警察署一階 被害者用の事情聴取室 3
「まあ、鑑識からいろいろ上がってくれば四伊 竜輝が犯人って裏づけとれるだろうけど」
八十島が言う。
あらためてタブレットを手にした。
電子調書でも作成するのかと告は思っていたが、タブレットやスマホで下書きしてボールペンで紙に清書するとのことだ。
一部の弁護士からは、電子で書いてそのまま送信できるようにしてくれとの声が上がっているそうだが、いまだこの方法なのだとか。
「もいっかい読むぞ。――発生は十六時三十二分ごろ。被害者、大海原 告。職業、探偵業」
「おっけ」
告はうなずいた。
「朝石市片吉のラ・フルール店舗まえの歩道において、サービス業の四伊 詩織こと、本名、四伊 竜輝に大声でつめよられ――」
「サービス業なんだ」
「さっき抜けてた。駅の西口のゲイバーだってさ」
八十島が答える。
「へーそういうところあったんだ。こんどそちらに語学習いに行ってみようかな」
「……おまえってああいう店、どういうふうに認識してんの?」
八十島が頬杖をつく。
「コンパニオンさんと女装子さんが混在してるお店なら行ったことあるんだけどね。サンディさんていうアメリカ人の女装子さんがいて」
「……英語習ったのか」
八十島がタブレットをタップする。
「そのときはマレーシア語。むかしそっち住んでて、シンガポールに船で通勤してたんだって」
「国際色カオスだな、おまえ」
八十島が顔をしかめる。
「ていうか、今回は金入らねえんじゃねえの? もしかして」
八十島がそう続ける。
「懸賞金だすって言ってたやつの殺人あばいて、さらに殺人未遂くっつけてやったんだからな、おまえ」
「なるほど」
告は腕を組んだ。
「今回はどこから脅しとろう」
「……そのセリフ、調書に書くぞこら」
八十島が眉をよせる。
「どちらに雑談におもむいてお心づけをいただきましょうか」
「まあ、いいんでないの。おまえの場合、ぶっちゃけ毎回ボランティアでもただちには困らないでしょ」
八十島が頬杖をつく。
「困るよ。ドSのメイドさんから探偵なんかやめてしまえとお食事のときに詰られる」
「食事のときなんだ……」
八十島が複雑な表情をした。
「しかし自分が殺害しといて、懸賞金だすって何なんだろうな。偽装?」
八十島がふたたびタブレットをタップする。
「それさぐるのは警察のお仕事じゃん。動機までさぐれって言ったら、やそっちからお金とるよ」
「んじゃいい」
八十島がタブレットを操作した。




