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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【3】沈黙する者は安全であるらしいけど、けっきょく殺されていらっしゃる

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警察車両 乗用車内 1

 午後八時。大海原家のもよりの公園。

 昼間は暑くなってきたが、夜はまだ肌寒い。

 (つげる)はスプリングコートから手をだすと、公園の駐車場に停まった警察車両の乗用車のサイドウインドウをノックした。

 サイドウインドウが開く。友人の刑事、八十島 漕太(やそしま そうた)が顔をだす。

 「乗れ」というふうに助手席のほうを(あご)でしゃくる。

 告は車体のまえを通り、助手席に乗りこんだ。


「お土産」


 八十島(やそしま)に紙袋を差しだす。

「ドS姐さんのサンドイッチ?」

「きょうは従業員さんをともなってお食事会だったから、そのお土産のウナギ」

「まじか」

 八十島の顔がほころぶ。

「いいよ。今回もお金入ったし」

「今回は懸賞金ないじゃん」

 八十島が紙袋のなかをさぐる。


瓜生 一葉(うりい いちは)ちゃんの主治医さんに今回のお話をしたら、タクシー代をどうぞって」


 八十島が眉をひそめる。

「タクシーって使ったことないから知らなかった。札束で支払うものなんだね」

 告は車のドアを閉めた。

「もしかして、いま世間はジンバブエ並のインフレなの?」

「んなわけないだろ。どういうこと」

 八十島がガサガサとウナギの御重を取りだしながら問う。

 


「ダイイングメッセージに書かれてたのは、“ウリイ”。瓜生 一葉(うりい いちは)ちゃん」

 


 告はスマホを取りだし、アラビア文字の五十音対応表を表示させた。

「参考資料」

「……おう」

 八十島が顔をゆがめる。

「もがきながらミミズ書いたんじゃなかったのか」

「アラビア文字だよ。ただし日本人の女の子たちが見よう見まねで暗号ごっこに使ってたものだから、こまかい部分は間違えてるけど」

 告はそう説明した。

「わかりやすくローマ字変換すると、ウリイ、もしくはオリエ。ちなみに右から左に読む」

「……お、おう」

 八十島が不可解そうな顔でスマホ画面を見つめる。

「アラビア文字は母音がa、i、uだけだから、イとエ、ウとオはおなじ表記になる。ただしこれに関しては、女の子たちは自分たちでアレンジして使い分けてた。被害者が書いたのは “ウリイ” みたいだ」

瓜生 一葉(うりい いちは)が犯人か。――分かった。少年課に……」

 八十島がスーツのポケットに手を入れ、スマホを取りだした。

 短縮番号をタップしようとする。


「待った。やそっち」


 告はパタパタと手をふって止めた。

「今回もフェイントありなんだけど」

「今回は何のソースの乾き具合だ」

 八十島が問う。



「被害者が書いたのは一葉(いちは)ちゃんの名前だけど、おそらく殺害の犯人は三木 織衣(みき おりえ)ちゃん」



 八十島がスマホを手にこちらを見る。

「――共犯か?」

「うんにゃ。たぶん単独犯。というか、もしかしたら事故かもしんない」

「説明しろ」

 八十島がいったんポケットにスマホをしまう。

 

「ここからは少ないヒントからの推測だから、そのつもりで聞いてほしいんだけど」


 告は言った。

「その少ないヒントでおまえ、瓜生 一葉(うりい いちは)の主治医んとこまでユスリに行ったわけ?」

「失礼だね。怖い目にあったからカウンセリングしてもらおうと病院に行ったら、遠いところを大変だったでしょうってタクシー代を」

「……自分ちの車で行ったんだろ? 病院の駐車場に停めてたんだろ? 体調不良ってわけでもなかったんだろ?」

 八十島が目をすがめる。

「ふしぎだよねえ。靴を履いてる人のもとにシンデレラの王子の使いが行ったみたいな」

「――いい。どうせ立件もできない感じの経緯なんだろ。とりあえず今回の件と主治医とキムチと、メッセージと犯人が違うのを説明しろ」

 八十島がウナギの御重を紙袋にもどす。

「帰って食うわ」

 紙袋を抱きしめるようにしてサイドウインドウ側に身体をあずけた。



「まずキムチっての。むかしとある病院で、患者の血液からメタアンフェタミンが検出されて覚醒剤使用を疑われたって話があって。のちにキムチの成分が体内でメタアンフェタミンに変化することがあると判明したとか何とか」



 八十島が宙を見上げる。

「――ああ、聞いたことある。そういう通報のマニュアルってあったような」

三木 織衣(みき おりえ)ちゃんは、その話を知ってたんだと思う。だから万が一、警察で血液検査を受けるようなことがあったら “キムチを食べてきた” と言えばごまかせると思ったんじゃないかな」

「それでやさしい女性警官さんに、それとなく“キムチを食べてきた”って」

 八十島が眉をひそめる。

「香水は、覚醒剤常習者の独特の体臭をごまかすためたと思う」

「ああー……」

 八十島がサイドウインドウのふちに(ひじ)をついた。

「だれもピンと来ないとか幻滅しちゃうな、警察」

「妙なルートとの関わりもない、周囲に売人の気配すらない女子高生なんてまさかと思うわ」

 八十島が眉根をよせる。

「んで? 手に入れたのどんなルートだ」

 八十島が吐き捨てた。



 


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