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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【5】いつでもお電話ください。二階の女が気にかかる

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42/80

大海原家台所 2

 平均よりかなりな長身。

 黒っぽい皮ジャンと黒いスラックスのうえからでも分かる非常に筋肉質な体躯。

 ゴツゴツと頬骨(ほおぼね)の目立つ顔立ちに、小さいが冷徹そうな目。

 年齢は三十歳前後。

 顔の横、こめかみに近いあたりに大きなホクロ。

 

 男は、ゆっくりとドアを開け(つげる)に近づいた。

 

 「不法侵入」などと伝えたところで、たぶんムダだ。

 分かってやっているのだろう。

 ウサギを追いかけていたらうっかりこの屋敷に迷いこみ出口をさがしておりましたとか言われたら、大海原(わたのはら)家のコネでお笑い事務所を紹介して差し上げてもいいが。


「どちらさま?」


 告は苦笑いして問うた。

 フローリングの床をジリジリと後ずさる。

 いまのところ、ほかに不審な人物の気配はない。

 たぶん単独だ。

 だからといって、この体格差で抵抗するかどうかはかなり迷うが。



「大海原家の跡継ぎだな?」


 

 男が問う。

「隠居した先代に代わって先日継いだ大海原 告(わたのはら つげる)

その通り(ジュスト)

 告は男にピースした手を向けた。


 男がこちらに手をのばす。

 告は後ずさり避けた。

 

 男がテーブルに手をつき、フローリングの床の上をこちらに踏みだす。

 ガタガタッと音を立てて告はふたたび後ずさった。

 チラリと壁のほうを見る。

 あと五、六歩ほどあとずさったら壁ぎわで逃げ場をなくす。

 それまでに体力が尽きてくれるわけもない。

 

 スポーツといえば熱心にやっていたのはクレー射撃くらいで、護身術はあまりまじめには学んでいなかった。


 なんとなく泥臭い感じが嫌いというか。

 

「何とも……いまどき財閥の跡取りだからといってそうそう危険な目に会うとは思っていなかったからなあ」


 告は、ハハッと笑った。

 男が無言で見すえる。

 

「雑談はしないタイプ?」


 そう問うたが、男が何も返さず手をのばす。

 ふたたび後ずさり避けたが、ガタンッと大きな音が立った。

 さきほど多香乃(たかの)がいた冷蔵庫室とは、台所からみてどのへんの位置の部屋だったか。

 こんな音を立てていたら、気づいて様子を見に来ないか。

 銃のたぐいを持っていれば彼女はたのもしいが、さすがにこんな屈強の男と素手の対決はムリだ。


「ちょ、ちょっと待って。すぐ近くの部屋にうちの従業員さんがいるからさ」


 男が大きく腕をふりかぶり告の部屋着の(えり)をつかんだ。

「んぅ」

 首がいきおいよく引っ張られ、おかしな声が出る。

 「人が近くにいる」というのを、牽制(けんせい)のセリフと解釈したのか。

 そうじゃないのに。

 こちらとしては、わざわざ多香乃(たかの)を呼びよせて危険に巻きこみたくはないという意図だ。

「いや……人が来たらあなたもおイヤでしょ?」

 告は男に苦笑いを向けた。

 男がつめたい目で見下ろす。 

 心配してやってるのにな。他人の親切は素直に聞くもんだと脳内でさとす。



「んで、だれのご依頼でこんなことをしてるの」



 告は問うた。

 どう考えてもゴリラに知能をあたえたような人物に心当たりがない。

 これまで解決のきっかけを提示してきた数件の事件の関係者だろうかと思ったが、それなら友人の八十島(やそしま)を襲うべきだろう。

「なんなら、所轄の署の刑事課の連絡先教えるけど……」

 グググッと(えり)を持ち上げられる。


 息が詰まって、うめき声も出せない。


「あのさ……ぐッ」

 鳩尾(みぞおち)のあたりに、はげしい勢いで固いものが突進した。

 腹部がはげしい痛みをうったえる。

 呼吸するわずかな腹筋の動きでも痛みが増すので、息を止めているしかない。

 まさか腹部をなぐり気を失わせて運ぶとか、昭和のアニメみたいなことをじっさいにやられる日がくるとは思わなかった。


「ぐ……」


 うめき声が出るだけでも、腹筋が動いて痛みが増す。

 そのまま目の前が暗くなった。






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