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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【4】口で言えないことは花で言えと言われても、死人に口なしなんですが

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朝石キリスト教会前


「お元気でね、多香乃(たかの)さん」


 朝石キリスト教会まえ。

 軽自動車を駐車場に停めて(つげる)が車を降りると、多香乃はちょうど教会の門のまえで職員に見送られているところだった。

「ときどき寄ってね」

 中年の女性職員がにっこりと笑いかける。

 多香乃の教会事務としての勤務はきょうまでだ。花束を手に職員たちにぺこぺことお辞儀を返している。

 告は、多香乃の背後に近づいた。

「多香乃さん」

「え、あ。お世話に……」

 職員のだれかだと思ったのか、多香乃が愛想笑いをしながらふり向く。



「あしたからフルタイムでよろしくね」



 告は自身の肩幅よりも直径の大きいデンファレの花束を多香乃に手渡した。

 多香乃が、「なぜいる」と言いたげな表情をこちらに向ける。

 三十代ほどの女性職員が告を見る。少しホッとした顔をした。

「多香乃さん、つぎのお仕事決まってたの?」

 おずおずとそう尋ねる。

 

「こんにちは。多香乃さんの(やと)い主の大海原(わたのはら)と申します」


 告は職員たちにそう自己紹介し、お辞儀をした。

「勝手に決め……!」

「雇い主」

 多香乃が声を上げたが、職員たちが顔を見合わせてホッと息をつく。

「よかった。つぎの職場とか聞いていいのかなってずっと思ってて」

 若い女性職員が苦笑いする。

「あたしも。こういうの、なんか聞きにくいから」

 おなじようにべつの女性職員も苦笑した。

「決まってたなら良かった、多香乃さん」

「この近くなの?」

 職員たちが口々に尋ねる。


「いえ、待って。この人の言うことは信じないで」

「この近くです。僕の助手として」


 告は自身を指して愛想よく答えた。

「もしかしてこの近くの大海原さんって、大海原財閥ですかっ?!」

 女性職員の一人が声を上げる。

 ほかの職員たちが目を丸くした。

「……何で近所で名乗るとバレるのかな」

 告はつぶやいた。

「おなじ苗字だからでしょう」

 横で多香乃が(ほお)を引きつらせた。




 職員からもらった花束と、肩幅よりも直径の大きい花束とを持ちながら助手席に座るのはムリだ。

 多香乃がしぶしぶという表情で花束を後部座席に置き、助手席に座る。

 

「でね、やそっちから紹介された今度の事件がさ」

 

 言いながら告は軽自動車を発進させた。

「探偵の仕事なんか手伝うつもりはありません。メイドとしてはひきつづきお仕事させていただきますが」

 多香乃が愛想もなく言う。

「そう言いつつ毎回しっかり手伝ってくれてるじゃん、多香乃さん」

 告はゆるやかにハンドルを回した。

「手伝った覚えはありませんが」

「あ、でさ。タブレットに事件の資料あるからさ、見てもいいよ」

 告は首をわずかにかたむけて座席のあいだに(たて)に置いたタブレットを指した。

 多香乃が無言でこちらを見て顔をしかめたが、言ってもムダだと思ったのかタブレットを取りだす。

「どこですか?」

 ホーム画面を見つめる。

 気味の悪い和風の廃墟を背景に髪の長い女性が這っているホラー系のライブ壁紙だ。

 何か反応があるかと思ったが、多香乃は真顔でながめている。

 ホラーは平気なのか。違うほうがウケたかなと告は内心で思った。


「やそっちからのメール。開いていいよ」


 多香乃が無言でタップする。

 ふたたび無言で画面を見つめた。

「……エロゲがどうのと書いてありますが」

「あ、それじゃない。そのまえのやつ」

 告は答えた。

「やそっち、最近ハマってるエロゲがあるらしくて同僚のスマホに出てその話切りだしたらベテランの刑事さんが通話口に出てあわてたことあるとかって」

「……エロゲって、いわゆる美少女があられもない格好でアーンとかいうやつですか?」

 多香乃が言う。

「まあいろいろあるみたいだけど、だいたいそういうの」

 多香乃が関心もなさそうにタブレット画面をタップする。

「画像、開いてもよろしいですか?」

「開いて」

 告は運転しながら指示した。


「お花をかかえた血まみれの男性の画像が出てきましたが」


「今回の被害者の方」

 告は答えた。

「なんども言ってるじゃありませんか。こういうのは前置きしてからにしてください」

 多香乃が非難めいた口調で言う。

「だって多香乃さん、平気じゃん」

 告はハンドルをゆるやかに切った。





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