警察署一階 被害者用の事情聴取室 2
「まずあのくっそ甘々な暗号文。あれ解き方なに」
八十島がタブレットをスクロールしながら尋ねる。
「サイバー課の子に聞いたんじゃなかったの?」
「答え聞いただけ。早口でかいつまんで説明してくれたけど、こっちは場所が分かりしだい出動する準備してたからそれどこじゃなかった。――ダイレクトに場所指定のメッセージだったし」
「ごくろうさまです」
告は微笑した。
八十島が小さく「けっ」と返す。
「答えが “カステロエスペランサ、鏡” ってのは分かった」
八十島が言う。
「 “鏡” の意味は分からんまま急行したけど、現場ついたら高層の部屋の窓から鏡に反射させたようなのが見えたから、あああれのことかって」
「鏡を使おうと思ってたんだけど貸してもらえなかったから、とっさに紅茶のカップ使ったんだけどね」
告は苦笑した。
「晴れた昼間でよかった。こんどからは夜だった場合にそなえてペンライトを常備しておくよ」
告はそうとつづけてクスクスと笑った。
「サイバー課の子がよこした返信は、“了解、五分後につく” 。それで合ってる?」
「その文言は刑事課で指定した。その答えで作成してくれって」
「おみごとな子だね。こんど会わせて」
告は微笑した。
「探偵業にスカウト……」
「せっかく公務員やってんだから変な勧誘すんな」
八十島が眉をひそめる。
「誘拐監禁されてるその場であんなん作成してるやつのほうが怖えわ。主犯が女の子とはいえ」
「余裕はなかったよ。大男が見張ってて首を折らせますわよとか言われるし」
告は肩をすくめた。
「だからラブレターにした。感情的な内容のほうが頭がクリアじゃなくても書けるからね。意味がよく分からない部分があっても、二人のあいだだけで通じるんだろうと解釈されやすいし」
「ただ……」と告はつづけた。
「あちらが僕と多香乃さんのふだんの様子を調べてたらしくて、ほんとうは恋人同士なんだって話を納得させるのちょっと難儀した」
告はため息をついた。
「やっぱり、やそっちとBL関係のほう選択しなくてよかったよ」
「そこはやめとけ、まじで」
八十島が顔をしかめる。
「あれ、解き方はめちゃくちゃかんたんなんだよね。まず各行に数字が必ず入ってるから、その数字の順番に行をならべ替えればいい」
「数字?」
八十島がタブレットを二、三度タップする。
告が送った文章と、サイバー課の後輩が返信した文章とを表示させた。
「残してたんだ。説明しやすい」
告はからだを乗りだして画面をのぞいた。
「まあ資料としてな」
八十島が答える。画面をゆっくりとスクロールした。
「漢数字とアラビア数字があるけど……?」
「そこは関係ない。何ならインド数字が混じっててもおなじ。順番にならべればいい」
「インド数字とか知らねえんだけど」
八十島が眉をよせる。
「アラブでよく使われてる」
「当のインドはアラビア数字使ってんのにかよ? ややこしい情報ぶっこむな」
八十島が語気を強める。
「僕の書いた文章で説明すると、まず “さかの上から一生懸命手を振ってたきみが好きだよ” 。これを一行目に持ってきて」
八十島が、まず全体をコピペしてから指定された行をコピペで動かす。
「 “坂” が漢字じゃなくてひらがななのは意味あんのか?」
「ある。このあたりでバレないかってヒヤヒヤした」
告はそう答えた。
「つぎ。“ますますきみが愛おしい。2番めなんて本当は言いたくない”。これが二行め」
告はタブレット画面を指さした。
「監禁されてる場で、ようもこんな文章書けんな」
八十島が眉をよせる。
「三行め。“後手後手になって情けない。再三言ってるけど健康には気をつけて” 」
八十島が指示された行をコピペして移動させる。
「四行め。“しろ地に四つ葉のクローバーの柄がきみにはよく似合っていた” 」
「えっと、どれだ。白地……」
八十島が該当の行をさがす。
「これも “白” がひらがななのは意味あるか」
「あるある。怪しまれたら、緊張でキーボードがちゃんと打てないことにしようと思った」
告はうなずいた。
「やっぱ余裕じゃねえか……」
八十島が小声でつぶやく。
「五行めは、“和えものはきみの料理の中で5本の指に入るおいしさだと思う” 」
「和えもの……」
八十島が人さし指を上下に動かす。
「そういう感じで、六、七、八って、十三行まで」
「六……七……八」
八十島がコピペで行を入れ替えていく。
ややしてから十三行すべてを入れ替え終えた。
できあがった文章をながめる。
表示されているのは、ただの言いたい順番がごちゃごちゃになったラブレターだ。
「どこに “カステロエスペランサ” が出てくんだよ?」
八十島が不審げな表情をこちらに向けた。




