31話 葉月栞2
葉月先輩は優雅に紅茶を飲んでいるがしっかりと僕に圧をかけてきている。ここに来ている途中の話を聞かれてしまっていたら何も言えないし、この人は僕が雪菜さん達に被害がいかないように自分を犠牲にするようなタイプだと知っているんだろうな。だから不合格と言われてしまったんだろうから少しは反省をしないといけないかもな。
「あなた様は本当に他人を理解できていないのですね」
「それはどうゆう意味でしょうか?」
「竜樹様、あとはお願いいたします。雪菜ちゃんはこちらへ」
「え、あ、はい」
自分から説明するって言っていたけど、僕は先輩の合格ラインにいなかったのだろうな。だから代わりに竜樹を呼んで雪菜さんを連れて席を立ったんだろう。それにしてもあの言葉の意味を教えてほしいんだけども……ダメですか? 雪菜さんと二人で竜樹のところまで行って何かを話している先輩の姿を見るがこちらに何もリアクションをしてくれないのは残念だ。
まぁ教える義理はないだろうから別にいいんだけども。そんなことより僕と雪菜さんが入ってきてから流れに何か裏がないかを思い返しても全く気が付かない。何か企んでいるのは確かだろうけど……一切分からないんだわ。お手上げ状態でしかも葉月先輩には不合格と言われてどうしろと。
「久しぶりだな。怪我は大丈夫か?」
「それは最初に言えよ。大丈夫だけど」
「今回のことなんだが……」
書類を片手に持ちながら竜樹は話し始めたが微塵も興味がない。だって内容が今回の噂を払拭する為に生徒会は全力で動くとか放課後は出来るだけここで過ごしてから帰宅しろだの。しかも挙句の果てに僕を佐藤から遠ざける方針でいるだと。はっきり言ってふざけているのかとも思った。
「本当に今回は何もするな。俺らが守る」
「いやだ」
「この前とは違うんだぞ」
「だから? 叩き潰すことは同じだろう」
「お前は……はぁ」
僕が叩き潰すって言ったのが意外なのか竜樹はすごく驚いた顔をしている。ゴリ先輩の件は自分自身で抱え込み過ぎたのが原因で起きたと僕は勝手に思っている。僕は単に雪菜さんを助ける為に動いていただけで佐藤達だけで解決は出来たろう。あの件に関しては僕はもう何も言う気はないからなぁ。
「まぁなんだ葉月のことは許してやってくれ」
「正しい判断をしただけでしょ」
「・・・嫌がらせだって気がついていないのか?」
嫌がらせだったのかよ。別に間違えたことをしているとは思っていないので嫌ったり敵対するなんてことはしないけど少しだけ葉月先輩のことが気になるから竜樹に聞いてみようかな。この件に関してはこれ以上話しても意味がないと思うしね。
葉月先輩について竜樹に聞いてみようとしたら「仕事を手伝え」と書類を渡してきたんだけど。これは生徒会としていいのかと疑問になるけど……仕分けするだけなみたい。何で仕分けをするかは知らないので聞く必要があるけど僕が手伝わなくてもいいようなことではないかな?
「緑と赤の付箋あるだろう」
「あるけど」
「それ通りに分けてこれで止めといてくれ」
と雑に投げられたクリップを拾う。流石に文句を言ってやろうと思ったけど、葉月先輩のことを聞く場合は絶対に対価を求めるような奴だろうから大人しく従う。雪菜さんを待っている間暇だし何かしながら話を聞く方が丁度いい。さてなんて切り出したものか。僕が急に葉月先輩について教えてくれなんて言ったら驚くだろう。
驚かせることは別にいいとしても竜樹は書類に何かを書いているからミスをさせることは出来ないか。なんて考えて竜樹を見ているせいか「気持ち悪いぞ」と言われてしまった。なんかムカついたので竜樹に葉月先輩のことを聞いてみた。
「お前が他人に興味があるのか?」
「そりゃあるよ。オレをなんだと思っているんだよ」
「てっきりないものかと」
昔から時々言われるけど僕は他人に興味はあることにはあるよ。なんでもいいから竜樹に葉月先輩について教えてくれたと言った。「いや……俺から何かを言うことは」と竜樹は渋るのですっかり忘れていたスイーツバイキングのクーポンを見せた。はあ? と言いたそうな顔をしているがこれはカップル限定の割引券なのだ。
「欲しいならやるが?」
「俺は甘いものは好かん」
「お前がそうでも婚約者の方はどうかな?」
「・・・期限はきれてないだろうな」
ふふふ____めっちゃ期限がきれてる。僕はそれを隠蔽する為に「やっぱ無しで」と言いながらカバンに入れた。竜樹からものすごく冷めた目で見られているがそんなことは一切気にしない。けども仕方ないから受け入れておいてやろう。別に罪悪感があるとかでは決してない。
「葉月の家は……説明しなくても一度会ってるからここはいいだろう」
「えっ」
「覚えていなかったな?」
竜樹が話す気になってくれたが僕のことを思いっきり睨みつけてくるのはやめて欲しい。いくら僕が何も覚えていないからといってもさ。どうせジジィに付き合わされたパーティーとかで顔を合わせたとかぐらいだろうから覚えているわけないよね。
「まぁいい。葉月は家の中では発言権はなかった」
「なかった?」
「今は発言権もある程度使える資金もある」
「へぇ〜努力の人間なのか」
「そうだな。秀才だがキッカケが無ければ何もしないままだった可能性があったらしい。本人から聞いた話だがな」
本人から聞いたのであればそのキッカケは相当なことだったのは分かるけど、どうして僕をそんなに睨むのかな? 僕が覚えていないかを調べているはずだろうし今回は何も悪くないよね。微塵もその時興味がないただの生物なんて覚えているわけないし。
それは別にどうでもいいとして、葉月先輩が家で発言権がなかったってことは血のつながりがある奴らの言いなりだった訳だなぁ。だけど今はそのキッカケとやらで前に進めているのであればそれはいいことではないだろうか。どんなことが起きていたのかを知りたいけど教えてはくれないだろう。
「ほら話したぞ。仕事しろ」
「へいへい」
ほらみたことか。一切話すがない。
◇◇◇
[葉月琹視点]
ワタクシは今雪菜ちゃんと一緒に別室で楽しくお茶を飲んでいますが……本題をどう言えばいいのかが分かりませんね。ワタクシとしては彼を生徒会に入れたいのですけど、竜樹様からは「それなら桜木雪菜を堕とせ」と言われました。それと「慎重に動け」と言われましてワタクシは意味が分かりませんでしたが……あの件で分かってしまいました。
「すいません、何故私はここに来させられたんですか?」
「これから説明いたしますわ」
どこから説明したものかと悩みますが彼に初めて出会った時からお話ししましょう。それでワタクシが何故、彼……藤咲様を生徒会に入れたいのかを説明したほうがよろしいと判断しました。流石に昔の話をするのは恥ずかしいので付き人を外に待機してもらいました。
「ワタクシは藤咲様に運命を感じておりました」
「サキくんにですか」
「えぇ、ワタクシは実家では道具よくて奴隷の扱いをされていましたわ」
「虐待じゃないですか……」
はい、虐待に当てはまる行為ではありますが今となってはそれを盾に出来ますのでありがたいと思っています。雪菜ちゃんにはまずワタクシが置かれていた状況下を理解していただきました。次に何故ワタクシが彼に運命を感じたかについては少し詳しく説明させてもらわないと。
「藤咲様には怪我が治りかけの時に出会ったのです」
「あの事件のせいの___」
「そうですね。父はワタクシを守友家に嫁がせたいと考えていたみたいですわ」
「守友家? サキくんって藤咲って苗字なのに」
父は本当に守友家にワタクシを嫁がせて甘い蜜を吸おうとしておられましたが、お灸を据えられましたので滑稽ではありました。話がズレてしまってはいけませんね。父はワタクシのことを守友家、現当主である朝晴様に紹介しました。朝晴様からは竜樹様ではなく……藤咲様を紹介されて父はショックを受けていられました。
彼の礼儀作法を美しいものだったのですがワタクシや他の方を一切捉えていないような瞳が最初は恐ろしかったのです。ですが彼はワタクシのことを「そこに居るだけの人影みたい」と言いました。父は凄く激怒されましたが朝晴様は何も言わず見守っておられました。父が「先に無礼を謝罪いたします。咲人様はあまり頭は良くないようで」と低い声で言われました。
朝晴様はそよ風でも受けているような表情をされて藤咲様は「したいことがあるなら見つけてもらうだけじゃダメ」と言ってカモミールと呼ばれる花のネックレスをいただきしました。彼は「僕は君を助けれないし癒せない。知らないけど、耐えてきたキミヘのプレゼント」と言われ……嬉しくて泣きました。
「ジジィ……オレは先に戻ってもいい?」
「ん? あとはワシに任せい」
「おい待て、ガキ!!」
「ほぉう。ワシの孫だと知っておっておるのじゃろ?」
父は蛇に睨まれたカエルのようになってしまっていたと聞きます。ワタクシは涙で前が見えなかったのでそれを見られなかったのは少し残念でしたね。朝晴様はワタクシに凄く優しくしてくれて助けてくれました。知人の医師からワタクシのことを聞いて助ける為に色々としてくれていたみたいなのです。
「ワシはアレに何も教えておらんかったのにのぉ」
と独り言のように言われて驚きました。何も知らずにコレを渡してワタクシの傷を少しでも癒しくれたのです。彼からすればどうでもいいことかも知れなかったですが、ワタクシの心臓の鼓動がうるさいのをどうにかしていただきたいと思いましたわ。
「ワタクシは彼のことを追いかけれませんでしたが」
「あの琹さんのお父さんは」
「父であれば普通に生活していますわよ」
ワタクシ以外の家族は矯正されて今も生きてはいますわ。朝晴様は「君にしたことをしたことだけじゃな」と笑顔で言われました。流石に怖かったのですがそれは別にいいでしょう。今がものすごく楽しいのですから。朝晴様と藤咲様のおかげでですわね。
「質問いいですか?」
「いいですわ」
「今はサキくんのことは好きですか?」
「全く。あの時の藤咲様でしたら今も好きですわ」
ワタクシは勝手に藤咲様に真正面で出会えることに舞い上がっていましたが……失望したと言ってもいいくらい彼は変わりました。あの瞳は人を捉えているのに見ようとしていませんでした。それに彼はワタクシに言った筈の「そこに居るだけの人影」みたいになっていました。
生徒会室に来るまでの彼は何も変わらないように見え、会長からのお話ではあの時から変わっていないと思っていました。前々から生徒会に入ってもらいたいとは思っていましたが……今の彼をみて余計入ってもらわないと困ると理解したのです。何故ならあの瞳でもう一度だけ見てもらいたいので。
「生徒会に雪菜ちゃんにも入ってほしいのですがどうでしょう」
「サキくんが入るならいいですが……」
「本当ですか!!」
それなら早速動かなくてはいけませんね。外に待機させてた付き人を呼び出して藤咲様をここに呼ぶようにお願いしましたが……竜樹様に止めろと命令されていたみたいです。ワタクシが暴走すると思ってのことでしょうから本日はやめておきましょう。




