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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【6】太陽は夜を知らず月は昼を知らず、恋人はだれが死神かを知らない

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レジデンスろくはら 2

 八十島(やそしま)が寒気を覚えたように自身の片腕をさする。

「……怪談話しに来てんの? おまえ」

「この話はまあ怪談話だけど、手口としては生きてる人間同士でも使えるものだよね。バルコニーに何か細工して “あれなに?” とやるか。ああ――何もなくても同じ手は使えるか」

 八十島がもういちど六階の窓を見上げた。


「バルコニーの下って調べてる?」


 (つげる)は問うた。

「たぶん鑑識が軽く見下ろすくらいのことはしてる思うんだけどな……」

「落ちたの夜だっけ? やそっち提供の資料に午後七時ってあった気が」

 時間帯はそろそろ夕方だ。

 家族世帯の多いマンションならガヤガヤしてくるころなのだろうが、独身世帯が多いマンションのせいかまだまだ静かだ。

「こういう独身世帯が多いところだと、いちばん人通りが多いのは七時ごろかな。――人通りがいちばん多いころに突き落としてるんだ、犯人」

「おう」

 八十島が駐車場やその周辺を行き交う人々をながめる。

「それでまだ犯人特定できないなんて……」

 告は非難の言葉を向けた。

 自身の軽自動車の車体に手をつき、嘆いている芝居を加えてみる。

「五人まで絞ってんだろうが。大勢いる被害者の関係者と同僚からここまで絞ったあとに参入してきたやつがぶっこいてんじゃねえ」

「一人はおそらく外れるから、四人に絞られたね」

 告は言った。

 「お、おう」と八十島が返して、もういちど六階を見上げる。


「バルコニーの下に細工かたづけた跡っぽいものがあったか聞いてみるわ」

「それと、恋人の六田 佳奈(ろくた かな)さんの周辺ちょっと調べてもらえるかな。たとえばストーカーなんて話があったかどうかとか」


「ストーカー?」

 八十島がこちらを向いた。

「だれに。被害者に?」

「被害者の恋人の佳奈(かな)さんに」

 告はスプリングコートのポケットに手を入れた。

「んな話、事情聴取にあった覚えないけど。んな話あったら、真っ先に警察に言うだろ」

 オーソドックスな機械音の着信音が鳴った。八十島が眉をひそめながらスーツのポケットに手を入れる。

「言わないパターンもあると思うんだ」 


「──あっ、すぐ戻ります。えと、いまですか?」


 スマホを耳にあてながら、八十島がふたたびマンションの建物を見上げる。

「──えと、現場」

「ほかの人担当のね」

 告は小声で付け加えた。

 八十島が、シッシッというふうに手を振る。

「聞き込みはだいたい──はい、戻りますっ」

「きょうこそバディの方にごあいさつを」

 告がスマホに手をのばすと、八十島が通話しながら背中を向けて避けた。

 

「いったん戻れってさ。戻るわ」


 そう言い、八十島がスマホをポケットにしまう。

「やそっちのバディさんてさあ、僕のこと嫌ってる? 巧妙に避けられてる気がするけど」

「ふつうに関心ない」

 警察車両の運転席ドアを開けると、八十島は乗りこんだ。


「まあ、このまえの “二階の女” については知ってた感じだったけど」


「あれけっきょく告訴しなかったの、刑事課の人たち何か言ってた?」

「何も。盛り上がってたから、あーそうなんだ、くらいの空気はあったけど。事件化されると書類作成とかめんどくせぇってのもあるし。非親告罪なんてそういうのちょくちょくだし」

 「じゃな」とつづけて、ドアを閉める。

 ややして八十島は車を発車させた。





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