大海原家執務室 奥の書庫
大海原家の執務室。
その奥にある書庫で、告はむかしの記録を記した冊子と埃に囲まれていた。
十畳の部屋三つ分ほどと中二階がプラスされたスペースだが、おそらくここ数十年ほどだれも入っていない。
執務室とここのあいだにある短い廊下にはびっしりとクモの巣がかかり、一角には学校の教室の古い机と椅子が積み上げられている意味不明なエリアまである。
中二階に続く短い階段に座り、告は手近な冊子を開いた。
カタカナの多いむかしの表記の冊子に妙なノスタルジーを感じる。
ふいにかたわらに置いたスマホの着信音が鳴った。
うっかり着信音をSFチックな機械音にしていた。
こういうところに長時間いるなら和風ホラーっぽい音がよかったなと思いながら着信の画面を見る。
八十島だ。
「──はい」
告はスマホを耳にあて通話に応じた。
「俺──四伊 竜輝名義の懸賞金の振り込みあった? 弁護士に頼んで手続きしてもらったって言ってたそうだけど」
「あったよ。さっき確認した」
「ならよかったけどさ。──何かスッキリしないけど」
八十島が言う。
「──それだけ。んじゃ」
「あ、待ってやそっち。退屈だから話し相手になってくれない?」
告は言った。
「──財産管理と探偵業の兼業ってそんなに退屈かあ?!」
「いまちょっとむかしの資料調べててさ」
告は答えた。
「資料調べるって、目と手だけあったらできるじゃん。口と耳をもて余すんだよね」
八十島がしばらく沈黙する。
「──脳はどう使ってんだよ」
「脳は使ってるエリアがかぶらないから大丈夫」
告は答えた。
むかしから思っているが、ほかの人はこういう脳の使い方はしないのだろうか。
「祖父と父への伝言書いた古いメモが出てきてさ。おなじことを書いたものが何十枚もあった」
「──俺、これから聞き込みなんだけど」
「んじゃそのまま聞いて」
そう告が返すと、はげしい勢いで抗議する声が通話口から聞こえてきた。
「 "いつでもお電話ください。二階の女が気にかかる” 」
告は古いメモを読み上げた。
「こんなのが何十枚も。ありがたいねえ」
「女? ──何が気にかかってたんだ。だれが書いたメモ?」
八十島が不可解そうに返す。
「──ともかく聞きこみ行くから。じゃ」
通話が切れる。
告は見ていた冊子をあらためてめくった。
「これが分かんないとか。警察官なのにピンと来ないのかな」
告は独りごちた。
中二階へと続く階段に沿うようにしてならぶ書庫をながめる。
まえまえから調べたかったことにようやく手をつけたが、まだまだかかりそうだ。
スマホを手にとり、デジタル時計の表示を見る。
あと二十分で三時。
多香乃が作リ置きしてくれた今日の三時のデザートは、みたらし団子だ。
「デザートの時間の用意しよ」
告は、そうつぶやいて立ち上がった。
終




