大海原家食堂広間 1
大海原家の食堂広間。
朝のうすい陽光が大きな窓から射しこむ。
ダークブラウンを基調とした室内をやわらかく照らした。
「被害者は、大嶋 葵ちゃん、十七歳、市内の高校二年生。駅の横のコミュニティ施設まえで腹を複数回刺されて死亡しているところを、早朝マラソンしていた九十代のご夫婦がみつけて通報」
友人の八十島刑事から送信してもらった資料を告は読み上げた。
カートに炊飯器と味噌汁のナベと朝食のおかずを乗せて運ぶ多香乃が、長テーブル横でピタリと止まる。
「九十代……」
ふくざつな表情でつぶやく。
「お元気だよねー」
告はそう返した。
「いえ、問題そこですか?」
多香乃が顔をしかめる。
「多香乃さんがツッコんだんじゃん」
朝食のアジの塩焼きを箸で分ける。
魚肉を食みながら、告はかたわらに置いたタブレットをスクロールした。
「前回の事件のとき、あとから資料いろいろ頼んだでしょ。今回はやそっちができる限りの資料をさきに送ってくれた」
告はタブレットを立て、事件現場の画像を多香乃に見せつけた。
「持つべきものは、いそがしくていちいち対応してる時間のない友だちだよねー」
「ものすごい異次元の友情ですね」
多香乃が答える。
「多香乃さん、気づいたことがあれば何なりと」
告は被害者の画像を拡大した。
「お言葉ですが、お食事中にタブレットをスクロールとかお行儀が悪いのでは?」
「それは許して。けっこう時間に追われてるから、僕」
告は答えた。
「よそではぜったいやらないよ。ほんと」
告は笑いかけた。
多香乃がため息をついてタブレット画面を見る。
「制服、染みになってますね」
そうポソっと言う。
「そりゃ刺殺されたら血痕で汚れてるでしょ」
「血ではなくて、ブレザーの少し変色してるやつです」
告は、自身のほうにタブレット画面を向けた。
まじまじと見るが、紺色のブレザーには血痕以外の汚れは見あたらない。
「どれ?」
画面を拡大して問う。
「袖です」
多香乃がそう答えるが、まったく分からない。
「被害にあったときについたものかな」
「さあ」
多香乃がそう返す。
「ていうかさ、こっちどう思う? 多香乃さん」
告は被害者の手元を拡大させた。
駅のそばのコミュニティ施設まえ。植えこみからレンガの敷きつめられた通路に身を乗りだすようにして倒れた少女の手元に、ピンクのマジックペンで「ئيريؤو」と記されている。
「ダイイングメッセージかどうかで、やそっちと意見割れたんだけど」
多香乃が、かがんでまじまじと見る。
「ただペンを持ってもがいただけに一票」
「やそっちとおなじチームか」
告は味海苔の袋を開けた。ふっくらと炊けたコシヒカリに乗せる。
「では犯人はホニャララ99さん」
多香乃が言う。
「殺害される直前まで被害者と会っていたのは、すべておなじ学校の生徒で、瓜生 一葉ちゃん、三木 織衣ちゃん、九十九 結ちゃん、栗田 香音ちゃん、入江 詩乃ちゃん」
「早朝にそんなに会ってたんですか?」
多香乃が眉をよせる。
「前日に塾を出たまま行方が分からなくなってたから、正確には塾に出た夜の十時ごろから早朝にかけてかな。一葉ちゃんと織衣ちゃんはいっしょに塾を出たって話だけど、そのあと別れたって」
「変質者では?」
多香乃がさらにきつく眉をよせた。
「着衣に乱れも汚れもない。いちおう刑事課では可能性は低いだろうって言ってるってさ」
告は言った。
「だからこそ、これがもしダイイングメッセージなら解いてほしいって話なんだけど」
「……ちなみに今回の懸賞金は」
「あ、今回はない」
告は答えた。
「ではお断りするのをおすすめします」
多香乃がきびすを返す。カートを押して食堂広間の出入口に向かった。
「おつき合いってもんがあるじゃん? 商売するには大切だよ。多香乃さん」
「経営をする気も経営者になる気もありませんし、なんなら企業の営業課に就職する気もありませんので」
多香乃がドアのまえで一礼する。
「教会の出勤時間ですので、失礼します」




