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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【4】口で言えないことは花で言えと言われても、死人に口なしなんですが

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ラ・フルール 店舗前 3



「待ったああ━━、やそっち! こっち来るまえにスマホで撮影!」



 駆けつけようとした八十島(やそしま)に、(つげる)はそう呼びかけた。

 八十島が一瞬立ち止まる。

「え? え」

「傷害の証拠! んで現行犯逮捕! 刑事なのに分かんないの?!」

「お? おう」

 八十島がスーツのポケットからスマホを取り出して、あわてて操作しこちらを撮影する。

「ちょっ! なんで撮るの! ひどい!」

 女性が告の襟首をググッと持ち上げながら声を上げる。


「あたし、大好きな人が殺されたばかりのかわいそうな女性ですよ! なんで撮ってるの、ひどい!」


「……自分で言うな」

 八十島がボソッとつぶやいたのが耳に入る。

 脳内で言っていればいいのに、わざわざ(あお)るようなこと口にしなくてもなあと告は思った。

「ひどい! 人の心も分からないの! 警察って横暴! 捜査もしないでサボってるくせに!」

 女性が告の首を両手でつかむ。グッと力をこめた。

「ちょ! 待て! 傷害どころか殺人未遂だ!」

 八十島が撮影をやめて走りよろうとする。


 

 とたん。横から飛んできた大根の側面が女性の頭部を殴りつけ、女性は真横に首を曲げた。



 首から手が離れ、告は軽く(せき)をする。

「なにをやっているんですか、あなた。殺人ですよ」

 女性のうしろで、ふりおろした野球のバットのように大根をかまえているのは、サマーカーディガンにジーパン姿の多香乃(たかの)だった。

 八十島がこちらに手をのばした格好で固まっている。


「多香乃さん、助かった。ナイスアシスト」

「大根が折れなくてよかったです」


 多香乃が買いもの袋に大根をもどす。

 女性が、殴られた箇所をおさえてじっと下を向いていた。

 むしろ折れないほうが衝撃が大きいのではと推測して、告は横を向いて苦笑する。


四伊(しい)さん、ちょっといまのは。いちおう殺人未遂の現行犯で署まで来ていただけますか」


 八十島が、四伊と呼ばれた女性の手首をつかむ。

「さわんないで! あたし被害者の恋人なの!」

 四伊がわめく。

「いや、こうなると関係ないし」

「セクハラ!」

 四伊が暴れた。八十島が顔をゆがめて四伊の両手首をおさえる。


「ちょっ! 鑑識! だれでもいいから、おさえんの手伝って!」


 八十島が店舗のなかに呼びかける。

 作業をしていた鑑識の人間が顔を見合わせる。若い女性と男性の鑑識員が立ち上がりこちらに駆けつけた。


「女性の細腕で首をしめられて抵抗しないとか。なにか極端なフェミニスト的な主義ですか?」

 多香乃が押さえつけられた四伊の姿を遠目にながめる。

「いや抵抗ムリ」

 告は首をさすった。

「大丈夫か?」

 八十島がこちらに駆けよる。

「いちおうおまえも署に来て。被害者として調書とるから」

 


「あれ男性だし」



 告はそう口にした。

 八十島と多香乃がそれぞれに目を丸くする。

「は?」

「よく見て、腕。細いけど骨格はがっちりしてる」

 八十島が押さえつけられる四伊を凝視した。険しい顔で鑑識の二人を睨みつけていた。

「ああ見えてすごい力。やそっちはこういうことはされなかったの?」

 告は息を吐いた。

「声……高いですけど。ちょっとハスキーですけど」

 多香乃がめずらしくポカンとした顔で四伊を見る。

「裏声だね。慣れててけっこう自然な感じだけど」

 告は答えた。


「多香乃さん、ナイスバッティング」


「……誉められてるんでしょうか」

 多香乃が眉をよせる。

「何? お買いものの帰り?」

 告は尋ねた。

「夕飯の買いものです。きょうは殺人未遂犯の頭を殴った大根と、キュウリの和風サラダでよろしいでしょうか」

「これからやそっちの取り調べ受けるみたいだから、カツ丼といっしょに差し入れて」

 告はそう答えた。

 四伊を押さえつけた鑑識員が、どうしたらいいかという顔で八十島を見る。

「応援呼んだから、ちょっと待って」

 八十島がそう声をかけてからこちらを向いた。

「取り調べじゃなくて事情聞くだけ。何でムリやり犯人になりたいの、おまえ」


 警察車両のサイレンの音が近づく。

「離せ、バカやろう━━!!!!」

 四伊がドスのきいた声で叫ぶ。八十島が「うわっ」と声を上げて引いた。





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