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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【6】太陽は夜を知らず月は昼を知らず、恋人はだれが死神かを知らない

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大海原家執務室 4

「うーん」

 午前九時半。

 会社のオンライン会議を終え、(つげる)はきのう多香乃が買ってきたタロットカードを執務机にならべた。

 多香乃の好みでいいと伝えて彼女が買ってきたものは、ビビットカラーの背景に異次元的なキャラクターが舌を出したり独特の笑みを浮かべている何ともシュールなイラストのもので、やはりおもしろい人だと告は思った。


 考えてみれば、好きな花をクロバナタシロイモと答えた人なのだ。


 あの好みからすれば、なるほどタロットカードのデザインの好みが、現実からかけ離れた異次元キャラクターのデザインというのはしっくりくる。


 執務室のドアがノックされる。

八十島(やそしま)刑事がお見えです」

 多香乃の声だ。

「どうぞ。通して」

 告は答えた。

 ドアが開く。多香乃が八十島を執務室内にうながした。

「多香乃さん、このカードのデザインいいね」

「お気に召していただいてよかったです。紅茶をお持ちしますので」

 多香乃が一礼する。静かにドアを閉めた。

 八十島がせっかちな歩きかたで執務机に歩みよる。

 上体をかがめて並べられたタロットカードを見た。


「なにこれ」


 思いきり顔をしかめる。

「多香乃さんおすすめのタロットカード。好きなデザイン買ってきてと言ったらこれを選んでくれた」

「……嫌がらせとはちがうの?」

「嫌がらせにこういうデザインよこす人なら、ますます退屈しなくて楽しいと思うんだけど」

 告は執務机の上のタロットカードを手元でまとめた。

「まじめにこれがかわいいと思ってよこしたなら、楽しい人度九十八パーセント、嫌がらせでこれをよこす人なら楽しい人度九十九パーセント」


「……おまえのその人選びの基準だと、俺はどういう位置づけなわけ」

 

「やそっち大好き」

 告は手元のタロットカードをシャッフルした。

 八十島が嫌そうに顔をしかめる。

 このまえ貴重な理解者だと言ったのになと告は内心で思った。

 本人はそんなつもりはないからちゃんと聞いていなかったんだろうが。

「大好きなやそっちのお仕事を占ってあげる」

「いらね」

 八十島が上着のポケットに手を入れて顔をしかめる。

 告はシャッフルした大アルカナ二十二枚を差し出した。


「一枚引いて」


 八十島がとまどった顔をする。

「ふつうタロットカードって何枚か並べね?」

「ワンオラクルって方法だよ。ちゃんとタロットの本にもある」

 八十島が怪訝(けげん)そうな顔で一枚を引く。

 告はそのカードを受けとった。牛のような異次元の怪物がニタリと笑うまえで、これまたニタニタと笑った四つん這いの二人の人型生物。

「へえ、悪魔」

「追ってる犯人は、悪魔みたいなやつですってか?」

 八十島が苦笑いする。


「だよねぇ。タロットカード知らない人はそう解釈するよねえ」


 告は答えた。

「んだそれ」

 八十島がやや不快そうに返した。

「知らない人はたいてい、死神のカードが死で恋人のカードは単純に恋人をあらわすと思いこむ」

「ちがうのか」

 八十島がそう問いながら、「ん?」と声を漏らして眉をよせる。



「気づいた? だから現場にあった恋人のカードだけ、違うセットのものなんだね」



 告は悪魔のカードをひらひらと手元で振った。

「ああ……それ言いに来たんだ。おまえが確認したがってたほかのカードのセットって、クローゼットの引き出しにあったらしい」

「鍵はついてないとこ?」

「たぶんついてない」

 八十島が答える。

「それ確認したかったんだ」

 告は言った。

「指紋はなかったけどな」

「そんなものは拭きとれるし、手袋かけてたかもしれないし。警察には必要なことかもしれないけど、僕にはそこが鍵つきか鍵つきでないかが問題だから」

 八十島が、じっと悪魔のカードを見る。


「え……待て。もしかして一人は容疑者から外れる?」


 八十島が目を見開く。

「まあ犯人は逃げないからゆっくりやろうよ。やそっちのワンオラクル占いの結果」

「いや、犯人は逃げるだろ」

 八十島が顔をしかめる。

 

「悪魔が表すものは、“誘惑”」


 告は悪魔のカードを顔の横にかかげた。

「誘惑……」

 八十島が神妙な顔で異次元的なデザインのカードを見つめる。

「……まあ、たいていの犯人が誘惑に負けて犯罪に堕ちるってののはいえてるけどな」

「ところでこの悪魔のカードって、“病気” という意味もあって」

 告はカードの絵を自分のほうに向けた。

 八十島が眉をひそめる。


「犯人は、誘惑に負けたわけではなく、もともと精神を患っていた、もしくは体調のいちじるしい不調でしかたのない犯行だったという解釈もできる」


「あ゙?」

 八十島が顔をゆがめた。

「さらに言うと、じつは悪魔のカードには “オカルト” という意味もあって、もはや霊的存在にとりつかれて行った、現代社会では心神喪失で不起訴にでもするしかない犯行という解釈もできたりする」

「ぜんっぜん違うじゃねえか」

 八十島がきつく顔をしかめる。

「大アルカナだけで占うと、枚数が少ない分解釈が難しいんだよ。さらに一枚だけで解釈するワンオラクルだともっと難しい。――それを正しく解釈できるかどうかが占い師の腕にかかってくるわけだけど」

 八十島が、天井をあおいでため息をついた。

「ちなみに塔のカードも説によっては “病院” って意味があってさ」

「もういい」

 八十島が(ひたい)に手をあてた。





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