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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【4】口で言えないことは花で言えと言われても、死人に口なしなんですが

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警察署一階 被害者用の事情聴取室 1

 警察署一階、被害者用の事情聴取室。


 クリーム色を基調としたやわらかい雰囲気の小部屋で、(つげる)と友人の八十島(やそしま)刑事は向かい合い多香乃(たかの)が差し入れたカツ丼を食べていた。

「いや、あれだよね」

 告は(はし)で卵に切れ目を入れた。


「警察の事情聴取室で刑事といっしょにカツ丼を食べるって、なかなかない体験だよね」


 告は肉をかじった。

「ふつうはどうなの? 犯人がカツ丼食べてるあいだ、刑事さんたちは食べないで見てるの?」

「つか、いまどき事情聴取中にカツ丼(おご)ってとか言うやついないから」

 八十島がもぐもぐと肉を食む。

「いないんだ」

 告は、タッパーに入れられた大根とキュウリのサラダに箸をのばした。

「んじゃ、僕が犯人として事情聴取を受けたさいには、昭和ノスタルジーとしてカツ丼を要求してあげる」

「何でわざわざ犯罪やる気になってんの、おまえ。やっべえやつだな」

 八十島が顔をしかめる。

「あ、それ、俺もいい?」

 八十島が大根とキュウリのサラダを箸でつまむ。雑に口内にかっこんだ。

「おいしい?」

 告は問うた。

「うまい。さすが本業の人」

「食材選びから優秀だからね、多香乃さん」

 告は答えた。

「あれがドSメイドさんか。もっとおっかなそうな人想像してたわ」

 八十島が言う。

「やさしいよ。助けてくれたでしょ?」


「……大根でいきなり犯人の頭を殴打(おうだ)して、出たセリフが "折れなくてよかったです”ってなかなかサイコ入った性格だけどな」


 八十島が苦笑する。

「知ってる? サイコパスっていちばんフィーリングが合うのがやっぱりサイコパスで、サイコパス同士で結婚しちゃったりするんだって」

 告はカツ丼のご飯を口に運んだ。

「お、おう」

 八十島が鼻白んだ感じで返事をする。

「べつにサイコパスがすべて殺人鬼とかじゃないんだけど、どうしても感情を排除して合理的な考えかたしちゃうから、合理的同士で合うみたいだね」

「おぉ」

 八十島がサラダを口にしながら短く返事をする。

「んで? 何それ」

「べつに。サイコとかいうから思い出しただけ」

 告は、警察署玄関の自販機で買ったほうじ茶を飲んだ。

 おもむろに缶を置いて、多香乃がさしいれて行った紙袋をさぐる。


「デザート出していい? アイス作ってくれたみたい」

 

 告は保冷剤で厳重に包まれたタッパーを取りだした。

「あのあと帰って、よくアイスまで作る時間あったな、メイドさん」

「塩をかけた氷といっしょにシェイクすると、融解(ゆうかい)溶解(ようかい)の相乗効果で三分でできるんだってさ」

「理科の実験聞いてるみてえ……」

 八十島が顔をしかめた。




「はーい。調書とるぞ、調書」


 カツ丼とサラダとアイスを平らげると、八十島が警察署支給のタブレットを手にした。

「ダレきってる感じだなあ。いつもそうなの?」

 告は椅子の背もたれに背をあずけた。

「犯人の取り調べならちがうけどな。相手が知り合いだと気恥ずかしいわ」

 八十島が言う。

「チェンジで」

「できるか」

 八十島が頬杖(ほおづえ)をついた。


「ええと、時間。――発生は十六時三十二分ごろ」


 八十島がタブレットに書きこむ。

「よく時間見てたね」

「そらこういうの書くから見るわ」

 八十島が答える。

「被害者、大海原 告(わたのはら つげる)。職業なに」

「探偵業」

「おまえの場合、会社経営とかでもいいんでないの?」

「おなじ執務室で探偵業もやってますから」

 告は右手をぴょこっと挙げた。


「朝石市片吉のラ・フルール店舗まえの歩道において、四伊 詩織(しい しおり)こと、本名、四伊 竜輝(しい たつき)に」


竜輝(たつき)さんていうんだ」

 告は復唱した。

「おまえの言う通り、思いっきり男だった。こんどは男といっしょに留置されるのは差別だってわめいてる」



「いまのうち対策してたほうがいいと思うよ。あれ犯人だから」



 告は言った。

 八十島が手を止め、目を見開く。

「んあ?」

「元海保でラ・フルール経営者を殺したの、たぶん竜輝さん」

詩織(しおり)じゃねえの?」

 八十島が眉をよせる。

「やそっち、混乱してる?」

「ああ、本名は竜輝か」

 八十島が(ひたい)に手をあてた。


「犯人は男性って刑事課の見方とも合ってるでしょ。元海保の男性を一突きで殺すにはそれなりの力技いるよね」


「動機なに」

「それ調べるのは刑事のお仕事じゃん」

「痴情のもつれ……」

 八十島がタブレットを睨みつける。


「ついでに言うと、彼女は被害者の恋人ではまったくない。むしろ被害者に最後の最後まで拒否されてた」

 

「 ”彼" じゃねえの?」

「いちおう心は女性なんだから彼女って言ってあげようよ」

「あーややこし」

 八十島がきつく眉をよせる。

「んで、どっちから話進めたらいいんだよ」

 そうと続けた。





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