18話 婚約者2
何故か松川先輩は「そうですか。芝谷様が……」と言って悲しそうな顔を伏せた。僕は意味が分からなかったのでユウに目を向けた。そしたら先生の方が指導室から出て行った。いやなんで先生が出て行くかがわからないんだけど、先生はやることが多いからって勝手に納得しておくか。今の雰囲気が嫌で出て行った訳ではないんだろう。
「先輩、サキはおそらく何かを知っています」
「ホントでしょうか?」
「えぇ解決もしてくれます」
ユウは部活に戻ると言って出て行った。流石にこの状況で僕と松川先輩を二人っきりにさせることがよくできるな。月美さんに連絡を入れようとスマホを取り出すと「申し訳ありませんでした」といきなり謝罪されたのでスマホを落としてしまった。何に対しての謝罪なのかは分からないが精神的に弱りすぎているんだろう。僕にこの人を助けれると勘違いしている人はアイツ以外にはいないだろ。なんとかするしかないからしてあげるけど。
「謝罪は受け取りません」
「そうですよね。脅していますからね」
脅しとは? あの写真のことをさしているのであればあんなのは脅しになんてなる訳がない。まぁそんなことはどうでもいい訳だからまずは解決しないといけないのは竜樹と松川先輩の婚約問題に対してだな。松川先輩はおそらく使い物にはならないだろうから竜樹との話し合いだけにしてもらおう。家庭の問題については僕の知ったことではないのでそこは頑張ってもらおう。
落ちたスマホを拾い上げ月美さんへと連絡を入れる。返信が返ってくるまで二人っきりとかマズイ状況ではないだろうか? 僕には婚約者はいないが松川先輩は竜樹の婚約者で男と密室で二人でいることはかなりマズイだろうな。雪菜さん……は帰っているだろうし夜夢を呼ぶと何かが拗れそうな気がするからどうしたものか。宇恵野は部活だろうし赤城は連絡先を知らん。
どうしたものかと頭を悩ませていた時にノックが聴こえ「お邪魔します。サキくん居ますか?」と雪菜さんが入って来た。僕は松川先輩を見てどんな反応をしているかを確認するが驚いているということは呼んだのは違うか。そもそも初対面だろうからな。誰がなんの為に雪菜さんを呼んだかが気になるがそんなことは後で考えればいいか。
「裕太くんに呼ばれてきたんだけど」
「・・・あっそ。別に来なくても大丈夫だったよ」
「あの……咲人様、彼女は?」
「こちらは桜木雪菜さん。ユウの友人みたいです」
何故僕は少し機嫌が悪くなったんだ? 言い方も変な気がするしモヤモヤするな。もしかしてコレって嫉妬って言うやつか。なるほどねコレは正常な判断が出来なくなるからヤバイな。いや、そんなことは別にいいけど……雪菜さんが傷ついて無いかが気になる。言い方が悪かったので謝罪をすべきだな。これに関しては自分の感情を制御できていない僕が悪い。だから隣に座っている雪菜さんに謝る。
「雪菜さん、ごめん。言い方が悪かった」
「全然いいよ。サキくんは遠ざけようとしたんでしょ」
いいえ違います。単純にユウに呼ばれてきたことに対してへの嫉妬ですので無視してくれたらいいですよ。僕が呼ぼうか悩んでいたのにあっさりと連絡を入れる奴はなんなんだよ。ムカつくがそれはただの八つ当たりになるし、考えないようにしよう。落ち着く為にとりあえずお茶を含むが「お二人は想い合っているのですね」と松川先輩が言うのでむせてしまった。
何を言っているんだよこの人は。誰がどう見ても僕が片想いしている状況だろうのに、なんで想い合っているってことになるのかを問い詰めたいけどここでは無理だな。雪菜さんはむせている僕の背中を擦ってくれているので表情が見えない。何も言わないのが少しだけ怖いけど、先輩へ何も返していないということは別に気にしていないってことだと思っておこう。
「雪菜さん、ありがとう」
「大丈夫?」
「落ち着いた」
「羨ましいですね」
今のやりとりを見て羨ましがるということは竜樹とそんなに会ってないのか。月美さんからの連絡があるし少し読んでみるか。そこには「私からは何も言えません。ただ監視するように言われています」と返ってきた。竜樹の命令で言えないのであればジジィの命令なら喋ってくれると思うが嘘をつくだろうから止めておくか。それよりも重要なのは監視か。
竜樹がこの人のことを信用していないから監視するように命令したと考えるのが妥当だけども月美さんならコレを受けないと思う。そもそも芝谷家の人間は色々と出来るように仕込まれているが自分の定めたことを守れぬのであれば自害しろと教わっているからだ。それを知っている筈だから無理矢理に命令を出来ない。命令しても拒否することを初代の時から許されているのだ。まぁそれに関してはぶっちゃけどうでもいいんだけど。
監視というのは単に隠れ蓑にするためのモノだったりするのか? 目的は松川理瑠の護衛だとしたら月美さんの拒否はしないだろう。そっちの方向で考えるとして、護衛とはいえ四六時中とはいかないだろうから学校にいる間とかになるのか。自宅に戻るまでになるのかで何から守っているのかが分かるが、流石に先輩には分からないよな。おびき寄せる作戦があるけど先輩に覚悟があるかどうか。
「サキくん、先輩を助けてあげるの?」
「正直言うと見捨てたい」
「じゃあなんでそんなに真剣に考えているの?」
「きみと出会って好きになったから」
「「えっ」」
何故か二人は驚いていたが、僕は昔から人を助ける時の理由は変えていない。記憶が無くなろうがそれしないと僕はダメになると思ってしまうから行動している。本当に些細なことでそれを決めたからそんなことは今は関係ないと思うんだけどなぁ。僕の世界は変わった訳だし、おそらく松川先輩の世界も変わった筈ので……せめて想いを伝えれるようにしたい。後悔しても別にいいという人はいるだろうけど、心に空いた穴はずっと埋まらない。だから……
「先輩は竜樹の想いを受け止めれますか?」
「う、受け止めてみせます」
「それがバッドエンドだとしても?」
「はい。使い物にならなければ捨てられるだけですので」
「じゃあここで死んでください」
僕の言葉に驚いた雪菜さんが止めに入ろうとしたがそれを簡単に避け松川先輩の首を掴む。もちろん力を一切込めずにただ掴むだけで止めている。僕の行動を分かってくれたのか何の抵抗もせずにただされるがままになってくれている松川先輩。雪菜さんは僕の身体に攻撃をしてくるが一切やめる気はない。地味に痛いので加減をしてくれるとありがたいんですが今は我慢だな。獲物が掛かるをの待つ。
1分程が経ったくらいに松川先輩の顔色が青白くなってきた。僕はギョッとしたが息を限界まで止めてくれているのだと分かったので心の中で感謝をすると同時くらいに月美さんが天井から僕目掛けて襲い掛かってくるので取り押さえた。雪菜さんは何が起こったか分からずに固まっていた。しかも鉄パイプをどこからか持ってきたのを構えたまま。もう少し遅れていたら危なかったことに冷や汗をかいた。
「・・・騙したんですね」
「騙したとは心外ですね。罠を仕掛けていただけなので」
「芝谷様、本当の事をお話ください」
月美さんは悔しそうに下唇を嚙みながら「直接お聞きください」と言って強くない拘束を抜けて逃げた。竜樹のところへ行ったんだろうから僕は松川先輩に言って竜樹がいるであろう場所に連れて行く。雪菜さんも一緒について来てくれるので助かる。竜樹と松川先輩の二人だけで話してもらうことにしているので暇になる。