エピローグ
「はあ、今日も○○ちゃん(最近は待ってるグラドルの名前)かわいいよ…。今からでも住所特定して君に会ってこの抑えきれない愛を君の下のお口に告白したいよ!!」
そういって自身のモニターに至近距離で叫び、自分の陰部を「ぽっ」と一撫でしてする男。真っ暗な暗闇の中で唯一光源となっているのは彼の生きる希望であるパソコンのモニターである。
「今からでも遅くないよな?○○ちゃんの彼氏に立候補しちゃおうかな?でもそうなってくると結婚式あげなくちゃいけないし、いろいろ手間がかかるよな?親戚呼ぶときになったらどうしようか」
そういって自分の股間をもう一度一撫で。机の上からいそいそとティッシュを探す。
そのとき、下の階から猛烈な怒声が耳に響いてきた。続いて、女のすすり泣くような鳴き声。
「またもめてんのか」
さっきの調子とは打って変わって、椅子に体重を預け、アイドルのポスターが張られた天井を見上げる。
もめごとの原因は十中八九、俺のことだろう。皆さんお気づきの通りおれは絶賛ニート中である。暦で言うと高校の中頃から今までなので恐らく二十年になるだろうか。こんな俺のことを読者の方々は馬鹿みたいだというかもしれない。しかし、俺だってこうなりたくてなったわけじゃない。
中学生頃まではまだ順調だった。隣に住んでいる女の幼馴染にも、そしてその兄ににも優しくしてもらって毎日の幸せをかみしめていた。幼馴染は自分で言うのもなんだが、結構かわいいほうで回りの男子からはうらやましがられてたりしていた。兄は俺のことを本物の兄弟にように接してくれて、とても気さくな、俺にとってもいい兄だった。親のことは当時から好ましく思ってなかったが、それでも困ったことは友人や彼女らに頼って解決してきた。しかし、俺はその時、そんな日々がなんも苦労もなしに得られるものだと信じきってしまっていた。
歯車が狂い始めたのは確か高校に入学する一年前、中学二年に上がったころだったと思う。俺はいわゆる絶賛「反抗期」に突入し始める。今まで優しく接してくれていた親、友達、そし幼馴染の兄まで疎ましく思うようになった。意味もなく親しい人を卑下し、馬鹿にし、傷つける毎日。親に勉強をやれと言われていたが、苦労なことはしたくなかったし親の言うことに従順に従うことも不服だった。次第に俺は周りから孤立していった。
「あいつ、最近めんどくさくなったよな。」「もとから調子乗ってたくない?少なくとも私は無理だったけどw」
自分の背中に突き刺さるまるで刃物のような痛烈な言葉。俺は何も言い返せず、一人で寝たふりをするしかなかった。
一人で歩く帰り道、たまたま目の前に幼馴染がいた。以前と変わらないかわいらしさで自分の前を歩いている一輪の花。もう一度そのひまわりのような笑顔を見たいと思い、俺は走って彼女の肩に手を置く。驚いて振り返る彼女。
「今まであんなに醜いことをしてきたが、今日であんなのはやめよう。意識の問題で変わる問題ではないかもしれないが、これからはまっとうに生きていこう」自分の心に誓う。
しかし、彼女は俺のことを見た瞬間、叫び声をあげながら猛ダッシュで遠くかなたへ行ってしまった。
気が付いた時には彼女はそこにいなかった。
自分は心の中でとてつもない勘違いをしていた、と今更ながらに理解した。
恋心を抱いている彼女だけは、もしかしたら自分のことを理解してくれていて、味方であるんじゃないかって。けど、こんなのはただの妄想でしかなかった。当たり前のことだ。危険分子からはできるだけ遠ざかったほうがいいに決まっている。どれだけ親しい関係であったとしても、自分の身を守るためならだれであってもそうするだろう。失った関係はもう元には戻らない、それは生きている中で最初に学んだ人生の教訓だった。
ゆっくりと目を開ける。知らないうちに寝てしまっていたみたいだ。俺もほんとにダメ人間だな、自嘲気に笑う。だが、腹は減るもので。
「ぐー」
自然とポッコリとした自分の腹から音が鳴る。ふと時計を見るともう夜の八時を回っている。普段ならもうとっくに夜ご飯が部屋に届けられている時間である。
「今日は忙しかったのかな」そう楽観視してもう小一時間待ってみることにした。
しかし来ない。なんならもう10時をとうに越している。床ダンだって何度もした。一言文句を言ってやろうとリビングへと向かう。階段がキシキシと音を奏でる。階段をやっとの思いで降りるとそこには想像もしていない光景が広がっていた。いやそれは一部分だけだったが十分にショッキングな現場だった。
生活感のあふれるリビングとは裏腹に、床は大量の血で一面染まっており、鼻をつんと突くような異臭が立ち込めている。その真ん中に刺し互えて死んでいる両親二人の姿があった。
俺はあまりの光景に思わず逃げ出す。
どうして俺の両親が死んでるんだ?さっきまでいつも通りけんかしていただけじゃないか!俺を置いてこれからの生活をどうしてくれるっていうんだ。
湧き上がる焦りと怒り。無我夢中になって暗い夜道を走り抜ける。だから俺は気が付かなかったんだ。自分が信号を無視しているってことに。気が付いたらもう自分の体は変な音を立てた後、とてつもない衝撃が全身を包み込んでいて。まるで内側から自分が焼かれているような熱さにいっそ早く死んでしまったほうが楽なのではと思ってしまう。だんだんと意識が薄れてくる。さっきまであった手の痛みはもう感じられなくなってしまった。
「ああ、俺死ぬんだ。」と思うと身が軽くなるのを感じた。
消えていく意識の中で俺は思う。いつだって気が付いた時には何もかも手遅れで。俺は何も考えずに突っ走ってしまう大馬鹿だ。だけど。もし、もし自分に次の人生があるとすれば。その時は神様に感謝の土下座をしながら真っ当に生きるのに。
そうやって俺、篠崎真の人生は終了した。
読んでいただきありがとうございます。気分次第で事変を出そうと思うので首を長くしてお待ちしやがれです。感想、アドバイス等書いていただけると、幸いです




