29話 恩と敵? 1
雪菜さんが屋上から出て行き僕は寝っ転がり空をジッと見て、あの人と話した日々を思い返す。あの人は本当に身勝手にユウや奥さんのことを喋り……そして勝手に僕へ彼女と彼を任せて逝ってしまった。無実だと僕は知っているのに何もせずに、あの人を見捨てたからその罪悪感から逃げる為にユウに接触した。元々同じ保育園だから簡単に分かった。
ユウを初めてしっかりと観るがそこにはあの人を幼くした奴だった。ユウは人を助けて自分の周りに群がるようにすることで自分を満たしているような感じがしたので一切近付きたくなかった。まぁ深く関わらなければそれでいいかとこの時は甘くみていた。僕が関わるようになったら徐々に周りの奴らと距離を置くようになっていった。ユウの家に遊びに行かせてもらった時に母親とも接触できた。
彼女は目の下の隈が凄く、表情は暗かった。それに比べてユウは笑顔でおり心配させないように立ち回っていることに驚かされた。一通り遊び……帰ってからジジィに二人を支援するように脅した。あの事故は守友家が原因であるので被害者の家族に何もしないなんて言わせるつもりは無かった。あの時も今も少しでも罪悪感から逃げる為にやっていたことで一度もアイツに向き合ったことなんてない。
「はぁ、罰として受けるしかないか」
「君が戦おうとしないでどうするのかな?」
「どうでもいいじゃないですか。黒井先輩」
「彼にどうな罪悪感があるのかは知らないさ。それでもアレは私としては間違っていると思っているよ」
そう言いながら黒井先輩は隣に座って紅茶を飲み始めた。アレって噂を流して僕を孤立させるために行動していることだろうなぁ。ユウと違って僕が孤立したくらいでは折れたりはしないから特に問題はないんだよ。だから戦うとはどうでもいいし興味が微塵もない。ただ孤立をするだけでアイツが……笑ってくれるのであればそれでいい。
「今回は君は使い物にならなそうだ」
「喧嘩売っていますか? 買いますよ」
「もし彼が幸せになって……他の人達のことを考えれないのかい」
他の人って母さんや父さんにも幸せになってほしいと思っているよ。もちろん雪菜さんやそのご家族にもそうなってほしいとお願っているんだからな。なんて黒井先輩に言わなくても分かっているんだろうなぁ。案外人のことを見ているような人な訳だしね。まぁこの人の言っていることは正しいのは分かっているから何も言えないんだよ。
「話は変わるが、君のお祖父様にコレを解決したら婚約の方をお願い出来ないだろうか?」
「はいぃ?」
「言質取ったからね」
「そっちのはいじゃねぇ。待って逃げ____速くない?」
起き上がりながら黒井先輩を捕まえようとしたが逃げ足が速すぎて捕まえることができなかった。おそらくは黒井先輩なりに励ましてくれたんだとは思うが……もう少しやり方があったんじゃないのか? はぁ、本当に放っておいても何も問題はないと思うんだがそういう訳じゃないんだろうな。さてとそろそろ教室に戻らないとチャイムが鳴る。
「咲人、時間あるか?」
「ユウ……ないだろう。もうすぐチャイムが鳴る」
「お前は俺の敵だ」
教室に入るなりユウが絡んで来て何故か敵認定宣言をされてしまった。しかもクラスメイトや他のクラスの奴らがいる所で。別に敵認定するのはいいけど、宣言されると僕はどういう反応すればいいんだか分からないのだが。まぁ敵だと思っているのか分からない状態よりはマシだと思っておくことにしておこう。
「分かった。敵でいいよ」
「えっ……ほ、本当にいいのか?」
「あぁいいぞ。一つだけ聞かせてくれ何が理由だ?」
ユウは、違うか。今は佐藤と呼ばせてもらおうか。理由も聞かされず一方的に敵だと言われて友達だと思えるほど人が出来ている訳ではないからな。最後に理由だけは聞きたいが、答えてくれなさそうだ。佐藤はおそらくは僕が「イヤだ」と言うと考えていたんだそうが、そんなことはしない。佐藤の父には恩があるから助かるが敵だと言われてまでは絶対にしない。雪菜さんを心配させたくないし。
今後は周りに群がる奴らと協力して解決するかもしくは自分自身でやるべきだな。・・・と言うか固まっていないでさっさと理由を話してくれないものかね。話したくないなら「話せない」でいいから固まっていられるだけ面倒なんだけどぉ!! 視線を集めまくっているんだからさぁ、早くして欲しいんだよこっちは。敵なんだから律儀に待っている必要はないだろうが、少し気になる。
「お前がコイツらを裏でいじめていたんだろ」
「あぁ?? 誰だ?」
「ちゃんと証拠もある」
全く知らない奴らが佐藤の後ろから出てきて、証拠と言う写真を持ってきやがった。とりあえずは写真を受け取ると後ろから出て来た奴らを僕が殴っている所だった。合成写真だけど、完成度はすごく高いからびっくりだよ。僕の顔だけを使っているとは分かるが表情まで作れるとは。今の技術は相当な進歩を遂げていることに感動した。そんなことよりも
「本物なら証拠としては十分だろう」
「本当にやったのか。信じていたのに残念だ」
「ただコレは合成写真でしょ」
佐藤以外驚いている顔をしているから正解だな。普通に考えたら本人の僕に見せては嘘だとバレるようなものを持ってこないだろ。もしかしたら佐藤の奴が何かをやっているのかもしれないなぁ。リアクションをしそうな奴が一切していないってのは気になるからな。
もし佐藤の行動理由はあの人……父親を見殺しにした男への復讐ならば僕に敵意を向けていることはいいことだな。あの男であれば容赦なく佐藤の人生ごと潰すだろうが僕だったら絶対にそんなことはしない。僕が潰すとしたら手足だけなのだから問題はあの男よりもないだろう。
「咲人が犯人で間違いないんだな。先生に報告する」
「人の話を聞かなくなったか? 合成写真って言ってるだろ」
「俺は……もうお前の言うことが信用できない」
「そうか。忠告はあるか?」
「いらん」
これは佐藤の裏に誰か絶対にいるな。僕の言動や行動を把握している人間が居ないとおかしい。把握出来るような人間は、今まで近くにいたユウか両親くらいなものだと思うんだが。佐藤は把握していないと分かったんだが……父さん母さんが裏にいてこんなことをさせているのであればぶっ叩くけど、あの二人は善人よりだからそんなことはしない。
「言い争っているところすまないね」
「先輩、なんのようですか?」
「君に用がある訳ではないよ。自意識過剰かい?」
「貴方とは違いますよ」
「「あぁん???」」
知らぬ間に僕と佐藤の間に入って来た黒井先輩は、何故か僕にではなく佐藤に敵意を向けているようだった。いつもであればそんなことは言わない人なのにどうしてなんだろう。他生徒が黒井先輩の圧にお怯えてしまっているので僕は「どうしたんですか?」と尋ねた。いつの間にか胸倉を掴み睨み合っている二人が同時にこちらへ首を向けた。
小さく「ひぃぃ」と僕の背後から聞こえたので心の中でごめんと謝っておいた。とりあえず僕は黒井先輩に用件だけを伝えてもらって戻っていただけるように言った。佐藤には用は僕にあるようだからすまないが席に着いておいてくれと頼み込んだ。なんで僕が二人のご機嫌取りみたいなことをしないといけないんだよ。
「旧校舎の屋上へ勝手に入ったことに罰を与えるのを忘れてしまってね」
「そんなことのために」
「酷いなぁ。君のためを思ってのことなんだよ」
「分かりましたよ。放課後に生徒会室にお伺いしますよ」
「楽しみに待っているよ」
僕の為ってことはさっきの話を無理やり終わらせる為にわざと来て罰を与えてくれたのだろう。こういうところはちゃんとした人だな。




