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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【1】ローマにいるときはローマ人がするようにしたらよろしいが、ここは日本なんですが
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朝石キリスト教会 イングリッシュ工房 2

 朝石キリスト教会、イングリッシュ工房。

 夕方まだ早い時間帯なので受講者はまだあまりいない。

 (つげる)は駐車場に車を停めると、殺風景な玄関から入った。

 たまたま教会の仕事を終えて受講しに来たらしい多香乃(たかの)と遭遇する。


「多香乃さん、ぐうぜん」

「……ぜったい偶然じゃないでしょう」


 多香乃が眉間にしわをよせる。

「英会話は上達した?」

「数日で上達するくらいなら、だれも苦労しません」

 多香乃が靴をぬぎ下駄箱の上部にあるスリッパをとる。

「英語ってさりげに読みが不規則だからね。古英語とか外来語とかがごっちゃなせいらしいけど」

 告はスプリングコートのポケットに手を入れた。


「何なら僕といっしょにイタリア語の勉強する? 読み方ほとんどローマ字読みでラクだよ。アルフベットの数少ないし」


「……でも文法が日本語と違うんですよね?」

 多香乃がイヤそうに目をすがめる。

「文法が似てるのがいいならトルコ語かな。聞き慣れた単語は “メルハバ” くらいだけど」

「……その単語しりません」

 多香乃が眉をよせる。

「ネパール語の “メルハバ” と同じだよ」

「告さん……」

 多香乃が(ひたい)に手をあてる。


「まえは坊ちゃまって呼んでなかったっけ?」

「いちおういまは大海原(わたのはら)家でのつとめは辞めていますので」


「跡継いだんだから、ご主人さまにして」


 告はそう要求した。

 多香乃が無言でため息をつく。

「はじめて長々と話したのが辞めるときでしたので、以前はあまり気づかなかったんですが」

「そのわりに多香乃さんとの会話ってスムーズだよね」

 告は笑いかけた。

「……祖母の代から大海原家とかかわっていましたから、告さんの基本的な人となりはそれなり知っていましたので」

「うん」

「しかし、あなたとこうして長々と会話するようになると、まるで不思議の国のアリスの気違いのお茶会に参加しているようです」

「なるほど」

 告は宙を見上げた。


「ウルバーノ先生はお元気?」


 告は奥の廊下をながめた。

 「聞いちゃいない」と言いたげな様子で多香乃が顔をしかめたが、言うだけムダだと判断したようだ。

「おやすみです」

「今日も?」

「ずっとおやすみみたいですよ。ほんとうは先週あたりにイタリアへ帰るつもりだったらしいですけど、飛行機のチケットがとれなかったって。べつの先生から聞いたんですけど」

「ウルバーノ先生って、国籍イタリア?」

 告は問うた。

 「さあ」と多香乃が返す。


「多香乃さん!!」

 

 告は声を上げた。

 おどろいて目を見開く多香乃につめよる。

「おねがいがあるんだけど。多香乃さんにしかできないおねがい」

「な……なんですか!」

 真剣な表情でせまる告に気圧(けお)されたのか、多香乃が後ずさる。



「今日は夕食と朝食とデサートのほかにお弁当も用意して。二人分」



 多香乃が目を見開いて固まる。

 ややしてから無言で顔をゆがめた。




 告は駐車場に戻ると、運転席に座りながらコートのポケットからスマホをとりだした。

 履歴にある番号をタップする。


「やそっち、いま話しできる? ──不同意性交犯を走って追跡中? んじゃそのまま聞いて」


 そう伝えると、わりと激しいいきおいで反論が返ってきた。

「んじゃ待ってるけど、いまどのへん走ってんの。協力できるけど。──感謝状いらない。金一封は出る?」

 追跡しているあたりを聞きながら、カーナビに地図を表示させる。

「片吉から河岸西にむけて生活道路を逃走中。──了解」

 告は車のエンジンをかけた。

 ギアをドライブに入れて発進させる。

 広めの生活道路を五分ほど走らせると、向こうからポロシャツを着た中年の男が走ってきた。

 うしろからは標準体型のスーツの若い男。

 告は車から降り、トランクを開けた。中からガンケースをとりだすと、ファスナーを開けてクレー射撃用のライフルを出す。


 走ってくるポロシャツの男に向けてライフルをかまえた。

 男が目をむいて立ち止まる。


「ごめんなさい。クレー射撃の練習してたんで」


 告は笑いかけた。

 うしろから追いついたスーツの男が、ポロシャツの男に体当りして脚をかけ、地面に押し倒す。そのままおさえこんだ。

「じゅ、銃刀法違反!」

 ポロシャツの男がさけぶ。

「ちゃんと所持許可もらってますよ」

 告はそう返して笑いかけた。そそくさとライフルをガンケースにしまう。

「所持許可あってもヤバい行為なんだけど。まあこのさい黙ってるけど」

 スーツの男が、おさえこんだ男に手錠をかける。

 八十島 漕太(やそしま そうた)。所轄の警察署の刑事で、今回のダイイングメッセージの件を教えてくれた友人だ。


「こっちも緊急かもしれない事態を知らせに来たんだけど」


 告はそう応じた。

「あの懸賞金のやつ分かったとか?」

 八十島(やそしま)が男を立たせて前方に歩くよう促す。


「分かった。関係者を全員集めてくれる?」





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