大海原家執務室 2
「事件当時、参考人として警察が話を聞いたのは被害者の恋人の六田 佳奈さん、同僚の角田 陽介さん、おなじく同僚の伊東 紗月さん、六田 亮さん、おなじく同僚の久留間 未来さん」
告は友人の刑事、八十島が提供してくれた資料を読み上げた。
「六田がお二人いるんですか? ご兄妹かなにか」
多香乃がタブレット画面を見つめる。
「やそっちに聞いたらまったく血縁関係はないって。わりと大きな企業らしいから、ほんとに偶然らしいんだけど」
「よくあるお名前のようなそうではないような……」
多香乃がかがめていた上体を起こす。
「まあ、そんなものなんですかね」
「気づいたことがあったら言って。多香乃さん」
「とくにありません」
多香乃が真顔で言う。
「あ、そなんだ」
告はタブレット画面を自身のほうに向け、あらためてタロットカードの画像を見た。
「犯人は恋人のかたでは?」
多香乃が言う。
「そのこころは」
「恋人のカードだけが微妙に色がちがいます」
告は軽く目を見開いた。
内心、キタ━━とうきうきするが、表情には出さず平静を保つ。
「どんなふうに違うの?」
告はもういちどタブレット画面を多香乃に向けた。
「見れば分かるじゃありませんか」
多香乃が眉をよせる。
「きみの口から聞きたいんだ」
あらたまった口調でそう返すと、多香乃がますます不愉快そうに眉をよせた。
口説いてるみたいな言い方は好きじゃないのか。
おもしろい冗談と受けとってケラケラ笑ってくれる女性もけっこういるんだけどなと内心で思う。
「どんなふうに違うの? 多香乃さん」
「……絵が色落ちしています。それと、余白部分がすこし黄ばんでいます」
多香乃が、こんなあたりまえのことをと言いたげな顔で言う。
告は自身のほうにタブレット画面を向け、あらためてタロットカードを見た。
拡大してみるが、自身には色の違いはまったく分からない。
「なるほど。ありがとう多香乃さん」
告はカードの画像をあちこち拡大して見つめた。
「タロットカードなんて、一枚でいろいろな意味があるそうですよ。そんな曖昧なものでなにか伝えてくる人がじっさいいますかね」
多香乃が執務室の出入口へと向かう。
ドアのまえで一礼した。
「多香乃さんのおかげでスッキリした、ありがとう。助手として特別ボーナス会計しておくね」
「なにもしていません。いりません」
「失礼します」とつづけて多香乃が退室した。
「──あ、やそっち」
執務机に頬杖をつきながら、告は友人の刑事の八十島に電話をかけた。
「いま聞き込み中? どこにいるの」
八十島からは、市内の繁華街の地名が返ってきた。
「そこ、うちであたらしく傘下にしたドラッグストアさんがあるからさあ。よろしく伝えておいて」
「なに伝えんだよ」と八十島のあきれたような言葉が返ってきた。
「──なに? 資料で不明点あった? 言っとくけど民間には言えないこともあるからな。どうしても困るんならそこは独自で調べろとしか」
「被害者さんは、ふだんどこにタロットカードをしまってた? これは言える?」
告は執務イスにキッと背中をあずけた。
「ああ──それなら」
八十島が答えた。軽くガタガタと音がする。
資料をさがしているようだ。
「──のこりのカードは、PCデスクの鍵つきの引き出しの中にあった。何つうか、ちゃんとカードのパッケージの中に入って」
「なるほど」
告はうなずいた。
「のこりのカードは鑑識さん確認した?」
「──どうかな」
八十島が声音を落とす。さらに資料をさがしているようだ。
「確認してよ。これだからやそっちは」
「──俺は鑑識係じゃねえ」
八十島が不快そうに返す。
「ああ、あった。一枚ずつ指紋とったらしいから、その記録に──箱にのこってたのは、えーと愚者、魔術師、女教皇、女帝、皇帝、法王、恋人、戦車……」
告は小さくうなずいた。
「律儀に番号どおり報告書に書いたんだ、鑑識さん」
「──ん? 番号なんてあんのか?」
八十島が不可解そうに問う。
「鑑識係員さんのなかに密かにタロットカードガチ勢がいるとみた」
「──べつに密かにやらんでもいいと思うけどな」
八十島が返す。
「のこりのカードには被害者以外の指紋はなし?」
「なし。──PCのうしろに並べられてたやつもな」
八十島が答えた。




