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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【3】沈黙する者は安全であるらしいけど、けっきょく殺されていらっしゃる

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朝石キリスト教会

 朝石キリスト教会。

 (つげる)は、シンプルな下駄箱と受付の小窓があるだけの殺風景な玄関口を入り、ガラスドアの向こうの礼拝堂をうかがった。

 多香乃(たかの)の退勤時間をねらってきたのだが、まだ仕事が終わらないのだろうか。


 親に連れられてきたらしい三歳ほどの幼女が、ガラスドアにピッタリとくっついてこちらを見る。


 ガラスに顔をつけ、ぐにゅっと頬をゆがませた。

 ウケてほしいんだろうか。

「おもしろい。めっちゃおもしろい」

 告は、ガラスドアに顔を近づけてそう言った。

「なにしてんの?」

 幼女が甲高い声で問う。

「探偵さんしてる」

 告は答えた。

「おもしろい?」

「いまのところ幼稚園よりはおもしろい」

 告が答えると、幼女はガラスドア越しに無意味に跳ねた。

 ハーフツインにした黒髪がバサバサ上下する。

「あたしねっ、来年から幼稚園っ」

「そうなんだ。僕は卒業生なんだけど」

 告はスプリングコートのポケットに手を入れた。

「幼稚園おもしろい?」

 幼女が問う。

「どうだったかな。卒業したのだいぶむかしだから」

 告は首をかしげた。

「当時のお遊戯(ゆうぎ)のヒット曲とかいまと違うだろうし」

「おゆぎ、なにやってたの?」

「お魚とかだんごとか、黒田節とか白虎隊とか」

「びゃこたってなに?」

「山からお城見たお兄さんたち」

「むかし?」

 幼女が目を丸くする。

「むかし」

 告は答えた。

「どんくらい?」

「恐竜いたくらい」

「ゴジラいた?」

「いたんじゃない?」

 礼拝堂の一角にあるスタッフ通用口のドアが開く。

 通勤用のバッグを肩にかけた多香乃が出てきた。


「多香乃さーん」


 告はガラスドア越しに手を振った。

「たかのさーん」

 幼女が真似して手を振る。

 多香乃が眉をひそめた。つかつかと早足でこちらに歩みよる。

「事案じゃないですか」

 いきなり幼女を背後に(かば)った。


「失礼だね。新旧のお遊戯のヒット曲と黒田武士がみなみの鶴ヶ城をのぞんだ場合にゴジラが見えたかどうかの考察をしてただけだよ」

「……なに言ってるんです」


「くろだが、みなみのつるがじょでゴジラみただけだよ」

「変な影響受けてるじゃないですか!」


 多香乃が幼女を指す。

「多香乃さんがなかなか出てこないからぁ」

 告は眉をよせた。

「なんでわたしが関係あるんです」

「今回の事件って、関係者が女子高生だらけじゃん」

 告は顔をしかめた。

「一人で周辺調べてたらそれこそ事案だからさ。同行して」




「サン鳥居ブレンドのPOSS(ポス)と、スリーイレブンの天使のおにぎり、さんチキです」

「ありがとう」

 

 告が乗ってきた軽自動車の車内。

 助手席側のドアを開けた多香乃から買い物袋を受けとる。

 途中のコンビニで多香乃に軽く食事するものを買ってきてもらった。

 多香乃がものすごく嫌そうな顔で助手席に座る。

「コンビニって学生時代にやそっちに連れこまれて以来かな。いまって夕飯のおかずのレトルトまであるんだ」

 告は買い物袋をさぐった。

「なん年前ですかね、扱うようになったの。そのころCMやってたの覚えてますけど」

「ビニール袋、ずいぶんしっかりしたものになったね。いちいちこんな布製のものくれるの?」

「それはわたしの買い物袋です。ちゃんと返してください」

 多香乃が言う。

 告は、目を丸くして多香乃の顔を見た。

 多香乃が不可解そうな表情をする。

「……いまはビニール袋は有料なので、買い物袋を持参するのがふつうです」

 告はサイドウインドウ側に身体を引いた。


「うそっ、いつから?!」

「過去からきたタイムトラベラーですか、あなた」


 多香乃が眉根をよせる。

「二、三年まえからですが」

「ああ……企業の社長秘書やってて、あんまり一般道歩かなかったころか」

 告は宙を見上げた。

「……こんな程度の一般常識しらなくて社長秘書って務まるんですか?」

 多香乃が顔をしかめた。

 買い物袋に手を突っこみ、おにぎりとお茶の缶をとる。

「なので、わたしの分も入れさせていただいたので」

「あ、いっしょに食べる?」

 告はうきうきと尋ねた。

 多香乃がおにぎりとお茶を手に無言でこちらを見る。


「あとにさせていただきます」


 そう言って(から)になった買い物袋を告から奪いとると、おにぎりとお茶を中に戻した。





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