことを徹底的に叩き潰すことが目的だ。雪菜ちゃんの場合は俺だけが手を差し伸べればいいと思っていた。サキには一切手を差し伸べないし誰にも助けてもらえないようにしてやる。
「勘違いしないでくれ。俺は嫌いだからしたわけじゃない」
「サキくんがいなかったら私は通えなかった」
「じゃあ次はサキが通えなくなるな」
「貴方は変わらず悪人」
これは復讐で何も俺は悪くない。あの時、味方してくれた。絶望していたときに救ってくれた奴を破滅させるわけじゃない。先に裏切ったのはアイツだから俺は悪人じゃない。俺は常に正しいことをして親父の無念を晴らす。
俺は裁かれないし復讐が終えたらこの世かは消えてもいい。どうせ誰も何もしてくれないだろうからな。俺が助けた人達は“ヒーロー”が欲しかっただけで俺じゃなくてもいい。俺がやっていることが間違えているのはわかっているし褒められていることではないのも知っているけど___
「ここで無理矢理出来るからな」
「痛っ」
ここで既成事実を作ってしまえば___サキ速く来て助けてくれ___雪菜ちゃんは俺の味方をするようになるだろうな。他の連中だって俺が助けたから味方になったんだからそれでいいんだ。俺がやることは正義で悪は……自分自身なんだから。
「お兄さん、そこまでね」
「よくここがわかったなサキ」
「あとで教えてやるから早く離せよ」
雪菜ちゃんに迫っている俺をサキが止めてくれた。いや、止めやがった。俺は仕方なくではあるが手を離して距離を取った。流石に距離を取らないとサキに殴られると思ったからだ。アイツは強いから殴られたら怪我をしてしまう。雪菜ちゃんは嬉しそうにしているな。
ここから逃げないと行けない筈なのにもう少しここに居たいと何故か思う。幼馴染で親友の敵とできるだけ顔も合わせなくないし、会話もしたくないのに何故? ただここでいることで何かを期待しているんだろう。意味なんてない筈なのにな。
「佐藤」
「サキ、もうユウって呼んでくれないのか?」
「・・・なるほどな。お前とは敵だろ」
確かに敵だから苗字で呼ぶのは当たり前か。流石にそれは薄情じゃないのか。お前は……俺の気持ちをどうしてわかってくれないんだ。こんなにも のに。さっさとここから逃げないと変なことを考えてしまう。
「サキじゃあな」
「サキくん、どうするの?」
「ユウ!! お前の好きなことで勝負してやる」
(名前……)
俺の好きなことで勝負したところで本気でやってくれないだろう。俺はライバルですらないのに。