27話 面倒な……3
桜木家で泊まることは確定しているのは少しどうかと思ったが全員(僕を除く)で決めているので従うことにした。帰ろうとしたんだけど……全力で抵抗されたので仕方なくって感じではあるが別に家は隣だしいいか。何かあれば普通に帰れるからいいんだけど、がっちりと両腕を掴まれているから逃げるのはしんどいんだけどね。
「ほらサキ、あーん」
「自分で食べるよ」
「ダメ。母さんに任せなさい」
僕は両腕を掴まれているので自分で晩ご飯を摂れない状況ではあるが……母さんと父さんが交互に餌付けをしてくる。十五の息子にそれをする両親もすごいと思うけど、桜木家の皆さんはニコニコとしながらこちらを見てきているのも少し変だと思う。まぁ別にこういうことがあってもいいかな。その後、何もなくわいわいと近所迷惑にならないように騒いで寝た。
ふと、目が覚めたので母さんが部屋から持ってきてくれたスマホで時間を確認すると夜中の1時であった。居間で三人で寝させてもらっているのだが二人は何故か僕の布団に潜り込んでいた。子離れをしてほしいと思うがまだ僕も親離れはできていないので何も言えないな。とりあえずトイレに行きたいので二人を起こさないように布団から抜けてトイレへ向かう。
「・・・リビングの電気がついている?」
トイレを済ませた後、居間に戻っている途中にリビングの電気がついていることに気がついた。一応確認だけしておこうと扉を開けると……日本酒を飲んでいる海さんがいた。あちらは僕に気が付き向かいに座るように言われた。今は眠気が来ていないので話相手にでもなろう。一人で飲んでいるわけだし。
「体は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ピンピンしています」
「それは良かった。また君に後遺症が残るのではないかと心配していたからな」
またというのはおそらくあの事故のことだろう。アレに関しては事故だし……間接的に僕が加害者側だからコメントし辛い。今回のことは色々とすれ違いで起きてしまった事故って認識だから怪我をするようなこともないな。と考えると僕は思いっきり加害者じゃないのか? 捕まるのは嫌だからどうにかしてくれないだろうか。
「今朝は娘がすまなかった」
「何かされましたっけ?」
朝のことを思い返してみるが特に何もされていないので別に謝られても困ってしまう。海さんは「手錠のことだよ」と笑いながら言ってきた。アレ付けたの雪菜さんだったのかよ!! まぁ別に簡単に抜け出せるから気にしていないんだけどね。手錠くらいなら何かあれば抜け出せるからなんら問題はないから気にもしてことないんだけど……普通では?
「そんなに不思議そうな顔されてもな」
苦笑されてしまった。これはおかしいことってことで認識しておかないと変な奴に思われるのは嫌だ。楽しそうに飲んでくれるのはいいんだけど明日も仕事でしょこの人。平日休みならいいんだけどさ、明日は水曜日なんだから。あれぇ僕って2日間は学校休んでいたことになっているんだよな。やばくないかコレ?
海さんに学校のことについて聴いてみると「大丈夫じゃないか。まぁ短縮授業になっているらしいが」と言われて納得はした。流石にゴリ先輩がやり過ぎたのだから学校側に問題があるのではないか? とか報道されていてもおかしくはないな。けど、あのジジィならもみ消すことくらいは簡単にできる筈だから判断は出来ないな。
「さて、そろそろ寝るとしようか」
「そうですね」
「おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
挨拶をしてリビングを出て居間へ戻ると僕が寝ていた布団で二人抱き合ってスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。二人には僕が寝ている間、心配を相当かけてしまったのだからこのままでいてほしいな。前も二人はほぼ寝ない状態で仕事や家事、僕の世話をしていたから今回もそうしていたのだろう。流石にやめてほしいとは思うものの僕を心配してからの行動なので何も言えない。
「本当に二人の子で良かったよ。おやすみ」
アラームを停めて布団から出ようと思ったら下腹部に暖かく柔らかい感触があるのは何故だ? ・・・父さんは朝が弱く、母さんいわく「朝起きたら抱きつかれているから困っているのよ」と物凄く嬉しそうに言っていた。僕は「父さん、起きて」と言いながら布団をめくるとそこには雪菜さんが居た。驚きのあまり思考が停止してしまった。
なんで布団に潜り込んでいるのかも気持ちよさそうに寝ているかも分からずただ雪菜さんを見てずっと動けなかった。奏さんと母さんが呼びに来るまで何もせずにじっとしていた。雪菜さんは奏さんに連れて行かれてしまったが母さんは笑っていた。僕はどうにも反応ができなかった。
「ヤルなら避妊はちゃんとしなさい」
「しないよ。何も考えられなかっただけだから」
いや、ちゃんと避妊はするから別に大丈夫なんだけどね。そのところはしっかりとしますし……おそらくは僕はひよって何も出来ないとだろうから安心してはほしいかな。というか母さんはそういうことはあまり子供に言わない方がいいと思うよ? 親に言われるのはさ普通に恥ずかしいからね。
朝にちょっとしたハプニングがあったがそこからは特に何もなく学校へと向かった。いつも通りに雪菜さんとは登校は別々ではあるが今日はユウとは行かない。アイツは待ち合わせ場所に来ず、連絡も何もよこさない。昨日の件があるので仕方ないとは思うが友達に何も言わないのは良くないと思うな。
一人で学校にしたのはいいが色々な人から心配されていたみたく声をかけられ対応をするので疲れてしまった。教室に入るとまた同じのをしないといけないと思うと面倒になってきたが、開けてみると違った反応をされたのでびっくりだ。ほとんどのクラスメイトが敵意を向けてくるのは初めて経験した。
「藤咲くん、えっとこれはね……」
「赤城はオレに敵意を向けないのか?」
「向けないよ。佐藤くんがおかしいから」
赤城からそう言われたのでユウの方を見ると複数の女子と楽しそうに話していた。何人かはユウが助けていたのを見ていたので見覚えはあるが知らない顔が3人ほどいるな。これはまた厄介なことになるんだろう。坂内の奴は……ユウのことを睨んでいるみたいでこっちには気が付いていないな。
「ウチの情報が欲しいか?」
「宇恵野か……欲しいけど今はいい」
「じゃあ噂だけを教えておいてやるよ」
宇恵野がやってきて今教室内に流れている噂のことを教えてくれた。何やら僕が今回起きた件に加担していたことや原さんのお見合いをなかったことにする為に協力しようとユウが奮闘したのにそれを僕が妨害したなどが出ているみたいだ。なんともまぁ面倒な噂を流してくれやがったな。幸いなのはまだクラスしか広まっていないことだ。
「本当のことなのか?」
「違う。迷惑だから消せたりできないか?」
「うーん……やってみるが難しいと思うぞ」
「私も協力するからね」
「ありがとう」
さて、雪菜さんは……うわぁ相当怒ってるから後で落ち着かせないと誰かにあのままじゃ噛み付いてしまいそうだわ。とその前にユウと少し話さないといけないから席へと向かうが取り巻きの女子どもが邪魔をしてきやがった。ユウを傷つけないでやらまた何か文句を言いにきたの? やら好き勝手喚かれたら迷惑だ。
「はぁ、ユウ。とりあえず登校は一緒にしないんだな?」
「寂しいのか?」
「違う」
「何怒っているだよ。連絡をしなかったのを怒っているのか?」
「違う」
「はっ、お前とはもう関わらない」
「そうか。昨日のは謝ったはずなのに器が小さいな」
あえて怒らせるようなことを言ってみたが何も言ってこないのは不思議だな。いつもなら噛み付いてくるのに。僕が噂のことを聞こうと口を開いたのに原さんが「なんですがこの言葉は、貴方が……私とユウくんの邪魔をしてきたんじゃないですか!!」と大声で言ってくるものだからびっくりして閉じてしまった。
誰が邪魔をするかボケェ。そもそも黒井先輩の作戦なら特に問題が起きることがなかったのにお前とそこのバカが変なことをしていたせいだろうと言ってやりたいが……ここは我慢をしないといけない。声を荒げてしまったらコイツらの思う壺で噂のことを信じてしまう生徒が増える。
「何も邪魔していないよ。勘違いはやめてくれ」
「勘違いじゃないです。会長にお願いして私とユウくんの仲を割いたのでしょう」
「違うから」
「貴方は私のことが好きだから会長とのお見合いをやめさせようとして」
「だから違うってば」
「ユウくんは助けようとしてくれたのに」
この女の頭には蛆虫でも湧いているのか? と思うほどに話を聞かないんだが。話が通じないやつの対処法で一番いいのは殴って黙らせる。だけどもここには大勢いるしそもそもあまり僕は暴力は好きではないのでやめておこう。とりあえず僕は「君のことを好きでもなんでもないし、ユウがしたことはあまり褒められるようなことじゃない」と言ったが全く聞いてくれなかったので諦めて自分の席に着いてため息をついた。
クラスメイトのほとんどはユウ達のことを信用するだろう。一度警察に連れて行かれたことを知られているので僕の話は信じてくれないだろうからな。