警察車両 乗用車内 2
「僕もいきなり ”犯人はおまえだ“ なんて言って指さして、名誉毀損で訴えられたくないからね。裏づけに時間かけてよかった」
告は、手羽元をかじった。
「うちの優秀で言葉キツくてドSのメイドさんが、 “JUGI” と書くのに使ったデミグラスソースの色が、二種類あると言ったんだ」
「二種類……」
八十島がタコさんウインナーを手でつまんでかじる。
タブレットをスクロールして殺害の現場写真を何枚か表示させた。
まじまじと見つめてから眉をよせる。
「……おなじくね?」
「彼女の目には色の違いがはっきり認識できてるらしい」
告は言った。
「四色型色覚ってのがあって、ふつうの人が判別できる色は百万通りくらいだけど、このタイプの人は一億通りの色が見分けられるんだってさ」
八十島が眉根をよせ現場の写真をじっと見る。
「紫外線光を感知できる錐体細胞を持ってるとか何とか。そんなにめずらしいわけでもなくて、女性の二、三パーセントから十パーセント、五十パーセントは持ってるなんて説もある」
「そのメイドがそれか?」
八十島が問う。
「たぶん。彼女、新鮮な食材を見分けるのがものすごく得意なんだよね。食材の微妙な変色具合を見分けるかららしいんだけど」
告は言った。
「むかしの業務日誌を見返したところ、彼女のお母さまもお婆さまもそうだったらしくて」
八十島があらためてタブレット画面を凝視する。
しばらくして、さらにきつく眉をよせた。
「……分かんね。やっぱおなじ色」
「どう色が違うのか聞いたら、UとIの色は濃くてJとGは飴色がかって端が山吹色だとか」
「つまり?」
「この画像の写真が撮られた時点で、JとGはUとIほど乾いていない。つまりあとに書かれたんじゃないかなって」
八十島が軽く目を見開く。
「被害者が書いたのは、UとIのみって推測できる。ここは素直にイニシャルと考えていいかと思うけど」
「……そこは英語かローマ字読みでいいのか?」
八十島が眉をよせる。
「そこは調べたらイタリア語もおなじだった」
告は答えた。
「U、I。ウルバーノ・一色」
八十島がフロントガラスの向こうのライトアップされた桜を見つめる。
ややしてから、思い出したようにスマホをとりだした。
「もちろん、これで確定するほど軽率なつもりはないよ。被害者の家でパーティするために集まった人間一人一人に会って、できるかぎりの裏取りはした」
告は手羽元をかじった。
「さりげなく仕事時間や出勤日なんかを聞いたら、ウルバーノ・一色氏だけ当日の到着時間と大きくズレてた。たまたまかもしれないけど、被害者のご自宅広いし事件発生時にどこかに隠れて到着時間をごまかしてたとも考えられる」
八十島がスマホを手にこちらを見る。
「あ。手羽元、食べる?」
告は手羽元の入ったランチボックスを八十島に差しだした。
「ああ」
八十島が返事をする。手羽元を手にしてかじった。
「会ったときに全員の肩をたたいてみたけど、ウルバーノ氏だけいい筋肉してるね。DNA的なのもあるだろうけど、あれなら一突きで致命傷負わせられそう」
告は八十島が持ったランチボックスに手をのばし、サンドイッチを三枚ほどとった。
「いずれにしてもイタリア語にくわしいと思われるこの工作は、お母上がイタリア人の彼がいちばんやれそうだと思う」
告は、トマトのサンドイッチとタマゴサンドをいちどに口にした。
「以上だよ。あと物的証拠と動機はそっちの仕事だから、そっちがやって。犯人確定につながったら遺族への連絡よろしく」