30話 葉月琹1
放課後になり生徒会室へ行こうと教室を出ると数名が僕の周りを囲うようについて来た。左側には雪菜さん、右には赤城で後ろには坂内と宇恵野がいる。生徒会室に行くだけで囲うようにしなくても何もないから安全だろうよ。襲いかかってこられても返り討ちに出来るしね。
「サキくん、私も一緒に入るからね」
「・・・一緒に帰る約束だった」
昼休みの件で約束が頭から抜けてしまっていたわ。流石に守らないのは雪菜さんにも悪いし亜紀さんにアイアンクローされるかもしれないからしっかりと守ろう。涼香さん、情報だと亜紀さんのアイアンクローはものすごく痛いとのことだからね。そんなことよりも流石に生徒会室にこの人数で入るのは邪魔じゃないかな。
「藤咲っち、俺達はこのあとは別だかんね」
「そうなのか?」
「そそ。委員会もあるし部活もある訳じゃん」
それもそうだよな。普通に考えたら三人は委員会と部活に入っている訳だし生徒会にわざわざ足を運ぶ必要はないんだよな。一緒に行こうとしなくても別にそのまま向かえばいいと思うが……友達だと思ってくれているってことだろうなぁ。そうだったら素直に嬉しいなぁ。
ただこの三人が僕がいない場所で何があっては避けないといけないからどうしたものかなぁ。流石に直接被害が出るようなことはないだろうから大丈夫だとは思うけども……大丈夫だろうか? 僕以外の友達に嫌われないといいんだが。もし何かあった際には頭でも下げて周ればいいか。
「・・・アイツとはどうするのか決めているのか?」
「佐藤のことか?」
「もちろん。ウチらは当然藤咲の味方だけど」
「他は違うってだろ。確かに味方は多いだろうが」
佐藤の性格上、このうわさによる孤立作戦はすぐに終わる。そもそもアイツはあまりこういうことは、得意ではなく堂々と真正面から突っ込んでくるような奴だ。近々僕の方へ突っ込んでくるだろうからその時までは放置で何かされたり、されそうになったらソレを処理して行くって感じで行こう。我慢強い訳ではないからな。
「みんなは出来れば自分のことを第一に考えてくれ」
「サキくんは?」
「もちろん、僕も自分第一だ」
僕の言葉を聞いた三人は頷いてくれたが、雪菜さんは何かを探るように見つめてくるがそれに僕は気付かないふりをした。流石にバレバレな嘘をついてしまったとは思っているけどもぉ、家族や佐藤以外ではバレないと思って言ったんだよ。こんなところに嘘を見抜いてくるような人がいると思わないじゃんか。
「サキくん、通り過ぎたよ」
「へ? 本当だ」
「それとみんな、ボーとしている間に行ったよ」
本当だわ。他三人が居なくなってることに全く気が付かなかった。またスマホで連絡を入れておかないとなぁ。さてと今は生徒会室に入って先輩の話を聞かないといけない。黒井先輩達がいる生徒会室に入るのはすごく面倒なことが起きそうで嫌なんだけど……入るしかないよね。
「お邪魔します」
「やぁ咲人くんと……桜木さん」
「こんにちは、会長」
「君は呼んでいないのだがね」
「サキくんを守る為です」
なんでそんなにバチバチできるのさ。二人を放置して生徒会室を見渡してみると数名は居なくなっているがそれでも大勢が残っている。黒井先輩の派閥だけではなく、竜樹の派閥も一緒になって仕事をしているのが驚きではある。まぁ対立する意味が無くなれば協力はするわな。
「黒井先輩、竜樹は?」
「あぁ彼なら……今は居ない」
一体僕が学校に来なかった間に何があった。もしかしてゴリ先輩のことで責任を取って生徒会をやめたとかなのか。それはあり得るが派閥の連中はそれで納得出来るのかは別問題だろう。責任感が強い奴であればそうするであろうがアイツは野望の為ならそんなことを捨てることができる人間だ。
竜樹の性格を考えればやめることはないだろうから絶対にやめた風に言いやがっているな。竜樹はまだ生徒会に所属しているって思ってから発言をしよう。今はいないのは見回りをしているんだろうからってことにしておこう。時々イタズラをしたくなるって黒井先輩も言っていたからそれが出て来たんだろう。
「まぁ立ったままではアレだから座りたまえ」
「分かりました」
「失礼します」
「お茶でも出せればいいんだがあいにく紅茶しかなくてね」
とりあえずソファーに二人して座り黒井先輩も向かいに座った。お茶が出るかどうかはどうでもいいから話をさっさと始めてくれないかと思っているんだけど口には出さない。なんて考えていたら役員であろう人が紅茶を人数分出してくれ……なかった。客人であるんだからしっかりとしてくれとは言わない。と言うか言えないんだよね。
「何故、君は私の分を出してくれないのかな」
「会長には雑巾の絞り汁を出しますわ」
「ちゃんと今日は仕事は終わらせているよ。私のお茶は誰か別の人にお願いするよ」
「他の人は皆、手を離せませんわ。あなた様と違って」
黒井先輩は背後の役員がどんな顔をしているのかが見えないだろうから分からないと思うけど、みんなして首を思いっきり振っているけど……何アレ。しかもこっちに口パクで「助けてください(涙目)」で僕らに助けを求められても困るんですけど。僕としても話が進まないのは嫌だから話をこっちでふるけどもどうなるかは知らないからね。
「黒井先輩、とりあえず呼び出した理由を」
「それはあとで話すよ。まずはこの生意気な役員をどうにかしないと」
「あら生意気なのは会長ではなくて」
「ふ〜ん。私の派閥の古参なのに……そんなことを言うんだ」
「関係ありませんわ」
うわぁすごく面倒だからここからさっさと帰りてぇ。雪菜さんと一緒に帰ろうかな。隣から袖を引っ張られるので雪菜さんの方を見ると「アレってツンデレとか言うやつなの?」と小声で言って来た。気になるところはそこなのねと思ったが口には出さなかった。僕偉いなぁ。
あの先輩がツンデレなら好意があるってことになるけど、黒井先輩がそんな誰かに好意を向けられるような行動するような人か? と聞かれたら一切そういうことはしない人だな。生徒会長を目指すようになってから愛想は振り撒いているのは知っているが、告白されたことは一度も無かったはず。
「・・・お前ら何やってんだよ」
「イデッ!! 何をする。私は生徒会長だぞ」
「痛いですわね。淑女の頭を叩くとは何事です」
「俺の従兄弟を呼んでおいて放置した上に痴話喧嘩をしていたら叩くだろう」
「それはそうですわね。お二人とも謝罪いたします」
突然の竜樹の登場によって二人の喧嘩は終わりを迎えた。あの先輩は相当育ちがいいんだろうなしっかりと頭を下げて謝罪をして来た。僕らはそれを受けてしまったら許すしかないだろ。ちなみに黒井先輩は竜樹に引きづられて行ってしまった。ってな訳で黒井アウト先輩インになった。
「まずは自己紹介ですわね。ワタクシは二年の葉月琹と申しますわ」
「僕は藤咲咲人です」
「私はさ、桜木雪菜で、になります」
「あら桜木様、緊張されていますわね」
先輩なのは分かっていたけど相当落ち着きがあるな。まぁそれは松川先輩も同じか。葉月先輩は相当な名家出身だろうけど中々こんな人は居ないだろうな。僕が出会って来た中の名家や金持ちの子は礼儀作法を一切習っていないような連中だったから新鮮だわ。緊張している雪菜さんの為に話しかけている。
「ワタクシのことは琹さんって呼んでくださらない?」
「いいんですか」
「いいですわ。桜木様のことを雪菜ちゃんとお呼びしますから」
「分かりました。し、琹さん」
ものすごく気遣いをしてくれているから黒井先輩よりかこの人と話したいわ。雪菜さんとも仲良くなってくれるみたいだしこのまま関係が続けばいいんだが。ただ黒井先輩の話の内容を葉月先輩が知っているかどうかが問題だな。重要な人は今竜樹に監視されながら仕事をこなしているみたいだし。
「そろそろ本題に入りましょう。ワタクシもまだ業務が残っていますので」
「葉月先輩はどっちですか?」
「今はまだ藤咲様の味方ではありませんわ。ただこれからですわ」
「そうですか。正直に言ってくださりありがとうございます」
僕のこれからの行動や発言で敵にもなるって訳なのかぁ。気をつけないといけなくしてきやがった。あっちは僕の情報を相当持っている状態で、こっちは先輩のことは何も知らない。しかも僕の弱点である雪菜さんを連れて来たことで余計あっちの方が有利になったってことかよ。どこまで計算されているかは知らないが邪魔くさい。なんとかすることは出来るだろうがここは___
「降参します」
「サキくんどうしたの?」
「あら? まだワタクシは何も仕掛けていませんわよ」
「いえ勝負する前から負けているので」
「ふふふ。流石ですわ」
合格したみたいでよかっ____「不合格ですわ」ぇだ? 合格っていう流れじゃ無かったのかよ。葉月先輩が「アナタはここに来る前に雪菜ちゃん達になんておっしゃりましたか?」と言われて気付かされた。尾行されていたのか。




