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メイドの土産 〜ボンボン探偵✕毒舌メイドの事件簿〜  作者: 路明(ロア)
【2】夜は助言を運ぶのだから永遠に寝ていてください

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警察車両 乗用車内


「事務員・小野 多香乃(おの たかの)が英会話教室イングリッシュ工房の門から出てきたところ、フリーライター楠木 湊(くすき みなと)こと二木 南人(にき みなと)が小野 多香乃に先日のインタビューの内容を確認したいと声をかけた」

 

 警察車両の乗用車内。

 警らをしていた初動捜査班の少しあとから駆けつけてくれた八十島 漕太(やそしま そうた)刑事は、警察車両内でタブレットのメモを確認した。


「原稿は編集部にあるのでそちらまで来てほしいと言われたが、このあとでべつのアルバイトがあるので同・小野 多香乃が迷っていたところ、雇い主の大海原 告(わたのはら つげる)にバッタリと会い……」


 八十島(やそしま)は、タブレットのメモをじっと見つめた。

「バッタリと……なのか? そう都合よく目ぇつけてた犯人と遭遇するかあ?」

「執事の大江(おおえ)さんが教えてくれたんだよね。犯人がここのところ多香乃さんをつけ回してるって」

 告は答えた。

 初動捜査班の車両では、多香乃が事情を聞かれている。

 さきほどべつの車両が来て、楠木(くすき)は任意同行されて行った。



「いきなり “桜色の口紅” って聞いちゃったからなあ」



 告は助手席のシートに背中をあずけた。

「あ、多香乃さんの夕方からの業務がアルバイトあつかいって訂正して。こっちが本業」

「本人が大海原(わたのはら)家のメイドは時給制のアルバイトって話してんだよ」

 八十島が答える。

「教会の産休の人が戻ってきたらどうするんだろ」

 告はつぶやいた。


「――続けるぞ。雇い主の大海原 告(わたのはら つげる)にバッタリと会い、同・大海原 告が近づいたところ楠木 湊(くすき みなと)ことフリーライターの二木 南人(にき みなと)が同・小野 多香乃の首を拘束して刃物をつきつけ、大海原 告に “私服警官か” と質問……」


「クッドい文章だなあ。もうちょっと省略できない?」

「こんなもんなんだよ」

 八十島が眉をよせる。

「三行でいいじゃん。刃物で拘束、犯人逮捕、めでたしめでたし」

「途中を思いっきり端折(はしょ)るな。めでたしめでたしはいらね」

 八十島が答える。

「いっぺん、めでたしめでたしって書いてみたら? 警察内の空気があかるく変わるかも」

「それよりあのダイイングメッセージから犯人にたどりついた経緯話せ」



「バツ、丸、点、棒。あーこれ ”くすき“ って書いてんじゃん、以上」



端折(はしょ)るな」

 八十島が眉をよせる。

 タブレットをスクロールすると、事件現場の画像を表示させた。

 被害者の手元には桜色の口紅で「✕○、|」。


「バツ、丸、点、棒じゃないよ。これはエックス、キュー、アイ」


 八十島が顔をしかめる。 

 告は手を伸ばしてタブレットのバックキーをタップすると、ムリやりメモ機能を開いて「XQI」と書いた。

「勝手に開けるな。支給のタブレットなんだからさ」


「たぶん意識朦朧(いしきもうろう)で書いたから、Qの点が少しズレてるんだよね。よく見ると書き出しがちゃんと丸に入ってる」

 

 告はメモ機能を閉じてもういちど現場の画像を表示させた。

「だから勝手にやるなって」

 八十島が(とが)める。


「エックスは、無声と “シ” の発音と “クス” の発音と言語によっていろいろだから迷ったけど、関係者に当てはめていったら二木 南人(にき みなと)氏のペンネームが楠木 湊(くすき みなと)って資料にあるから」


 告は説明した。

 

「被害者は、フリーライターの楠木 湊(くすき みなと)氏にエッセイやコラムなんかで商品の宣伝をしてもらってた。だからたぶん、本名よりペンネームのほうがなじんでた可能性もあるなって」

 告はダイイングメッセージの部分を拡大した。


「イタリア語的に読むと、Xは “クス” 。イタリア語にXはないけど、まれにCSの発音にあてることがある。Q、Iは、イタリア語ではKがなくて代わりにQを使うことがあるので、ローマ字でいうK、I」

 八十島が画像を見つめる。


「つまり “クス”、“キ”」

 

 八十島がこちらを見る。

「……今回はそれで確定か?」

「前回はごめんね、フェイントかけて」

 告はそう返した。

「僕もすんなり分かってこれでいいのかなと思って、いろいろ疑ってみたんだけど。とくに口紅」

 告は言った。


「リップパレットに桜色があるのにスティック持ち歩くかなとか、ワインレッドの口紅つけて出かけようとした人が桜色のスティックまで持ち歩くかなとか」


 八十島がべつの警察車両を見る。

 多香乃が事情聴取を終えたようだ。

「だからはじめは女性の犯行を疑ったよ。あのダイイングメッセージは偽装じゃないかって」

 多香乃がこちらを見る。

 まだ事情聴取中なのかという感じの顔をした。


「ところが女性の重要参考人にあやしそうな要素はどうにもない。逆に犯人の楠木(くすき)氏が、取材のさいにおなじ色の口紅の試供品をもらってたことが分かって」


 八十島がタブレットを自身のほうにかたむけ、表示されたダイイングメッセージを見る。


「たぶんだけど犯人は、女性の犯行に見せかけようとしてあの口紅を現場に落とした。そのあと一時的に意識をとりもどした被害者が、目の前に落ちてた口紅で楠木の名を書いたんじゃないかと」


 八十島がじっとタブレット画面を見つめた。


「推測だから物的証拠はそっちでやって。動機もね。事件解決につながったら、遺族への連絡よろしく」

 告はそう続けた。





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